日経平均株価が史上最高値をつけた。この価格はバブルなのだろうか? 調べてみるとバブル最高値と今回の高値では環境が変わっていることに気づく。しかも、この先も高値が期待できるというのだ。「株式益回り」という指標からもそれが読み取れる。日本経済新聞編集委員・鈴木亮氏の著書『日本株 黄金の時代が始まる』(日本経済新聞出版)から抜粋・再構成して紹介する。

バブル相場と今の相場はこんなにも違う

 1989年のバブル相場と2024年の株式相場。冷静に分析すると、89年当時とは、何から何まで違う。まず日経平均採用銘柄について、割安割高を示す投資指標PER(株価収益率)をみると、62.58倍だったものが、16.47倍(日経平均が過去最高値を更新した24年2月22日ベース。予想値、PERは以下同じ)と大幅に低下している。配当利回りは同じく0.38%から1.73%(予想値)と4.6倍になり、時価総額は606兆円から932兆円に増えた。

 89年末の時価総額上位には日本興業銀行、第一勧業銀行など大手銀行が並んでいた。銀行の株価は高かった。売り物が出ないからだ。当時の株高要因の1つが、株式の持ち合いだった。お互いに安定株主として保有し、決して売却しない。銀行は取引先企業と株式を持ち合った。大手保険会社は保険の大口法人顧客となる企業の株式を保有した。今は持ち合い構造がどんどん見直され、24年2月に、金融庁が損害保険会社に政策投資目的で保有する株式の売却を促している。

 手元資金を株式や不動産につぎ込み、巨額の損失を負った企業は今、自社株買いなどの株主還元や、大型M&A(合併・買収)などの成長戦略に資金を使い始めた。大幅な賃上げも実現したし、企業業績は24年3月期、3期連続で過去最高益を更新、25年3月期には4期連続での最高益更新が視野に入っている。

 こうした改革を評価する外国人投資家が、日本株を買っている。外国人投資家が日本の変化を評価したことは、これまでもあった。03年の小泉構造改革、13年のアベノミクスだ。今回、岸田文雄内閣は株高に直接は貢献しておらず、民間主導の改革による株高であることを評価したい。

 暗い時代が長かったから、日経平均が過去最高値を更新すると「こんなに上昇するのはおかしい。怖い」と感じる市場関係者もいるだろう。マクロ経済はデフレから脱却できても、染みついた心のデフレ、マインドのデフレはなかなか払拭できない。証券会社の役員も平成入社組が大半で、下げ相場しか知らない世代が経営の中枢を占めている。

これからも緩やかな上昇が続く株式市場

 34年ぶりの高値更新となり、24年3月に4万円の大台を超えた日経平均株価。この先、上昇基調は続くのだろうか。筆者は日経平均4万円という水準がゴールだとは思っていない。10年、20年、30年と時間をかけて、緩やかな上昇を続けていくと期待している。

 日経平均を1つの会社と見立てた場合、初めて4万円に乗せた24年3月4日の1株あたり利益は2387円45銭、PERは16.80倍で、この2つの掛け算で日経平均は4万109円23銭となった。

 24年2月、大和証券グループ本社の中田誠司会長(出演時は社長)に日経CNBCの番組にご出演いただき、筆者が聞き手となって、大和証券グループの経営展望や株式相場の先行きをお聞きした。中田氏はPERがじりじり切り上がっており、24年中に17.7倍台まで上昇すると予想、24年中の日経平均の高値として4万3000円台は見込めると語った。24年3月29日、年度末の日経平均は4万369円、PERは中田氏の見立て通り、17.07倍まで上昇していた。

 25年3月期も4期連続の最高益となり、10%程度の増益となった場合、PER17倍で日経平均は理論上、4万4600円台までの上げが期待できる。これまで投資家はPERやPBR(株価純資産倍率)に注目することが多かった。

 24年3月、日銀が17年ぶりの利上げに踏み切り、日本も金利のある国に戻る日は近い。そうなると、これまでほとんど注目されなかった、ある投資指標に関心が向かうかもしれない。

