「バブルは終わったあとで、バブルだったとわかる」と言われるが、崩壊前に把握することは可能か。例えば、新聞の折り込みチラシを見るだけでも市況はわかる。各種情報、データから認識できる市況のつかみ方について、『不動産バブル 静かな崩壊』(幸田昌則著)から抜粋・再構成して解説する。

バブルの最中に、バブルを認識する

 第2次安倍晋三政権誕生後、異次元の金融緩和政策と超低金利によって、日本ではバブルが膨らんでいった。しかし、現在でも「不動産市場はバブルである」と認識している人は少ない。

 「住宅や土地の価格が高くなっている」という程度の認識をする人は、3大都市圏や地方中核都市では多くなってきている。しかし、実態はまぎれもなくバブルである。

 「バブルは終わったあとで、あの時がバブルだったことがわかる」と言われる。真っただ中にいる時にバブルを認識するのは難しい。

 しかし経済の専門家でなくても、「バブル期とその崩壊」について知ることは容易にできる。ただし、少しだけアンテナと観察眼を持つ必要はある。

 新聞折り込みの不動産チラシを見るだけでも状況をつかめる。2023年9月の不動産広告のチラシが、東京都港区の私のオフィスにある。その内容の一部を見ると、

(1)港区の麻布 37㎡ 価格は8900万円
(2)渋谷区の恵比寿 67㎡ 価格は2億2800万円
(3)港区の青山 85㎡ 価格は3億5000万円
(4)港区の元麻布 136㎡ 価格は7億7000万円

 いずれも中古マンションであるが、(1)のマンションは6×6メートルの広さである。この価格に値するかどうかは、立地・眺望・環境による購入者の主観的判断になる。だが、普通の感覚では、利回りで見る限り、「バブル期」の価格と考えるはずである。

 このような広告は以前には見なかった。物件が売れないからこそ、チラシが配られたのである。価格でバブルを知り、増えてくる広告でバブルの崩壊を誰でも察知できる。

バブルの終末現象が見られるように

 休日に街中を散歩しても、市場の変化がわかる。この10年間、いたるところで新築の建売住宅が販売されてきたが、最近では、建築竣工後、数カ月経過しても売れ残っている現場をよく見かける。価格はバブル前に比して2、3割高くなっている。

 また、新築マンションについても、竣工後、2、3年たっても「好評販売中」「棟内モデルルーム見学できます」という垂れ幕が街中で増加している。

新築住宅が大量供給され、竣工後しばらくたっても売れ残る物件が増えてきた(写真はイメージ)(写真moonrise/stock.adobe.com)
新築住宅が大量供給され、竣工後しばらくたっても売れ残る物件が増えてきた(写真はイメージ)(写真moonrise/stock.adobe.com)
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 デベロッパーのホームページを見ても、多くのマンションや建売住宅の完成物件が増加しており、「新価格」と表示して値下げをしている。これらの現象を見ていれば、市況の過熱感が少しずつ冷めて、変化していることが理解できる。

 不動産業界内の動きを見ても、バブル崩壊がすでに始まっている。

 これまでは、不動産業者に対しては、「いい物件があったら、すぐに連絡して下さい。買い取りします」という電話やファックスが頻繁にあった。

 だが現在では、「売り物件のリストを送りますから、買い手を紹介して下さい」といった内容に、要望の内容が変わってきた。

 さらに、過去2回のバブルの終末期に見られた現象が、再び見られるようになっている。

 バブル期は不動産「業者間」の取引は活発に行われるが、終末期を迎えると、業者間の取引が急速に減少していくのだ。すでに、その現象が全国各地で見られるようになってきた。

 これらの事象を見聞すると、今回の不動産バブルが消えつつあると知ることができる。「バブルは終わったあとで、あの時がバブルだったことがわかる」のではなく、バブル期にあっても、その崩壊については、日常生活の中で誰でも察知できる。

