光電融合はこれまで電気が担ってきたデータ伝送の一部を光による伝送に置き換え、消費電力を大幅に減らす技術だ。生成AI(人工知能)の普及が起爆剤となり、データセンターで大規模な導入が見込まれている。AIの計算処理が集中するデータセンターでは、電力消費の爆発的増加が問題になるからだ。本記事は、光電融合をテーマとする書籍『 光電融合 AI×半導体の技術革命 』(日経BP)から抜粋して掲載する。

米IBMが開発する光電融合デバイスは半導体チップと同じパッケージ基板上に実装する(写真:加藤 康)
米IBMが開発する光電融合デバイスは半導体チップと同じパッケージ基板上に実装する(写真:加藤 康)
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 光電融合では、銅線を使う電気によるデータ伝送を光ファイバーや光導波路によるデータ伝送に置き換える。光ケーブルによる高速データ通信、すなわち光回線が一般家庭に浸透しているように、データ伝送に光を使う試み自体の歴史は古い。光電融合が従来の光回線と異なるのは、非常に近距離のデータ伝送を光に担わせる点だ。GPU(画像処理半導体)などの半導体チップの近傍、あるいは半導体のパッケージ内部にまで、データ伝送に光を使う動きが加速している。

データセンターの電力爆発が問題に

 光電融合の用途は様々だが、特にAIデータセンター向けで市場の急拡大が見込まれる。光電融合関連の製品を開発するNTTイノベーティブデバイス副社長CTO(最高技術責任者)の富澤将人氏は「光電融合の利点は膨大なデータを低電力・低遅延で送れること。それに当てはまる用途はまずはデータセンターだ」と話す。

 IEA(国際エネルギー機関)は世界のデータセンターによる電力消費量が2030年には約1000TWh(テラワット時、テラは1兆)に達すると予測する。2024年の2倍に当たり、日本の年間電力消費量に匹敵する。

データセンターの建設が世界中で加速する中、電力確保が重要になっている(出所:IEAのデータを基に作成)
データセンターの建設が世界中で加速する中、電力確保が重要になっている(出所:IEAのデータを基に作成)
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 米国政府もデータセンターの電力問題に危機感をつのらせる。第47代米国大統領のドナルド・トランプ氏は2026年2月の一般教書演説で「主要なテクノロジー企業に対し、自分たちの電力は自らまかなう義務があるとして自前の発電設備を整備するように求めている」と述べた。データセンターの電力増加によって国民の電気代が上がることに触れる文脈での発言だった。

 こうした問題を解決すべく白羽の矢が立った技術が光電融合だ。NTTの次世代通信基盤「IOWN(アイオン)構想」でも光電融合を中核技術と位置づけ、ネットワーク電力を100分の1に減らす目標を掲げている。

 従来のデータセンターでも光電融合のコンセプトは一部採用されており、プリント配線基板(PCB)同士を光で結ぶ「プラガブル光トランシーバー(プラガブル)」と呼ぶ手法が主に使われている。ただしこの手法では、増大するAIの計算処理のニーズに十分応えられない。そこで「Co-Packaged Optics(CPO)」と呼ばれる新たな手法の導入が進み始めた。半導体チップの近傍、あるいは半導体のパッケージ内部にまでデータ伝送に光を使う。

 データ伝送速度の指標の1つは、データ伝送の帯域を示すbps(ビット毎秒)だ。この数値が大きいほど1秒間に送れる情報量が増える。現行のデータセンターでは数百G(ギガ、十億)bpsが採用されているが、AIデータセンターでは今後、Tbps級が欠かせないとされる。

演算に光を使う試みも

 光電融合はまずデータセンターで導入が進むが、他にも将来性のある用途がある。「光コンピューティング」と呼ばれる技術がその1つで、AI演算を電気ではなく光に担わせる。GPUと比べてはるかに高速でありながら低い消費電力で計算処理を実行できる。米Lightmatter(ライトマター)やイスラエルCognifiber(コグニファイバー)などの新興企業が開発を進めている。

 次世代のクルマであるSDV(ソフトウエア定義車両)や自動運転車も光電融合の有望な応用先といえる。SDVでは車体制御などのための演算で扱うデータ量が増えることで、光電融合のニーズが出てくる可能性がある。光による情報処理に基づく量子コンピューター、光を活用したセンサーなどの用途でも、光電融合の研究が進みつつある。

光電融合=IOWNにあらず

 光電融合に関しては、類似する用語が複数使われておりそれらを整理しておくことも大切だ。光半導体、シリコンフォトニクス、光インターコネクト、日本ではIOWN構想などの言葉が飛び交い、混乱しやすい。

 このうち光半導体は光電融合デバイスやそれを構成する光学部品とほぼ同義で、光と電気の信号を変換する半導体を指すと考えればよい。LED(発光ダイオード)や半導体レーザー、スマートフォンのカメラなどに使われるCMOS(相補性金属酸化膜半導体)イメージセンサーも光半導体の範疇に含まれる。

 シリコンフォトニクスは光電融合の中核を成す技術だ。大規模集積回路(LSI)に広く使われるシリコン(Si)基板上に、光を電気に変換する回路や光導波路を形成する。光電融合の機能をまとめた小さなSiチップをPIC(光集積回路)と呼ぶ。半導体製造に使うプロセス技術やノウハウを生かせるため、低コスト化や大量生産につなげやすい。

 光インターコネクトは、データセンターのサーバーラック同士やその内部の半導体同士を光でつなぐ技術を指す。光電融合の現状の主な用途が光インターコネクトだ。

 日本では光電融合といえば「NTTのIOWN構想」と認識されることが少なくない。だが実際には、IOWNは光電融合を中核技術とする次世代通信基盤を指す言葉だ。光電融合技術を手掛ける国内メーカーの中にも、IOWN構想には参画していない例が少なくない。

日経クロステック 2026年6月19日付の記事を転載・改題]

AI半導体に、「光電融合」と呼ばれる革新技術が押し寄せている。光電融合は今後どのように世界を変えるのか、主要プレーヤーは誰か、日本の勝ち筋は――。光電融合の基本から最新動向まで、豊富な図表を用いて分かりやすく解説する。

久保田龍之介、石橋拓馬(著)/日経BP/3300円(税込み)

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