「頭がいい⼈とそれ以外の⼈の違い」について、偏差値35から東⼤に合格した僕(⻄岡壱誠)が考える本連載。昨今の大学入試の変化を踏まえて、「頭のいい人の条件」を再考します。前回(「 ドラゴン桜に学ぶ『英検準1級に3カ月で合格』の価値 受験最前線 」)に続き、クラウドEnglish(クラウド・イングリッシュ)塾長の相佐優斗さんに、お話をうかがいます。英検に特化した塾の運営を通じて見えてきた、英検に短期合格するような「頭のいい子」の特徴を尋ねました。
西岡壱誠(以下、西岡):相佐さんは「短期集中で英検を取る」ということに重きを置いて、塾を運営されていると思うのですが、短期間で結果を出す子って、どんな能力がある子だと考えていますか?
僕は最近、この連載を『 偏差値35から東大に合格してわかった 頭がいい人は○○が違う 』という本にまとめながら「頭がいい人の条件」について、あらためて考えたんです。一口に「頭がいい人」と言っても、いろんな能力があると思います。思考力だとか、計画力もあるかもしれないし、挑戦する能力もあるかもしれない。そこらへんは、3カ月で英検準1級を取れる子たちにも共通するところがあるかもしれないと思って。相佐さんはどのように考えていますか?
相佐優斗(以下、相佐):短期合格の条件って、いくつかあるんですが、西岡さんの本にあった言葉で言うと、まず「目標分解力」だと思います。英検って、計画性の勝負で、ただコツコツ単語を覚えていけば受かるとかそういう勝負ではないんですよ。
英検で求められる要素はリーディング、ライティング、スピーキング、リスニングの4技能に分かれています。けれど、4技能を満遍なく勉強し、満遍なく点を取ろうとしても、短期間で合格できないんですよね。

相佐:満遍なく勉強しようと思ったら、時間がかかります。限られた時間を、どの勉強に振り向け、どの分野のどの問題で、スコアを何点上げれば、自分は合格基準点に達するのか。うまく点数を上げるための戦略が要るわけですよ。それを目標から逆算してしっかりと組んでいって、何からやっていけば一番効率的に時間をかけずに受かるのか、効率的に英語力を上げていくためにはどの分野を選んで対策を取っていくのか、そういうことを考えられる人が短期間で合格できます。
西岡:はい、なるほど。「英検に受かる!」みたいな漠然とした目標ではなく、「この分野で何点取る!」という目標をしっかり立てる。「英語を頑張る!」ではなく「リーディングであと5点取る!」みたいな努力の方向性を、しっかり明確にしている人が受かるわけですね。
相佐:そうです。また、「英検に合格したい」と思っているのでは合格できない、というのも肝だと思っています。
西岡:それは、どういうことですか?
