大物作家やタレント、経営者などに書店で1万円を渡し、自由に買い物をしてもらう──。そんな夢のようなYouTubeの企画が、110万回超再生などを記録し、人気を集めている。チャンネルを運営するのは、出版取次大手のトーハン。外注はせず、社員3人で企画・撮影・動画編集まで手掛けているという。動画にたびたび登場し、ゲストの読書家たちの話を巧みに引き出しているトーハン社員の「カメラマン青木」さん。自身は普段、どんな本を読んでいるのだろうか。
三宅香帆さんが撮影でつぶやいた 「読書」の本質
もともと本が好きでしたが、YouTubeチャンネル『出版区』で『本ツイ!─本屋ついてって1万円あげたら何買うの?─』(著名人に1万円を渡し、書店での買い物に同行する企画)の撮影を始めてからは、ゲストが薦めてくれた本を読むようになり、読書量が増えました。電車などの移動中はいつも、本を手に取っています。
『本ツイ!』の撮影が終わると書店で解散するのですが、かなり高い確率でゲストのマネジャーやスタッフたちと店内で遭遇します(笑)。みんな、撮影中に気になった本を買いたくなるんですよね。
そういえば『本ツイ!』に出演してくれた文芸評論家の三宅香帆さんが、「書店はテーマパークのようなものだと思っているので、回るだけでも楽しいし、お金を使っても楽しいし、見るだけでも楽しい」とコメントしていました。読書というと、“本を読み切ること”にフォーカスしがちですが、“本を買う”という行為だけでも満足感がある。「自分は今、こんな本が気になっていたんだ」「こういうことを学びたいんだ」と本を買う行為を通して知るのも、楽しみ方の一つなのだと思います。
「人生を変える100冊」なんて見出しはない、最強のブックガイド
世の中に数多ある本の中から何を読むか迷ったとき、おすすめなのが『百書繚乱 松岡正剛のヴィジュアルブックガイド』(アルテスパブリッシング)です(現在、品切れ。古書店、インターネット書店、図書館などで入手することができます)。著者の松岡正剛さんは毎夜、1冊の本を紹介したサイト「松岡正剛の千夜千冊」で有名ですが、ここでは500冊超の書籍がフルカラーで掲載され、10章、100テーマで紹介されています。
この本が素晴らしいのは、1冊の紹介のためにわざわざ写真を撮り下ろしていること。例えば、スティーヴン・キングの 『スタンド・バイ・ミー―恐怖の四季 秋冬編―』(スティーヴン・キング著、山田順子訳、新潮文庫) なら線路の上で、グリム童話は鳥かごに入れて、キノコの本は山の中で、と本の内容と関係のある場所で撮影し、ビジュアルによって、その本の特徴を読者に伝えてくれます。
また、10章の章立てもよくありがちな「死ぬまでに読むべき100冊」「人生を変える100冊」といった切り口ではなく、「エレガントな暴走がしたい」「本が鳴る・本が泣く」「偏愛模倣術」「歴史の尻尾をつかむ」などとウイットに富んでいます。500冊超も紹介されているので本を探す楽しみがありますし、これまであまり読書をする習慣がなかった人の「どのジャンルにどんな名作があるか分からない」という悩みを解決してくれるブックガイドになると思います。
「読みたいけど読めない古典」を解説付きで楽しめる本
読書がもっと楽しくなる本としては、 『ソーンダーズ先生の小説教室』(ジョージ・ソーンダーズ著、秋草俊一郎、柳田麻里訳、フィルムアート社) はすごくおすすめ。ブッカー賞を受賞し、現代アメリカを代表する作家であるジョージ・ソーンダーズが、チェーホフ、ツルゲーネフ、トルストイ、ゴーゴリなどロシア文学の巨匠の作品を取り上げ、講義形式で解説している1冊です。
本の中でも翻訳小説は「読むハードルが高い」ジャンルではないでしょうか。最後まで読み通すモチベーションが維持できない、読んだけれどよく分からなかった──ということが起こり得ます。チェーホフ、ツルゲーネフ、トルストイなどの“ザ・古典”といった作品群は、読んでみたいけれど重い腰が上がらないという人も多いはず。私も気持ちは分かります。
ですがこの本は実際に、そうした名だたる巨匠たちの7つの短編が掲載され、その後に作品に対する講義、つまりガイドが付いているので安心です。「こういう解釈があるのか」「こういう視点で読むと楽しめるのか」と物語の“読み方”や“書き方”について理解しながら、楽しんで読み進めることができます。短編の抜粋やあらすじではなく、丸ごと掲載されているのでお得感もあります。
今は考察ブームで、「ガイド」への需要が高まっていると感じます。考察好きの人たちにも、ぜひ読んでほしい1冊です。ちなみに、『本ツイ!』の撮影時に紹介したところ、俳優の松井玲奈さんも購入品に選んでくれました。
プロの技に魅了される ブックデザインの世界を知れる本
本を作ることについての本も面白いですよ。2026年3月に亡くなられたブックデザイナー・祖父江慎(そぶえ しん)さんの 『祖父江慎+コズフィッシュ』(PIE International) は、念願かなって手に入れた1冊。しばらく絶版になっていたため、何度も図書館に通って読んでいたのですが、再び出版されて手元に置けるようになりました。「コズフィッシュ」は祖父江さんが立ち上げたデザイン事務所の名前。この本には、事務所の立ち上げ以前から2016年までの作品が一挙に掲載されています。
『ムーミン・コミックス』(トーベ・ヤンソン、ラルス・ヤンソン著、冨原眞弓訳、筑摩書房) や、吉田戦車さんの漫画 『伝染るんです。』(小学館) など、「あの作品も、この作品も手掛けていたのか」と驚きます。表紙のイメージや創作の工程などが紹介されていて、見ていて飽きません。
私はここ数年、文学フリマで書評集の同人誌を販売しているのですが、読者に本を買ってもらうには「装丁の力」が必要だと身に染みて感じています。祖父江さんの仕事を見ていると「これぞプロの技」と感服しますし、今まで触れてきたブックデザインの奥深さについて考えさせられます。自分で何かを創作したいという人にもおすすめです。
取材・文/三浦香代子 構成/大松佳代(日経BOOKプラス編集) 写真/小野さやか