 地域や分野による差異はあるが、不動産バブルの崩壊が、静かに、緩やかに始まっている。

家賃の上昇はないが、価格は上昇した

 日本経済はインフレに転換した。2023年には、各種物価の上昇が激しくなっている。しかし、住宅・店舗・オフィスの賃料の目立った上昇はまだ見られず、弱含みになっている。

 一部の地域や賃貸住宅のオーナーからは、電気料金・リフォーム・修繕費の値上げがあり、「家賃を上げて欲しい」との要望も出ているが、需給関係から、実現は難しい状況にある。

 さて、日本の住宅価格は、この十数年間、一貫して上昇してきたが、図表1で示されているように、家賃の上昇はまったく見られなかった。

(出所)『不動産バブル 静かな崩壊』
(出所)『不動産バブル 静かな崩壊』
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 つまり家賃の上昇はなく、収益性の向上はなかったにもかかわらず、住宅価格や住宅地価は高騰するという歪(ゆが)んだ現象が、十数年間も続いてきた。

 本来は、収益性が向上することで不動産の価値が高まり、取引価格が上昇する。しかし、ここまで家賃の値上がりはなく、価格が上昇し、利回りは低くなった。それでも、超々低金利時代だったため、住宅価格は高値圏での取引が続いてきた。

 直近のマンション(新築・中古)の価格は、一般の人の購買力を大幅に上回って、顧客がついて来られなくなった。この状況は、バブル期にあることを示しているが、2022年秋頃から不動産バブルが崩壊の過程に入ったことを示すいくつかの指標が、各地域でも見られるようになった。

 次に、「在庫件数」から見る大変化の兆候は、まず「新築戸建て」の在庫件数を確認しよう。2大都市圏では共に2021年の夏頃まで、コロナ禍によって「住宅特需」が生まれた。その結果、需給が逼迫し、市場では一気に品不足となり、在庫は急減した。都心部から郊外、狭いマンションより広い戸建て住宅を求める人が多く、新築戸建ては飛ぶように売れていった。

 しかし、その後、需要の急速な拡大に対応して、分譲業者による大量供給が続いたことに加え、インフレによる価格の急騰で売れ行きが悪化し、在庫が増加に転じた。

 2023年の年初から売れ残りが顕著となって、分譲業者の値下げ処分が3月期末に向けて活発に行われたが、その後も在庫数は増加傾向が続いている。この状況は、地域によって時間差はあるが、今では、全国各地で見られる現象となっている(図表2)。

(出所)『不動産バブル 静かな崩壊』
(出所)『不動産バブル 静かな崩壊』
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 次に、新築マンションの在庫状況を見ると、個別物件ごとに売れ行きに大きな差異があり、売れるマンションと売れないマンションの差異が鮮明になっている。

 しかし、市場全体における完成在庫の比率は、2大都市圏で見る限り、上昇に転じている。完成在庫の中で、2年、3年と長期に滞留しているマンションも珍しくない。金利水準がゼロに近いこともあって、新築戸建てと違って、マンションデベロッパーが表立って値引き処分をする動きは少ないが、その動きはこれからと言える。

 中古流通市場における中古マンションと流通戸建て住宅(中古戸建てが中心)の売り出し中の物件(在庫)の推移を見ると、新築と同様に、2021年を底にして、その後は増加傾向が強まっている。さらに、地域差はあるが、インフレの進行で家計が圧迫されている地域では、購買意欲が低下して取引が低迷し、在庫が急増している。

 明らかな市況の大変化がすでに始まっている。

どこの何が、どう下落するのか――

異次元の金融緩和と超低金利が生み出した、最大にして最長の不動産バブルは、皮肉にもインフレによって終焉(しゅうえん)の時を迎えた。地域や資産により格差は広がり、価格下落は一様ではない。この現実に私たちはどう向き合うべきなのか。豊富なデータからわかりやすく読み解く。

幸田昌則著/日本経済新聞出版/1870円(税込み)