プラスチックの廃棄問題は、世界の製造工場である東南アジアが最も深刻な状況にある。サプライチェーンで密接なつながりがある日本企業が先頭に立ってこの問題を解決し、ロールモデルを示せば、それが世界標準になるかもしれない。ポリマー研究の第一人者である伊藤耕三・東京大学特別教授と『必然としてのサーキュラービジネス』の著者である磯貝友紀氏に、プラスチック・サーキュラー化の最新状況と見通しについて対談してもらった。その後編をお届けする。

海洋生分解性プラスチックにネガティブな欧州

磯貝友紀(以下、磯貝):私はコンシューマービジネスの企業との接点が多くて、そうした企業は、プラスチック製品を今後どうしていくべきかにすごく悩んでいます。

伊藤耕三氏(以下、伊藤):確かに難しい問題です。海洋や土中で分解して自然に戻るプラスチックに代替していくのが一つの案で、日本はその案に比較的ポジティブなのですが、欧州ではネガティブな意見が強い。なぜかと言うと、海や土に捨てても分解されるとなると、逆に海洋投棄や不法廃棄が増えるのではないかとの懸念があるからです。だから回収できるものは、とことん回収すべきだという考え方が多い。

磯貝:なるほど。その心配はありますね。

伊藤:丈夫なものをつくって長く使い、使えなくなったものはできるだけ回収してリサイクルするというのが欧州の基本スタンスです。ただし、欧州は、植物由来の生分解性プラスチックであるポリ乳酸に代替してコンポスト(堆肥をつくる容器)で分解することにはポジティブなんです。そのあたりの考え方は、海に囲まれている日本や東南アジアの国と、大陸の欧州や米国とはかなり違いますね。

 例えば、フォークなどのカトラリーは、彼らの考え方では生分解性でつくってコンポストで処理するというのが一つの解決法だと思います。普通の土でも時間はかかるけれども分解しますから。海洋生分解性に関しては、日本が突出して関心を持っているというのが現状だと思います。

伊藤耕三(いとう・こうぞう)氏/東京大学大学院新領域創成科学研究科特別教授。1986年東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。通商産業省工業技術院繊維高分子材料研究所へ。91年東大講師、94年助教授、2003年教授、23年物質・材料研究機構フェロー、24年4月から現職。14~19年に内閣府の革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)のプログラム・マネージャー(PM)。19年から内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)のプログラム・ディレクター(PD)、20年から新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のムーンショット型研究開発プロジェクトのPMに就任。SIPではプラスチック分野のサーキュラーエコノミーシステムの構築、ムーンショットでは海洋生分解性プラスチックの研究開発などに取り組む。(撮影:鈴木愛子、以下同)
伊藤耕三(いとう・こうぞう)氏/東京大学大学院新領域創成科学研究科特別教授。1986年東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。通商産業省工業技術院繊維高分子材料研究所へ。91年東大講師、94年助教授、2003年教授、23年物質・材料研究機構フェロー、24年4月から現職。14~19年に内閣府の革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)のプログラム・マネージャー(PM)。19年から内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)のプログラム・ディレクター(PD)、20年から新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のムーンショット型研究開発プロジェクトのPMに就任。SIPではプラスチック分野のサーキュラーエコノミーシステムの構築、ムーンショットでは海洋生分解性プラスチックの研究開発などに取り組む。(撮影:鈴木愛子、以下同)

磯貝:生分解性の素材を使うと値段が高くなりますね。

伊藤:値段は高くなるし、寿命も短くなるというのが正直なところ現状です。生分解性ポリマーの多くはポリエステルが使われているのですが、従来のポリマーに比べて耐候性(紫外線など屋外での様々な環境に対する耐久性)と耐衝撃性が低い。寿命が短いと、すぐに捨てられてしまいます。そちらのほうがいいのか。それとも、生分解性ではないが丈夫で長く使えて、使用後は消費者にお願いして回収してもらうほうに行くか。どちらがいいかというのは、多分長い議論になると思います。