英検合格が目標ではダメな理由
相佐:例えば、「早稲田大学社会科学部に全国自己推薦入試で受かりたいから、英検に合格したい。CSEスコア1950以上で絶対合格しなきゃいけない」って思っている子と、単純に「英検準1級に挑戦して受かりたいです」っていう子だと、もう合格するスピードが全然違います。圧倒的に「英検の合格」だけがゴールではない子の方が合格できるんですよ。
英検を取る目的があれば、僕らも英検の勉強を始める前に、「君はいつまでに英検に受かりましょう。それはなぜかというと、この大学のこの入試方式で受かるためなんだ。できるね?」ってスタートするわけで、それから3カ月間頑張りましょう、と。そのために1カ月ごとに何が達成できればいいのかな、と。じゃあ、そのために1週間ごとに、何をどのようにクリアしていけばいいか、と分解していく。まさに「目標分解力」ってところが、短期合格の結構な肝になっている。でも意外と難しいんですよ。なので、そこを僕らがサポートしている。
西岡:それが「英検に合格したいと思っている子は英検に受からない」ってことなんですね。いや、逆説的ですが、本質的だなあ。
東大入試でもそうなんですよ。「東大に受かりたいと思っている子ほど東大は落ちる」んですよ。やっぱり東大に受かっている子たちに話を聞くと、東大に受かりたいから受かったっていう人は少なくて、やっぱり何らかの「自分ならではの目的意識」がある場合が多いです。結局、「この勝負に勝ちたい」っていう思いが、勝負とは別の何かに付随して生まれると勝ちやすいんだと思います。
相佐:確かにそうです。例えば、英検って、高校生より小学生の方が早く受かる傾向があるんです。なんで早く受かるかというと、小学生の場合、英検合格の先にある夢が「○○中学校に合格したい」とかじゃなくて、本気で「世界で活躍する医者になりたい」とか「世界で活躍するプロスポーツ選手になりたい」とか、スケールが大きいんです。世界で勝負したいから、そのためにいっぱい英語をしゃべれるようになりたい。だから、そのツールとして英検を使う、みたいな。
西岡:それは、小学生ならではですね。
相佐:「学校に入る」っていうモチベーションだと、入ったらそれで終わっちゃうじゃないですか。でも、その学校でどんなことをしたくて、どんな目標があるからその学校に行きたいのか。東大を目指すのも、日本一の大学で日本一の研究をどうしてもしたいってモチベーションでやっていれば、必然的に考え方も気持ちも行動も変わってくる。その大学に入って何がしたいか、どんな目標を実現したいかってところに本質がある。そこから逆算しての大学入試、そこから逆算しての英検、っていう感じでつながってくるのかなって。
西岡:なるほど。手段としての英検じゃないと受からないんだ。
相佐:そうですね、それがまず大前提として大事。そうでないと3カ月では受からないですね。
西岡:ここから先は、ちょっとネタバレになっちゃうんですが、『ドラゴン桜』に、よく東大生の間で議論になる論点があって……。
最後に勝つ子のモチベーションとは?
西岡:漫画の『ドラゴン桜』では、2人の高校生が東大を目指して、最後は1人が落ちて、1人が受かるんですよ。落ちたのは矢島勇介で、受かったのは水野直美です。それで、なぜ矢島が落ちたのかと。なぜ水野は受かったのかと。そんなことを、東大生同士で議論したりするんです。
結論としては、水野は「今の自分のこういう生活から脱したい」という切実な動機を持っていて、東大に合格したいモチベーションが深かったんですよね。
水野の家庭環境は、こんな感じに描かれています。
自分の人生にリーダーシップを持てるか?
西岡:水野が夜、布団の中で、自分にはもう頑張って東大に行くしかないんだって泣いている、みたいな姿も描かれていました。
水野のモチベーションは、英検に短期合格する小学生の「世界で活躍したい」とは、ちょっと違いますが、合格するだけが目的ではないという意味では、同じだと思います。自分の人生の問題ですよね。でも矢島には結局そこまでのモチベーションがなくて、自分をバカにしてきた人たちを見返したいとか、そういうレベルで、目的意識がないわけではないんですが、ちょっと浅い感じもするんですよね。だから自分の人生を変えたい水野と、見返したいだけの矢島がいたときに、結局やっぱり水野の方が強かったんじゃないかっていうのが、我々東大生の間で議論になることです。
相佐:それは面白いですね。もう一つ、英検で小学生の方がうまくいく要因として、中学生、高校生になってくるとやるべきことが増えるというのもあると思います。いろんなことをやりながら英検に向き合わなきゃいけないという難しさはあるので。
