ネットの新しい動きとして、「Web3(Web3.0)」に大きな注目が集まっています。NFT(非代替性トークン)、DAO(分散型自律組織)、暗号資産といったキーワードが次々と登場し、それらに関するベストセラーも生まれています。ただ、この新しい潮流を捉えようとしても、Web3の概念自体が分かりにくく、どの本を読めばよいのかも悩ましいものです。そこで、 『アフターデジタル』 などの共著者であり、ネットの最新情報に詳しい尾原和啓さんにWeb3とは何か、今読んでおきたい本はどれかを聞きました。

未来は人類の歴史を知り、「韻を踏む」法則で考える

 僕の好きな言葉にマーク・トウェインの「歴史は繰り返さないが韻(いん)を踏む」というものがあります。まさにこの言葉通り、全く同じではないけれど、似たようなことが何度も繰り返して起こるのが技術革新というものです。

 どんなものが成功し、どんなものが失敗するかという物事の隆盛にはパターンがあります。僕はその法則性を認識し、これから起こる事象の可能性や確率の見極めがすごく大事だと思っています。そのためには過去、つまり歴史を知ることが有益です。

 前回、『ブロックチェーン・レボリューション』(ダイヤモンド社)を紹介する際に、ブロックチェーン技術で「価値の保存と蓄積、流通」で社会が変わるとお話ししました。過去には、「価値を保存する」ことによって僕らが今生きている社会が生まれたという歴史があります。「歴史は繰り返さないが韻を踏む」と考えると、今度は「価値を流通させる」ことで社会が変わるのではないでしょうか。

 「価値を保存する」とはどういうことか。例えば、食料を保存する歴史で考えると分かりやすいでしょう。生きるのに最も大事なのは食料です。ただし、食料は時間が経つと腐敗してしまいます。狩猟で得た獣の肉も、採集によって得た木の実や果物なども、保存するすべがなければ、個人、あるいはコミュニティーで食べきれる以上の食料を得ても、無駄にしてしまうだけでした。

 ところが、小麦や米などの食料を保存できるようになったことで、僕たちの社会は大きく変わりました。さらに、食料を流通できるようになったことで僕らがどう変わったのかが分かれば、「食料」を「情報」に置き換えて考え、次に何が起こるか、その大枠を予想する手掛かりになるはずです。

「食料は価値の保存から流通になった。食料を情報に置き換えることで未来を予想する」(写真=的野弘路)
「食料は価値の保存から流通になった。食料を情報に置き換えることで未来を予想する」(写真=的野弘路)
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まずは人類の行動や社会の変化の歴史を読む

 そう考えたときにWeb3を深く理解するために読むべき本は、ビル・ゲイツやマーク・ザッカーバーグが絶賛した 『サピエンス全史――文明の構造と人類の幸福』 (上)(下)(河出書房新社)です。『サピエンス全史』には、人類の数万年にわたる行動や社会の変化が紹介されています。

 最近でも、技術によって人間の行動は大きく変わりました。ここで僕らが注意したいのは、「技術そのものが何かを変える」のではなく、「技術によって社会的な制約がなくなり、その結果として、社会や経済、行動の様式が変わる」ということです。

 具体的な例を挙げると、昭和の時代に誰かと会うには「渋谷駅のハチ公像の前」などと場所を決めて待ち合わせをしていました。駅からぽつんと孤立したお店に行くのは今よりもずっと難しかったですよね。都市部の地下鉄を乗りこなすにも、小さく折り畳まれた路線図を見ながら乗り換えの計画を立てる必要がありました。

 ところが、今はネットの口コミサイトや地図、位置情報アプリのおかげで特定の場所で待ち合わせなんてせずに、簡単にお店で合流できるようになりました。店側にしても、イタリアンなら恵比寿、フレンチなら銀座と、わざわざ出店コストの高い駅近の場所に開店する必要がなくなりました。

 これが新たな技術の登場によって、人間の行動が変わり、さらに社会の構造も変わっていくということです。『サピエンス全史』からは、そういう社会が変わる仕組みを読み取るヒントを得られます。

『サピエンス全史』からは、新たな技術で人間の行動や社会が変わった歴史を学べる。新技術のWeb3で未来がどう変わるのかのヒントも得られる
『サピエンス全史』からは、新たな技術で人間の行動や社会が変わった歴史を学べる。新技術のWeb3で未来がどう変わるのかのヒントも得られる
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「株式会社」や「利息」が禁じられた経済の歴史から学ぶ