立ちはだかるコストの壁

磯貝:耐候性や耐衝撃性は、技術で解決していけるのではありませんか。

伊藤:もちろんそうですが、コストは高くなります。

磯貝:量産化が進んでいけば、コストの問題も、ある程度、解決されていくのでは。

伊藤:生分解性プラスチックの素材の中で一番多いのはポリ乳酸なんですね。ポリ乳酸の原料はトウモロコシで、そんなに安くはならないだろうと考えられています。ポリ乳酸は1kg当たり800円ぐらい。一方、石油からつくったポリエチレンやポリプロピレンなどプラスチックに最も使われているポリマーは1kg当たり200円ぐらい。原料ベースでのこの価格差は、埋めがたいものがあります。

 ポリエチレンやポリプロピレンも、バイオベース(原料はサトウキビの搾りかすなど)にしていこうという動きがありますが、現状では、サトウキビの搾りかすのほうがトウモロコシより安い。そうすると、生分解性プラスチックのほうがどうしても高くなります。

磯貝友紀(いそがい・ゆき)/ジャパン・アクティベーション・キャピタル チーフ・サステナビリティ・オフィサー(CSO)。民間企業や世界銀行などで、東欧、東南アジア、アフリカなどの途上国におけるサステナビリティ・ビジネスを推進した経験を経て、2011年外資系コンサルティングファームのサステナビリティ部門に参画。24年8月から現職。
磯貝友紀(いそがい・ゆき)/ジャパン・アクティベーション・キャピタル チーフ・サステナビリティ・オフィサー(CSO)。民間企業や世界銀行などで、東欧、東南アジア、アフリカなどの途上国におけるサステナビリティ・ビジネスを推進した経験を経て、2011年外資系コンサルティングファームのサステナビリティ部門に参画。24年8月から現職。

磯貝:炭素税など、石油由来の原料に規制がかかれば、そうした価格差は縮まるかもしれませんね。

伊藤:確かに、規制によって状況が変わる可能性があります。

磯貝:2024年11月末から12月にかけて、韓国釜山でプラスチックによる環境汚染の防止に向けて、生産制限などを含めた国際条約締結を目指す会議が開かれましたが、産油国などの反対で、合意には至りませんでした。石油由来のプラスチックの生産は、何らかの形で制限したほうがよいと考えていますか。

伊藤:プラスチックは最終的に、すべてバイオベースになるのが理想的だと思っています。だから、「採取」のところを石油から切り替えていくべきです。石油由来のプラスチックの生産を制限すれば、価格が上がっていき、バイオベースのプラスチックとの価格差が縮まって使ってもらえるようになることが期待できます。今は、石油由来のプラスチックが安すぎるのでどんどん使われている状況であり、それを変えていかないと、バイオベースのプラスチックは広がっていかないと思うんです。

アジアのプラスチック問題解決を日本が先導する

伊藤:私は、こうした国際会議においては、単に規制について話し合うだけでなく、国が果たすべきロールモデルをしっかりと示すべきであり、それができるのは日本だと思っています。例えば、釣り糸でも、使っているときは丈夫で、切れた後は自然の力で分解する製品が開発できたことなど、世界では誰も知らない。そういうプラスチックをつくれば、規制する必要はなく、安心して使えます。要するに、0か1かではなく、その間にたくさんの解があり、技術的に可能であることを日本から発信することが非常に重要だと思います。

磯貝:東南アジアではプラスチックによる環境問題が深刻になっていますが、日本企業が先頭に立ってアジアの問題を解決し、それをロールモデルとして世界に示せるのではないかと思うのですが。

伊藤:まさにそれをやりたいんですよ。マイクロプラスチックの約60%はアジアから出てきていて、前述のように、海に対する感度は欧米とは全く違う。丈夫な長寿命のプラスチックをつくって回収し再利用する、回収が難しいものは海や土中で分解して自然に戻るプラスチックに代替していく、という2本柱でプラスチックのサーキュラー化モデルをつくり、それをアジアに使ってもらう。このように日本と東南アジアが連携することで、双方に大きなプラス効果をもたらすと思います。