それでも、やはり自分の人生にとってこれがあれば変わるんだって思っている子は、人生を懸けてやっているので、結果が全然違いますよね。たとえ部活が忙しかったとしても、部活が終わって20時に帰ってきて1時間でもいいから勉強する。自分の人生が懸かっていると考えられると、忙しさを理由にせずに、うまくいくことが多いと思います。
西岡:当事者意識の問題なんでしょうね。これはまた全然違う話なんですけれども、最近調べて面白いことが分かって。東大生の3割に生徒会長の経験があるっていうことが分かったんですよ。また、生徒会長以外でも部長だとか、何らかの団体の長を経験している東大生っていうのを入れるとその倍近くなる。6割くらいが何らかの形でリーダーになった経験がある、というのがアンケートで分かったんです。
何が言いたいかというと、なんで英検とか取ろうと心の底から思うかというと、自分の人生に対するリーダーシップみたいなものがあるんじゃないかと思うんです。自己効力感というか、自分が今こうすることによって、将来こんないいことがあるんじゃないか、自分の人生って意外と自分でつくれるんだな、変えられるんだな、と感じられる子と感じられない子がいて、そこから結構な差が生まれてるんじゃないかって仮説が僕の中にあるんです。自分の人生の運用能力って重要だなって。
相佐:それは大きいかもしれないですね。例えば東大に入りたいとそもそも思えるかどうかっていうのは、その2段階先、3段階先にどんな未来が待っているのかを考えられる子で、そういう子はやっぱり強いですね。手前にある部活とか友達付き合いもやんなきゃ、やりたい、ってなって、先のことまで手が回らないのが普通ですけど、その先にどういう未来を描いているのかによって、そこが変わってくる。
西岡:今おっしゃったのは、「未来に対する投資としての勉強」ということですね。マシュマロ・テストをご存じですか? 米スタンフォード大学の。
高校生の勉強の価値は「1時間2万円」?
西岡:保育園児に、マシュマロをすぐに1個もらうか、20分くらい待って2個もらうかを、選ばせるんです。ご褒美の先延ばしに耐えられるかどうかを、テストするんですね。そして、子どもたちのその後を追うと、すぐに欲しい気持ちを我慢してマシュマロを2個もらった子たちの方が、大学進学時の成績がよくて、大人になってから長期目標を達成しやすいという実験結果が、米スタンフォード大学の研究にあるんです(*1)。
結局、勉強もマシュマロ・テストなのかなって。勉強なんて、してもすぐにいいことがあるわけじゃなくて、結局、将来のためにするものじゃないですか。
『 東大メンタル 』(日経BP)という本にも書きましたけど、僕は「東大受験は時給9万円」という話を、よく高校生にしていたんです。東大を卒業した人の生涯賃金は、大卒の平均より1億7000万円以上高いという記事が昔あって(*2)。それなら、もし東大を目指して高校3年生の1年間、1日5~6時間の勉強を続けて合格したら、1時間当たり約9万円、生涯賃金が上がる計算です。東大でなくても、進路によって年収が数百万円とか、生涯賃金が1億円くらい違うことはあるはずで、そう考えると、高校3年間で5000時間、1日平均4~5時間の勉強を一生懸命することには、1時間2万円くらいの価値があると見たっていい。1時間2万円のバイトなんて世の中にそうないわけだから、すごいね、1時間2万円だから勉強しようねってなる。
この理屈、高校生の子たちもみんな、何となく分かってなくはないんですよ。それでもやらない子がいるのはやっぱり、マシュマロ・テストのようだなあ、と。
*2 日刊SPA!「『東大卒 vs 京大卒』年収はどっちが上か?」2017年7月16日
相佐:そう言われてみたらそうですね。1時間勉強して2万円だけど、その2万円が入ってくるのは10年後と言われるとちょっとやりたくなくなっちゃう。僕らが見ている中にも、英検をやりたいって言うけど、うまくいかない、みたいな子はいるんですけど、未来の話をすると全然変わることがあります。自分の将来の姿が見えてきて「ああ、なるほど、今やんなきゃ」みたいな。
西岡:将来のための投資なんだ、って感覚になれるかなれないか。ここが、勉強で伸びる子とそうでない子の大きな差なのかもしれないですね。
[日経ビジネス電子版 2023年8月3日付の記事を転載]
西岡壱誠(著)、日経BP、1760円(税込み)





