目的達成のために最適な空間デザインをどう考えるか――。書籍『 結果を出す空間デザイン マーケティング理論や心理学が握る成功の秘訣 』では、「集客」や「長期利用」といった目的を果たすために、空間デザインに「マーケティング」の手法を取り入れて結果を出した実例を中心に紹介しています。本特集では書籍から抜粋し、筆者が手掛けたドローンスクール運営会社・ハミングバードにおける店舗の空間デザインの事例を示します。第2回では、「ペルソナ」を使って顧客像を明確にしたり、競合分析をしたりするプロセスについて解説します。
Customer(顧客)の顔を明確にする
ハミングバードのドローンスクールお台場の場合について、まずは「3C」=「Customer(顧客)、Competitor(競合)、Company(自社)」から見ていきましょう。ターゲットとなるCustomerは、ドローンの操縦資格(無人航空機操縦士)を取得したい人に他なりません。

ドローンの国家資格が制度化されたのは2022年ですが、私たちがプロジェクトを開始した2018年時点では民間資格でした。当時のドローン需要は資格保持者数、ドローン需要ともに増加を続けており、資格保持者数が足りない状況でした。加えて、将来は国家資格が創設される可能性があると、業界内に伝わっているタイミングでした。
ちなみに、2025年末のドローンの機体登録数は約36万機に達します。前述のように、2025年時点の無人航空機操縦士は約2万3000人なので、資格が不要なケースを含めて、潜在的なドローン利用者は数十万人に及んでいるでしょう。
ドローンを空撮で使いたい人だけでなく、建築や土木の工事現場の調査、災害時の現地確認や測量といった支援業務での活用を目的とする人も増加傾向にあります。近年の人手不足やドローンの技術発展により活躍できる業務が増え、今後ますます需要が増えていくと予想されます。こうした専門的な飛行を求められる業務が増えるほど資格者が必要となります。
話を戻します。ドローンスクールお台場の施設を検討する段階で、私は手始めに「これからターゲットとなる顧客は具体的にどんな人なのだろう」ということを考えました。マーケティング用語で言えば「ペルソナ」の設定です。
ペルソナとは、商品やサービスを利用するであろう典型的なユーザー像を指します。ターゲットと違い、より詳細に設定することが求められます。年代、性別、職業、年収、家族構成、趣味など可能な限り細かく設定します。似顔絵を描く場合もあります。

まずは、ドローンが新しいツールであることや、これからの業務で利用するツールであり、資格取得を目的としていることなどから、従来の顧客層である40代から50代だけにとらわれず、比較的若い20代から30代が狙い目だと考えました。
さらには、それまでの顧客の性別は男性が目立っていたものの、ドローンが新しいテクノロジーを用いた商品である点や多様な職場への女性進出が話題になっていたことなども考慮して、将来はF1層(20代から30代女性、マーケティングの世界では注目の世代)も狙っていけそうだとみました。日本で最も若い世代が流入する東京であれば、若い世代を狙ったビジネスには十分な勝算があります。
人物像にストーリーを持たせる
そして、東京の中心エリアに立地するドローンスクールに通う想定で、例えば、以下のようなペルソナを設定しました。鈴木俊彦さんという男性です。
“SF、アニメ好きで、そこからドローンに興味を持ち始める。そして、遊具としてトイドローン(おもちゃのドローン)を購入し、次第にその操縦が趣味となる。操縦をもっと楽しむために、仮想空間などとの融合も可能なVR(仮想現実)ゴーグルなど関連機器も集めるようになり、よりハイレベルな空撮などにも挑戦したくなる。ついにはドローンスクールに通い始める”
というストーリーを持たせた人物像です。始まりはライトユーザーですが、次第に魅力に取りつかれて、「仕事にできるといいな」と考えるような人物を中心顧客に据え、ペルソナに設定しました。最初から資格取得を強い目的とするような人物は、中心的な顧客には設定しませんでした。
このように整理すると、顧客の特性から目指すべき商品、サービス、空間は、20代から30代の世代が好むデザインを意識しなければなりません。「鈴木さんが選びたくなる商品、サービス、デザインとは」「鈴木さんとスクールとの接点をどこにつくるか」といったことを、ペルソナを基準に考えていくのです。
ペルソナの設定項目数∝売り上げ
Competitor(競合)の多くは郊外
ドローンスクールを実際に見たことがある人は少ないかもしれません。それでも、上空に飛ばすドローンの教習所ですから、ある程度大きな空間が必要であることは想像できるでしょう。
巨大な空間が必要になるので、Competitor(競合)の多くは、郊外でネットを張ってスクールを運営しています。バッティングセンターやゴルフ練習場のような空間を想像してもらえれば、分かりやすいでしょう。資格取得のための教習やテストには、屋外空間または天井が高い空間といった場所が必要になります。さらに、屋外空間の場合、雨天時は営業できません。安定的な運営を実現するには、天井高が確保でき、それなりの広さがある空間が必要となります。
また、スクール事業は人件費ビジネスと言っても過言ではありません。機材費用も必要なので、都心の一等地にはなかなか広大な施設を構えられません。必然的に、都心から離れた場所で倉庫のような空間を借りて運営する例が多くなります。駅からバスで送迎する事業者も少なくありません。自動車の教習所と似ています。ドローンに強い関心があり、資格を取りたいという明確な意思を持った人が通う──。スクール事業として、収益化を図るスタイルとしては、このような前提が常識だったのです。
ハミングバードでは、施設の方向性を検討する際にライバルとなるドローンスクールのホームページや現地の写真を並べてみました。ほとんど例外なく、倉庫やバッティングセンターを彷彿(ほうふつ)とさせる空間デザインでした。さらには空間デザインだけでなく、ホームページやPRなどブランディングを工夫している事業者はほとんどありませんでした。ライバルのスクールは、ほぼ顧客側が検索によって接点を持つ程度というレベルだったのです。
Company(自社)の強みは何か
実はハミングバードも2018年以前はこのようなスタイルで、東京・潮見の倉庫が集まるエリアで運営していました。駅からは近いものの、さびしい場所の立地で、施設も空間としては、競合と代わり映えしなかったのです。
そのため、当時のハミングバードに特筆すべき自社の強みはほとんどない状態でした。唯一の強みは、新たな店舗構築に使える一定の資金を集めていたことです。大きな強みを持っていないという認識を確認できたことで、逆に新しいことにチャレンジする意識を高めていけました。
ここまでの3Cの分析結果をまとめると、以下のようになります。
競合分析をきちんと行ったことが、ハミングバードのビジネスの成功につながりました。立地に着目する最大の理由となったのです。

(書籍『結果を出す空間デザイン マーケティング理論や心理学が握る成功の秘訣』を基に再構成)
[日経クロステック 2026年5月19日付の記事を転載・改題]
萩原浩(著)/日経BP/2640円(税込み)



