職場や消費の現場で、あるいは少子化のキーパーソンとして、広く注目される「Z世代」。「会社をすぐ辞める」「政治に無関心」「恋愛・結婚は面倒」…こうしたメディアや世間で語られるイメージの背後で、実際の令和の若者・Z世代の多くは何をどう考え、なぜそのように振る舞っているのでしょうか? 世代・トレンド評論家の牛窪恵さんが、Z世代1600人への大規模調査と55人へのインタビュー調査をもとに書いた『Z世代の頭の中』(日経プレミアシリーズ)から抜粋して、令和の若者のリアルを紹介します。第1回は、Z世代の退職代行サービス、FIRE(アーリー[早期]リタイア)に対する価値観について紹介します。
ストレスを回避するための退職代行サービス
「まさか、自分の会社には関係ないことだと思っていたんですよ」
先日、ある業務をご一緒した大手住宅メーカーの人事部部長・Aさん(50代)は、突然かかってきた「1本の電話」に、ショックを隠し切れないようでした。
電話の主は「退職代行サービス」。みずから会社に退職したいと伝えられない従業員が、代わりに退職の意図を伝え、その後の退職手続きなどを代行してもらうサービスです。マスコミ報道では、利用者が「入社して間もない大卒のZ世代」だと伝えられることも多いため、「利用者=Z世代」として、より注目が集まったのでしょう。
恋愛にせよ会社にせよ、「別れる」「辞める」と離別(離職)を伝える際は、多大なストレスがかかるもの。Z世代はとくに「ストレス回避」に敏感ですから、数万円支払ったとしても「代行業者にお願いできるなら」と考えやすいのかもしれません。
また恋愛の場合、令和の若者の間では「別れよう」と口にせず、「ケータイの『着拒(着信拒否)』や『LINEブロック』でフェイドアウト」のケースも多い。ですが、仕事、とくに正社員として雇用された場合は、一定の手続きを経なければ「離職票」も雇用保険も手にすることができません。ですからその分、同サービスの需要も高いのでしょう。
退職代行サービスを利用する若者が決して少なくないことは、金沢大学教授の金間大介氏も著書『 静かに退職する若者たち 部下との1on1の前に知っておいてほしいこと 』(PHP研究所)において、「いい子症候群」という言葉と共に述べています。
すなわち、いい子症候群の若者たちは、上の世代が「そう思うなら、普通に言ってくれればいいのに」と考えることが普通に言えない。なぜなら、退職の意向を面と向かって伝えることをイメージすること自体が、彼らにとって高ストレス状態だから、とのこと。
ちなみに、金間氏が言う「いい子症候群」とは、「目立ちたくない」や「人前でほめられることを『圧』と感じる」といった若者で、彼はそのことに、2022年刊の自身のベストセラー『 先生、どうか皆の前でほめないで下さい いい子症候群の若者たち 』(東洋経済新報社)でも言及しています。
退職代行を使っているのはZ世代だけ?
実は、先ほどのAさんが受けた電話(退職代行)の依頼主も、入社4カ月目の優秀な「いい子」だったと言います。就職試験の結果は同期で2位、研修期間中も協調性があり、いつも熱心にレポートを提出、遅刻も一度もなかった。それなのに、配属されてわずか1カ月で突然、本人ではなく代行サービスから「辞めたい」旨を伝えられたというのです。
一般にZ世代やその1つ上のゆとり世代は、幼少期から「親に気をつかって甘えてきた」とも言われます。私もインタビュー調査時に痛感しますが、彼らの多くは「大人が何を望んでいるか」を察知したうえで、「こう答えて欲しいんだろうな」という回答を口にする。とくに優秀な「いい子」ほど、「自分が何を求められているか」が的確に分かるので、本音を言わず押し殺したり、本心とは別のこと(大人が望むこと)を答えたりするのでしょう。
もっとも、退職代行サービスの利用者がZ世代(おもに20代)だけかといえば、必ずしもそうではありません。24年、マイナビが20~50代に行った調査によれば、同サービスの利用者は、確かに20代が最も多いものの(18.6%)、30代、40代と比べていずれも1%程度しか違わず(17.6%/17.3%)、若者が突出して多いというわけではありませんでした。
また、今後同サービスを「利用したい」とする人を年代別に見ると、最多は30代(25.3%)で、20代(20.3%)より5%多かったのです(「退職代行サービスに関する調査レポート」)。
いわゆる「いい子」は、確かにZ世代に多いかもしれない。ですが、彼らのニーズによってこうした便利なサービスが普及すれば、ストレスフリーな生き方や退職を望む上の世代も、好んで利用するようになるのは間違いないでしょう。
働き続けたい、貯金したいの裏側にある「不安」
また、Z世代は「アーリー(早期)リタイア(FIRE: Financial Independence, Retire Earlyの略)志向が強い」「就労意欲が弱い」とも言われますが、本当にそうでしょうか。
今回、CCCマーケティング総合研究所の協力のもと、24年12月にZ世代1600人以上に対して実施した定量調査では「老後(70歳以上)の理想の生き方」についても聞いてみました。すると、リタイアせず70歳を超えても働き続ける(「今の会社で働き続ける」「別の会社(転職・起業)で働き続ける」「家業を継ぐ」の合計)とした若者が、男性で15.6%、女性で13.8%。さすがに多数派は「仕事を辞めて貯蓄や資産運用等で生活」(31.7%)と「仕事を辞めて年金生活」(20.0%)でしたが、それでも6~7人に1人は70歳を超えて働き続けることを想定しているので、決して少ないとは言えないでしょう。
またインタビュー調査でも、目立ったのは「僕らのときは年金なんて出ないから、働かないと」や「先輩を見てても、50歳過ぎで正社員になるなんて無理だから、老後まで(正社員のまま)いまの会社に居続けたい」などの声。FIREが取り沙汰される半面、20代にはいまから、長期的な持続可能性を意識して働く若者も一定数いる、そして彼らを含めた大多数は、将来不安が非常に強いのです。
漠然とした将来不安は、三菱総合研究所のレポート(24年)からも明確に読み取れます。この中で20代が「今後お金をかけたいこと」を見ると、トップは「貯金」(6割弱)で、金融資産の保有目的は「老後の生活資金」(4割弱)が第1位でした。この「老後の生活資金(のために貯金)」の回答は、過去10年で3倍近くも急増したそうです。
レポートを著した同研究所の田中嵩大氏は、この理由について「背景には、少子高齢化に伴う社会保障制度への懸念や、平均寿命の延伸による老後資金の必要性の高まりがあると考えられる」と分析。つまり、すでに破綻間近かとも噂される日本の年金制度など社会保障の不確実性や、「自分たちはいつまで働き続ければいいか分からない」との懸念が、「未来に向けて、いくら必要なのか」といった金銭的不安を呼んでいる可能性があります。
ちなみに、同じ調査で20~50代の世代別比較を見ると、「何を(努力)しても賃金は上がらない」と、この先の賃金上昇に最も懐疑的なのもまた、20代(3割弱)の若者でした(三菱総研「経済的不安から『倹約化』する日本の若者たち」)。このことがZ世代を資産運用に向かわせている側面もあるでしょう。
牛窪恵著/日本経済新聞出版/1210円(税込み)
■開催日時:2025年7月18日(金)12:00~13:00
■参加:事前登録制、アーカイブ視聴
■開催方法:Zoomミーティング
■詳細・お申し込みはこちら ⇒ 7/18『Z世代の頭の中』出版記念/牛窪恵オンラインセミナー

