目的達成のために最適な空間デザインをどう考えるか――。書籍『 結果を出す空間デザイン マーケティング理論や心理学が握る成功の秘訣 』では、「集客」や「長期利用」といった目的を果たすために、空間デザインに「マーケティング」の手法を取り入れて結果を出した実例を中心に紹介しています。本特集では書籍から抜粋し、筆者が手掛けたドローンスクール運営会社・ハミングバードにおける店舗の空間デザインの事例を示します。第1回では、同社が徹底した自己分析と、他社との差別化について紹介します。

POINT
  • 1店舗の取り組みの横展開で、6年で売上高が10倍に
  • スクールだけでなく、店舗やラウンジも兼ねる空間が強みに
  • 「4P3C」や「AIDMA理論」の手法を取り入れた施設計画

 「ドローン」という言葉を聞いたことがない人はもうほとんどいないでしょう。言うまでもなく、ドローンとは遠隔操作や自動操縦を用いて無人で飛ぶ航空機です。UAVとも呼ばれています。ドローンの機体自体が安価で、人が乗る航空機などと比べて操縦も簡単なので、上空からの撮影が低コストで実施できるようになりました。その結果、テレビやインターネットでは、上空から縦横無尽に撮影した映像が数多く放映・配信されています。ドローンを利用した映像は、既に皆さんの生活に浸透しているのです。

(写真:west_photo/stock.adobe.com)
(写真:west_photo/stock.adobe.com)

 空撮以外にも、ドローンによる配送サービスや農薬の散布など、セスナやヘリコプターに代わる手軽なサービスとして役立っています。さらに、空中での3次元的な動きが人々を魅了するドローンレースや花火を思わせるドローンショーなど、エンターテインメント(エンタメ)分野にも進出しています。

 多分野で利用が進むドローンですが、一定の重さ以上の機体運行には航空法が適用されます。また、業務などで活用する場合には操縦するための資格が必要となり、国家資格も存在します。そのため、ドローンの操縦技術などを習得するためにスクールに通う人が増えてきました。自動車の運転免許を取るための教習所のようなイメージです。

ドローンスクールで急成長

 ドローンの操縦技能の将来性は高く、順調に有資格者数を増やしています。2022年に始まった国家資格「無人航空機操縦者技能証明」の取得者(以下、無人航空機操縦士)は、2025年時点で一等、二等を合わせて約2万3000人に達しています。資格取得者の拡大では、東京・台場に立地していた商業施設「ヴィーナスフォート」内で2018年にオープンした「ドローンスクールお台場」も一役買っています。ハミングバードが運営するドローンスクール東京が施主となり、AGI designがブランディングと建築設計を担当して事業を進めてきました。

 このスクールはハミングバードの急成長の原点となりました。ドローンスクールお台場の開設からわずか5年で、同社傘下の店舗数は10にまで増加。売上高も5000万円(2019年9月期)から5億円(2025年9月期)と10倍に増えるなど急成長を成し遂げました。

 それではなぜ、短期間のうちにこれほどの成長を遂げたのでしょうか。もちろん、種も仕掛けも存在します。たった1店舗から始めたドローンスクールですが、その1店舗目からAGI designとともにブランディングや店舗計画を練り上げることによって、フランチャイズ(FC)化できるようになったからです。ここからは、そんな成功に至った経緯を紹介していきましょう。

「4P3C」分析で利用者と自己を徹底分析

 ハミングバードのドローンスクールが成功した最大の理由は、しっかりした自己分析と、他社との差別化にあります。

 自己分析や差別化の基本となったのが、「4P3C」という言葉で表現されるマーケティング手法です。マーケティングや経営を担う実務者であれば、この言葉を「知っている」と答える人は多いでしょう。ところが、私のような建築設計者にとっては、あまりなじみのない言葉でした。ここではまず、その用語をひもときながら解説していきます。

 マーケティングとは、商品が大量かつ効率的に売れるような仕組みを構築することです。市場調査や商品開発、輸送、保管、営業、販売、宣伝などの全過程で行う企業活動の総称を指します。建築やインテリアといった建築空間がハコモノビジネスにおける商品だとすると、建築設計者も知っておかなければいけません。とはいえ、意外に理解されていないのが実情です。クライアントの要望に沿った「空間の収益化(マネタイズ)」を実現するには、この知識は欠かせません。

(出所:AGI design)
(出所:AGI design)
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 さて、4P3Cの「4P」とは、「Product(商品)、Price(価格)、Place(立地)、Promotion(宣伝)」の個々の単語の頭文字を取ったものです。簡単に言うと、商品戦略を具体化していく取り組みです。商品やサービスの特徴について、ターゲットとなる顧客層が満足するか、価格は適正か、商品をどこで買うか(空間の場合はどこに立地するか)、いかにして顧客の認知を高めるか、購買意欲を高められるか、といった点を検討します。

 他方、「3C」とは「Customer(顧客)、Competitor(競合)、Company(自社)」の頭文字を集めたものです。売ろうとする商品を踏まえて、事業戦略の方向性を探る取り組みです。例えば顧客について、性別、年齢、収入、どこから来た、といった点を分析します。さらに、ターゲットが好む商品などの競合は何か、ターゲットに対する自社の強みは何か、といった点を分析します。

(写真:Piscine26/stock.adobe.com)
(写真:Piscine26/stock.adobe.com)

(書籍『結果を出す空間デザイン マーケティング理論や心理学が握る成功の秘訣』を基に再構成)

日経クロステック 2026年5月18日付の記事を転載・改題]

「結果を出す空間」「利益を上げる空間」をマーケティング理論や心理学などを駆使してつくり上げる手法を分かりやすく解説します。収益性を求められる建築/インテリアデザインを手掛ける実務者はもちろん、施設を通した事業構築を計画する事業者や企画関係者も必読の1冊です。

萩原浩(著)/日経BP/2640円(税込み)