磯貝:東南アジアでは今、中国の影響が大きくなってきているので、日本がどうやって東南アジアに貢献できるのかが、すごく重要ですね。

伊藤:最近、タイに行きました。タイの再生プラスチックは品質が低いと思っていたのですが、SIPの取り組みの一環で、タイのリサイクラーから再生プラスチックを取り寄せ、分析してみたところ、その品質の高さに驚きました。そうした品質の高い再生材を利用して、自動車などの部品にどのように使っていくかを、現在、SIPで検討しています。そのモデルをタイだけでなく他の東南アジアにも展開し、そこから世界に広げていけば、国際的な標準化にもつながる可能性があります。常に欧州がルールメーキングして私たちは右往左往するだけではなくて、実際のモデルを日本が主導してつくっていくことが大変重要だと思っています。

欧州の自動車再生プラの使用義務化にどう対応するのか

磯貝:欧州委員会は2023年7月13日、廃自動車のリサイクル推進を目的にした欧州ELV(End-of-Life Vehicle=使用済み自動車)指令の改正案として、新車製造におけるプラスチックの25%以上に再生材の使用を義務づける案を示し、この規制が2031年にも導入されるといわれています。日本はうまく対応できそうですか。

伊藤:この規制に対応するために必要な国内のプラスチック再生材の量は、年30万トンといわれています。けれども、国内の使用済み自動車から出てくるプラスチックは4万トンしかなく、26万トン足りない。つまり、残りの部分は、国民の皆さんが今まで燃えるゴミに出していたプラスチックを集めてきて、それを使わなければならないということです。

磯貝:廃プラスチックを確保するのが大変になるということですね。

伊藤:ところが日本では、集めたプラスチックの70%近くが、日本では使い道がないということで海外に輸出されているんです。私はSIPのPDになってから20カ所以上のリサイクル施設を回り、なぜ再生材が日本であまり使われないのか、理由を聞いてきました。それでよくわかったのは、再生材はバージン材に比べてもろいことです。少し専門的になりますが、ポリプロピレン(PP)やポリエチレンというポリマーは付加重合でつくられるので、いったん切れたら元に戻らない。モノとしては劣化するしかないわけです。だから、すごく純度の高い再生材でももろくて、衝撃を与えるとパリッと割れてしまう。

 自動車で多く使われているプラスチックで一番多いのはPPで、その比率は約50%に上り、電気自動車では60%近くになります。一般の人はあまりご存じないと思うのですが、PPは3種類あります。ブロックPP、ホモPP、ランダムPPの3つです。自動車や家電製品のほとんどにはブロックPPが使われています。なぜかというと、3つのうちで耐衝撃性が最も高いからです。

 皆さんが使っている様々なプラスチックケースがありますよね。衣装を入れるケースとか。それらのほとんどはランダムPPで、時々ホモPPのものがあります。ランダムPPとホモPPの違いは何かというと、例えば、衣装ケースの中には透明なケースがありますよね。それがランダムPPで、不透明なケースがホモPPです。そして、ホモPPはブロックPPに加工することができるが、ランダムPPは分子をばらばらにしない限りブロックPPにはできない。

 けれども、市場で最も量が多いのはランダムPPなんです。つまり、ランダムPPが本当に車の部品で使えるかどうかが、私が担当しているSIPのプロジェクトの最重要ポイントの一つだったんです。そこで、様々な再生材で自動車部品を試作してみた結果、皆さんが普段捨てているプラスチックをとにかく集めてくれば、自動車の部品に使える可能性が高いことがわかりました。多分、世界で初めて明らかになったのではないかと思います。

磯貝:そこでのブレークスルーは何だったんですか。

伊藤:コンパウンド(添加剤)ですね、一番大きいのは。結局、100%、再生材だけでつくらなくてもいいんですよ。ということは、集めてきたランダムPPに対して75%のバージンのホモPPを混ぜればいいんです。うまく混ぜることができて、元のホモPPと同程度の物性が出るかどうかが重要でした。

 リサイクル市場で最も量が多いランダムPPが本当に使えるのかどうか、大手化学メーカーやリサイクラーなどの協力を得て、添加剤を加えて実際に部品を試作してみたら、バージン材料でつくったものと遜色(そんしょく)のない物性データが出ました。もちろん、まだいろいろと課題も残っていますが。

伊藤教授は、自身が開発した「スライドリングマテリアル」と呼ばれる新素材の実用化を目的に、東京大学から包括的基本特許の専用実施権を得て、2005年に大学発ベンチャーを立ち上げた経験がある。その技術は、ゴルフボールなどに生かされている
伊藤教授は、自身が開発した「スライドリングマテリアル」と呼ばれる新素材の実用化を目的に、東京大学から包括的基本特許の専用実施権を得て、2005年に大学発ベンチャーを立ち上げた経験がある。その技術は、ゴルフボールなどに生かされている

