仕事の悩みを解消する、もっとラクに楽しく生きる、視野を広げる―。「教養」と「学び」が人生に与える効果は計り知れません。日経Woman別冊 『私たちの「勉強&教養」大作戦』 では、働きながら教養を身に付けた方にお話をうかがいました。今回は独立研修者・著作家の山口周さんです。
教養は人を洞察する力。悩んだときの武器になる
「教養、つまりリベラルアーツは基本的に『人についての学問』です」と言う著作家の山口周さん。ビジネスでやり取りするのも、顧客や上司、部下、取引先など、すべてが人。そのため、人について深く洞察する力は仕事の武器になる。「リベラルアーツは文学や哲学、歴史・政治史、宗教、人類学・社会学、心理学・脳科学、医学・生物学など多方面にわたる学びであり、局面によって、異なる領域が役に立ちます」
独立研修者、著作家
例えば、ビジネスで複雑な状況を伝えるには、比喩をうまく使うことが成功の鍵になる。「比喩を最も学べるのは詩です。相手の心を揺り動かす語彙や表現力も学ぶことができます」
また、組織作りは歴史からヒントを得ることも。「通信手段のない時代から全世界に支部を作ったローマカトリック教会は歴史上、最も成功した組織。そのグローバルマネジメントが成功した要因は、聖書という唯一のテキストを行動原理としたから。このように考えると、歴史や宗教から組織運営の概念を自分で導きだすことができるのです」
しかし、本を読んで知識を得るだけでは、“使える教養”にはならない。「情報を知っているだけの単なる『物知り』では、AI時代には需要のない人材になってしまいます。教養を自分の知恵やスキルとして使いこなしていくには、情報の解像度を上げて、知識を抽象化しておくことが最も重要なのです」
例えば昆虫の本を読んで、「アリ塚を守るために一定の割合で働かないアリが存在する」という事実を知ったら、これを「稼働率が高すぎるとかえって生存率が落ちる」という言葉に転換する。「この抽象化のプロセスを経ることで、生物学の知識でビジネスを語ることができます。知識が使える知恵となり、自分だけの固有のスキルになるのです」
働く女性の教養・学びのヒント
リベラルアーツの本は読んだ内容を抽象化する
本を読んで得た事実や理論から細かい要素は捨てて、本質的なものだけを抽出して抽象化する。そこから導出される示唆や洞察、自分なりの仮説をノートに書き留めておく。
教養を磨く! 山口 周さん Select本
『楽園への道』(マリオ・バルガス=リョサ 著/田村さと子 訳/河出書房新社)
ゴーギャンとその祖母で革命家のフローラ・トリスタン。世代の異なる2人の反逆者の生涯を描く不思議で見事な伝記。「生きるに値すること」が欠乏した今こそ読みたい。
『怠惰への讃歌』(バートランド・ラッセル 著/堀秀彦・柿村俊 訳/平凡社)
「現代人は働きすぎている」と説いた数学者にして哲学者のラッセル。しかし、「怠惰」であることが難しいのは「教養がないから」という指摘。怠惰への認識が変わる一冊。
『コンチキ号漂流記』(トール ハイエルダール 著/神宮輝夫 訳/偕成社)
「ポリネシア人は南米からイカダで来た」という仮説を証明すべく、イカダで出航した著者。死と隣り合わせの冒険なのに、多くの人を集めたリーダーシップも示唆に富む。
山口周さんに4つのQ!
Q. 身近にいる、「教養がある」と思う人は?
A. 85歳の父
「父は元銀行員ですが、食卓でいきなりシェイクスピアのセリフについて語るような人。海外文学は原書で読むのを習慣にしていて。子どもながらに、本を読むのは当たり前だという刺激を受けました」
Q. 今まで、「教養がほしい」と思った場面はある?
A. たくさんあります
「電通時代もコンサルタント時代も、同僚や上司に教養のある人が多かった。忙しくても勉強を続ける姿を見て、上には上がいると実感。まだまだ、富士山の3合目から頂上を眺めている感覚です(笑)」
Q. 学び続けるためのコツは?
A. 「必読本」でも合わなかったらやめる
「本は、自分にジャストフィットするタイミングがあります。『読むべき』と言われた本にこだわるのはNG。最初の10ページを読んでピンとこなければ、1度棚に戻していいと思います」
Q. 最近はどんな本を読んでいる?
A. 小説から歴史書まで、100冊くらい
「読書は小説から歴史書、数学、工学、心理、哲学まで多岐にわたります。僕の読み方はちょっと特殊で、1冊を読み切って次に行くのではなく、100冊くらいを同時進行で読んでいます」
日経Woman編/日経BP/1,320円(税込み)
取材・文/竹下順子