 歴史から学ぶという点で同様にお薦めなのが、Podcastのコテンラジオです。「価値の保存と流通」を理解するのに、コテンラジオの 「S12.お金の歴史」 というシリーズがとても役に立ちます。

 経済の歴史を振り返ると、今では意外に思えることが多くあります。例えば、株式会社という仕組みが考え出された当時、イギリスではこれが禁じられていました。また、資本主義とは資本で資本を生む、お金を元にお金をもうけることを目的としていますが、その一例である「利息」は、多くの宗教で禁止されていたのです。

 なぜ、株式会社は当初恐れられていたのか。
 なぜ、利息を宗教が禁止していたのか。

 そして、ユダヤ人はなぜそうした規制をかいくぐり、世界に広がり、富を築くことができたのか。

 Web3の特徴である非中央集権や自律分散は、かつての株式会社や利息くらい画期的なことかもしれません。価値の保存と流通どころか、価値そのものがプログラムによって自動的に管理されるので、これまでのウェブとは大きく違います。そんなラディカルなWeb3の時代が来ようとしている今、資本主義とユダヤ人の歴史を知ることは、分散の最新技術の理解につながるはずです。

技術がもたらすインプットとアウトプットを理解すれば十分

 Web3の特徴には「スマートコントラクト」と呼ばれる契約や取引、「DAO」と呼ばれる分散型自律組織がありますが、それらを実現する目新しい技術に翻弄されている人が多くいます。こうした技術を目の色を変えて追いかけないと時代から置き去りにされてしまうような、そんな恐怖感をみんなが抱いているのでしょう。でも実際は、そんな恐怖感を抱く必要は全くありません。

 基盤となる技術、いわば未来へ続く道路を作る人たちは技術の本質を知っておく必要があります。しかし、世の中の大半、道路を利用するだけの人は乗換案内やグルメサイトを利用しておいしいお店に行くユーザーです。乗換案内サービスや口コミサイトがどんな技術で作られているかをすべて理解する必要はないのです。

 ですから、Web3に関わる技術そのものを理解しようとして混乱するより、技術によって何ができるようになり、人間の行動や社会がどう変わり、結果として社会にどんな可能性が生まれるのかを知ることが大事なのです。

 Web3の可能性を考えるには、 『ラディカル・マーケット 脱・私有財産の世紀――公正な社会への資本主義と民主主義改革』 (東洋経済新報社)が非常に有用で素晴らしい本です。「ラディカル・マーケット」とは、オークションを中心とする誰もが参加可能な自由な取引市場のことを指しています。

 共著者のエリック・A・ポズナーは本書で、現在の社会はそもそも私有財産を認めているからこそいろいろなひずみが出ているのではないか?という疑問を投げかけています。この前提に立ち、「私有財産を限定すれば、社会の格差を縮小し、分断を解消できるのではないか」となどの提案をしています。つまり、現在の社会構造をひもとき、その一部を変えることでどれだけの変化が起こり得るのかを示してくれるのです。

 本書を読む上で大事なのは、本の中の議論をすべて理解することではありません。非常に難しい内容なので、理解できない部分や数式などは読み飛ばし、事例だけを拾って読むのもいいでしょう。

 社会システムを構築しようという立場の人なら議論そのものも理解する必要があるでしょうが、一部の人を除き、基本的に僕らは社会システムを利用する側でしかありません。使い方とやってはいけないことさえ知っていれば、冷蔵庫や電子レンジの動作原理をすべて知らずとも使いこなせるように、社会のどこを変えればその結果としてどんな変化が起こり得るのかを知ることが大事です。

 繰り返しになりますが、本書はすさまじく内容が難しいので、すべてを理解しようとせず、理解できない部分は飛ばして読むことをお勧めします。

 資本主義では常識とされていることのたった一部分を変えるだけで、どれだけの変化が起こり得る可能性があるのか。『ラディカル・マーケット』から読み取るべきは、そのインプットとアウトプットの関係性です。

「ラディカル・マーケット」とは、オークションを中心とする誰もが参加可能な自由な取引市場のこと。事例だけ拾って読むのもお勧め
「ラディカル・マーケット」とは、オークションを中心とする誰もが参加可能な自由な取引市場のこと。事例だけ拾って読むのもお勧め
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取材・文/稲垣宗彦