磯貝:2031年までに間に合いそうですか。

伊藤:車の部品開発は通常10年かかるといわれています。それを5年でやらなければならないので大変ですが、一山越えるめどがついたという感じです。

磯貝:どのような課題が残っているのですか。

伊藤:いっぱいありますよ。単一のポリマーを集めてこないといけないので、例えば、豆腐のパックを集めてくださいと住民の方にお願いしたとしても、年30万トン集めるのは結構大変です。ある程度はそれで行けるかもしれないけれども、単一ではなく色々な種類が混ざったミックスプラスチックの再生材が使えるかどうか。ここにもう一山あると思っています。年度末くらいには感触だけでも答えを出したいですね。その結果によって、何を集めるか、どのくらいの量を集めるかが変わってくるので。

欠かせない再生材の情報共有化と認証

伊藤:もう一つ、私たちがやろうとしていることで重要なのは、再生材の物性情報などを記録し、関係者の間で共有することです。そのためにPLA-NETJ(プラスチック情報流通プラットフォーム)を開発しています。経済産業省が2023年3月に発表した「成長志向型の資源自律経済戦略」の中で、サーキュラーエコノミーの情報流通プラットフォームを2025年までにつくることを目標に掲げていて、その「プラスチック版」をSIPでつくっています。

 PLA-NETJは何かというと、ここに再生材の由来や物性値などを入力してもらい、情報を共有化します。欧州のDPP(デジタルプロダクトパスポート)と似ていますが、DPPは製品ベースであり、PLA-NETJのように素材ベースでの情報共有化は世界でまだどこにもないと思います。

 実際に、私たちが再生材で試作した自動車のグラブ・ボックスでも、皆さんにデータを入れてもらっています。良品計画さんなどから、回収したプラスチックを提供いただいて、再生材の比率や、物性値など、何を誰が見えるようにするかを検討中です。履歴(トレーサビリティ)がきちんと追えるようになっています。

再生材を混ぜて試作した自動車のグラブ・ボックス。このプロジェクトでは、自動車部品の強度などの目標値を参画機関の一部に開示してもらうことができたので、比較的短期間で、その値をクリアできる材料を開発できたという
再生材を混ぜて試作した自動車のグラブ・ボックス。このプロジェクトでは、自動車部品の強度などの目標値を参画機関の一部に開示してもらうことができたので、比較的短期間で、その値をクリアできる材料を開発できたという

磯貝:再生材でつくった部品に番号が振られているのですか。

伊藤:はい。その番号を入力するだけで、部品に関する情報を見ることができます。今はそこまでできていませんが、将来は例えば、豆腐のプラスチック容器をいつも集めて回収に出している人がいたとして、その人が、再生材が含まれている自動車のグラブ・ボックスに付いている番号をPLA-NETJにスマホで入力する。すると、自分たちが集めてきた容器が、車の部品に使われたんだとわかる。このようにすると、回収する住民の方々のモチベーションが上がるのではないかと思っています。

 トレーサビリティをしっかりと機能させることに加え、グリーンウオッシュを防ぐために認証も必要です。SIPでは社会実験として、物性の測定を東北大学にお願いし、仮の認証機関として、環境再生保全機構に認証をお願いすることになっています。こうした実証実験での検証後、最終的には省庁に引き取ってもらって、正式な認証組織で対応いただくことになると思います。

磯貝:やらなくてはいけないことが膨大ですね。

伊藤:はい。しかも短期間でやらないと2030年に間に合わないので。

気候変動対策・脱炭素だけでなく、生物多様性喪失、窒素汚染の問題など、近年、企業にとって、対応すべき環境課題が次々と出現している。だが、「採取」と「拡散」というレンズを通すと、一見バラバラに存在するこれらの問題は、同じフレームワークで捉えることが可能になり、対策を講じやすくなる。目指すべき北極星は、「採取と拡散の極小化」であり、そのためにはビジネスのサーキュラー化が必然の道となる。

磯貝友紀(著)、日経BP、2420円(税込み)