最大・最長の不動産バブルを演出した異次元の超低金利などの金融政策が、インフレ時代となり、大きく変わろうとしている。「金利のある世界」の到来は目前に迫り、すでに不動産関連の金融引き締めは始まっている。その実態を『不動産バブル 静かな崩壊』(幸田昌則著)から抜粋・再構成して解説する。

いつも変わらぬ地価の押し下げ要因

 超低金利が住宅・不動産価格を押し上げ、異次元の金融緩和が住宅・ビルなどの大量供給を促進させるエンジンとなった。

 新規に供給されたのは、ホテル・賃貸マンション・賃貸アパート・分譲マンション・戸建て住宅など、挙げればきりがない。

 また、「住宅特需」も生まれた。この特需によって、住宅地の需要が一気に強まり、住宅用地の不足、そして住宅の販売価格が高騰してしまった。

 いずれにせよデフレ下であったにもかかわらず、地価は上昇し続けて、人々の購買力を超える水準にまで達した。これはバブルである。

 これから、不動産市場が新しいステージに移ることは確実で、その転機となるのはインフレである。インフレによって建設資材が値上がりし、それまで高騰してきた土地の価格を押し下げる。

 いつの時代にあっても、金利の上昇に加え、資材の高騰や人件費の高騰は、「地価の押し下げ」要因となる。

固定と変動の住宅ローンが抱えるリスク

 インフレによって、不動産市場では、新規の供給が先細りになっていくことが想定される。さらに、住宅・不動産全体の市況は、人口や世帯数・雇用数の増減など、各種の要因によって変わるが、「金融」に大きく左右される。

 今後、日本の金融政策の変化、具体的には「金利の引き上げ」のタイミングと引き上げ幅がどのくらいになるのかによって、市況の動きは大きく違ってくる。

 金融政策について確かに言えるのは、日本では、これ以上の金利の引き下げも金融緩和もないということだ。今後は、「金利のない時代」から「金利のある時代」への転換を想定しておく必要がある。

すでにマイナス金利政策を解除した日本銀行、次はどのような政策を打ち出してくるのか(写真:健太 上田/stock.adobe.com)
すでにマイナス金利政策を解除した日本銀行、次はどのような政策を打ち出してくるのか(写真:健太 上田/stock.adobe.com)
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 金利が引き上げられた場合には、住宅市況はどうなるのか。すでに住宅ローンの金利が上昇している欧米の例を見てみよう。

 米国ではFRB(米連邦準備理事会)の利上げによって、現在(2023年)、30年固定型の住宅ローン金利は7%を超えている。だが、米国の借り手の約9割が長期固定型のローンを選択しているため、すでに住宅を購入している人は、利払いの増加を負担することはない。

 そして、金利が上昇する以前に住宅ローンを組んでいた人にとって、高金利となった現在、負担する金利が上がってしまうため、自宅を売却して「住み替え」をする動機は生まれない。

 その結果、住宅流通市場の中古住宅の在庫は減少して品不足となり、住宅価格を下支えする構図になっている。過去に、高金利によって苦い経験をしてきた米国民の知恵とも言える。

変動型ローンに偏重していた日本

 ヨーロッパでは、中央銀行の金利引き上げによって、変動型住宅ローンを選択した人の金利負担が一気に重くなっている面もある。

 インフレで生活支出が増加しているところに、金利負担増が加わり、自宅を手放す人も多くなっている。すると市場の在庫は増加し、今後、住宅価格の下落は避けられない。米国とは対照的な住宅市況となっている。

 固定型の住宅ローンと変動型の住宅ローンのどちらを選ぶか、その選択が金利の上昇局面で、人々、国の経済の明暗を分けた、ということになる。

 日本では、変動型の住宅ローンを選択する人は、新規契約では7~8割近くである。過去最低水準の金利で、相対的に金利の高い固定型を選択する人は少数派だった。2022年から、日本では固定金利が上昇傾向に転じており、現在、変動型ローンを選択する人が一段と多くなっている。

 今後、金利の上昇局面に転じると、変動型ローンを組んだ人の負担は重くなる。さらに日本の不動産市場全体だけでなく、経済全体にも多大な影響が及ぶリスクが懸念される。

 今後、日本銀行が金融政策を変更しても、変動型の住宅ローン金利が急上昇するとは限らないが、政策金利がプラス圏になれば、短期プライムレートの上昇を通じて、変動型にも影響は及んでくる。

 変動型に偏重している日本の住宅市場に危うさがあることは、認識しておかねばならない。

不動産業界の金融引き締めは始まっている

 アベノミクス以降、金融機関全体で100兆円を超える資金を不動産事業者に貸し出したと思われる。大手不動産会社には、数兆円に及ぶ借入金がある会社もある。極めて低い金利による借り入れである。

 しかし、2022年秋以降、金融機関の中には、超低金利ではあるものの、少しずつ金利を引き上げるだけでなく、融資をする際に、融資額の2%、3%の手数料を取る例が増えている。さらに、融資対象の不動産の担保評価は、2023年は一段と厳しく(低く見積もるように)なっている。融資姿勢に変化の兆しが出ている。

 同時に、不動産事業者への「選別融資」が鮮明になっている。

 また、投資物件への融資についても、高額所得者・資産家には、従来までと同じように積極的な融資姿勢が続いているが、「サラリーマン投資家」への融資はほぼゼロとなっている。

 いずれにせよ、以前までの「誰にでも、いくらでも貸す」という異常な融資姿勢は、現在ではなくなっている。

 このように、不動産取引の現場では、金融の引き締めが始まっている。金融機関も、すでに不動産バブル崩壊が近づきつつあることを懸念し、リスク回避に動き始めているようだ。

どこの何が、どう下落するのか――

異次元の金融緩和と超低金利が生み出した、最大にして最長の不動産バブルは、皮肉にもインフレによって終焉(しゅうえん)の時を迎えた。地域や資産により格差は広がり、価格下落は一様ではない。この現実に私たちはどう向き合うべきなのか。豊富なデータからわかりやすく読み解く。

幸田昌則著/日本経済新聞出版/1870円(税込み)