株式益回りという指標からみる

 金利が戻ってくることで、デフレの時代に注目されなかった投資指標に光が当たる可能性が出てきた。それが株式益回りという指標だ。

 24年3月の年度末ベースで、東証プライム市場全銘柄の株式益回りは5.86%だ(予想値。以下同じ)。2月から3月の上昇局面では、6%程度で推移していた。

 株式益回りとは、1株あたり利益を株価で割ったもので、株価の割安性を表す指標だ。PERの逆数となり、PERが低いほど株価が割安とされるのに対し、株式益回りは高いほど、株価が割安と判断される。例えば、PERが20倍なら株式益回りは5%、PER50倍なら株式益回りは2%となる。

 株式益回りは金利水準と比較する局面で使われることが多かった。長くマイナス金利の時代が続いた日本では、国債の利回りが0%台で、株式益回りは投資指標として役に立たなかった。期待される投資リターンである株式益回りが6%の日本株に対し、日本の国債利回りは1%に満たない。日本株の益回りが6%という高い水準で放置されているのは、ここまで買われず、割安感が強いままでいることを意味する。債券は買われ、価格が上昇すれば利回りが低下する。

 1%に届かない国債利回りは、日本の国債が買われすぎていることを示している。今後、買われすぎた債券から割安感のある株式へと資金移動が起きれば、債券の利回りは上昇し、株式益回りは低下する。日経平均が4万円を超えても、債券投資との比較でみればまだ割安なのだと、株式益回りは示している。

日本株はこの先も上昇する可能性が高い(写真はイメージ)(写真:Westlight/stock.adobe.com)
日本株はこの先も上昇する可能性が高い(写真はイメージ)(写真:Westlight/stock.adobe.com)
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 米国の株式益回りと国債利回りの推移をみると、2つの乖離幅(イールドスプレッド)は、株式相場の先行きが暗くなりリスクを回避する投資家が増えると、上昇している。逆に市場心理が明るくなりリスクを取れるようになると、乖離幅は縮小する。米国ではリーマン・ショック直後にイールドスプレッドが拡大したが、今は解消し、株式益回りと長期国債利回りはほぼ均衡した水準にある。

 日本はバブルの時代、リスクを取る姿勢が強まり、株式益回りは恒常的に国債利回りを下回っていた。00年以降はリスク回避が鮮明になり、大恐慌直後の米国のように、株式益回りが国債利回りを極端に上回る状態になった。今後、相場環境が一段と改善し、米国のように株式益回りと長期国債利回りが均衡するようになれば、5年後か10年後か分からないが、長期金利3%、株式益回り3%、PER33倍となってもおかしくない。

日経平均8万円時代は来るか

 13年のアベノミクス相場以来、日経平均のPERはおおむね15倍前後で推移してきた。株式益回りは6.7%前後だった。歴史を振り返ってみると、金利が機能していた時代、日米とも株式益回りの妥当な水準は、長期国債の利回りと同水準であることが多かった。デフレ時代の日本のように長期金利がゼロ近辺にあると、この投資尺度は機能しない。

 24年3月、日銀がマイナス金利政策を撤廃し、早ければ24年中に0.25%程度の追加利上げがあるかもしれない状況になった。長期金利はいずれ1%台に乗るだろう。この先5年後、10年後に長期金利が3%あたりまで上昇しても、まったく不思議ではない。バブル期の1989年、長期金利は5%台だった。もし5~10年後に長期金利が3%、株式益回りも3%にサヤ寄せしたら、そのとき日経平均はどうなるか。

 今と同じ利益水準だとしても、株式益回りが5.86%から3%になる前提で、日経平均は今の1.95倍、7万8000円という、とんでもない水準まで上がる計算になる。

 もちろん長期金利が3%まで上昇するのは、実現したとしてもかなり先だろうし、企業の利益水準も変動する。あくまで1つの可能性にすぎない。それでも24年1月初めの時点で、2カ月後に日経平均が4万円になっているなどと、誰も想像できなかった。5年後なのか10年後なのか、日経平均7万8000円といわれると途方もない水準に聞こえるが、34年ぶり高値を付けた日本株市場は、これまでの常識や物差し、思い込みを排除しないと、その隠れた実像が見えてこない。日経平均8万円時代は、絵に描いた餅とは言い切れない。

2024年3月4日、日経平均が史上初めて4万円を突破。日本企業の確実な成長が見込めると同時に、不安視された賃上げも順調に進んでいる。4万円は単なる通過点にすぎない。マーケット取材30年超の日経記者が語る日本の強みとは?

鈴木亮著/日本経済新聞出版/1760円(税込み)