「慶應義塾の代名詞」といわれる三田キャンパスでは、文学部の2~4年生、経済・法・商学部の3・4年生、文学・経済学・法学・社会学・商学・法務研究科の大学院生など多くの学生が学ぶ。国の重要文化財である三田演説館や赤レンガの図書館旧館など歴史的な建物が立ち並ぶ、アカデミックな雰囲気が特徴的だ。三田キャンパスの慶應義塾生活協同組合・三田書籍部店長の山川夏代さんに、品ぞろえや売れ筋などについて伺った。
来客の顔が見える店舗で「広く深い」品ぞろえを
三田キャンパスは、各学部の上級生や大学院生が通うキャンパス。多くの研究所も設置されており、学部生や大学院生、研究員、先生方といったさまざまな人が来店されるため、より専門的な品ぞろえを意識しています。
2017年の全面改装を機に、それまで店舗裏にあった事務所をなくし、フラットでオープンな空間にしました。現在はスタッフ全員が、来店客の顔が見える位置で働いています。これにより、来店客がどんな本を手に取っているのか、どんなテーマに興味を示しているのかが把握しやすくなったほか、スタッフが学生や先生方から声をかけてもらう機会も増えました。皆さんとコミュニケーションを取りながら日々ニーズを拾い、品ぞろえに生かしています。
授業や研究に必要な専門書を広く深く取りそろえる一方で、知的好奇心をくすぐるような売り場づくりにも注力しています。
店舗入り口には新聞や雑誌などの書評欄で取り上げられた書籍を紹介するコーナーをつくっているほか、今年であれば関東大震災から100年に合わせて災害復興学の先生とコラボレーションして関連書籍コーナーをつくったり、慶應塾生新聞が選んだ本を紹介したり、出版社ごとのフェアを行っています。授業の合間などに「ちょっと寄ってみようかな」と思えるような店舗を目指しています。
売れ筋はジェンダー論やフェミニズム、慶應関連本も根強い人気
三田書籍部では最近、 『ケアの倫理』(ファビエンヌ ブルジェール著、原山哲、山下りえ子翻訳/白水社) をはじめとする、ジェンダーやフェミニズムの関連本がよく売れています。特に大学院生からの要望が多いですが、卒業論文や修士論文でこの分野をテーマに選ぶ学生も多いようです。心理学や人文教育、人権教育などを専門とする先生方がお求めになる機会も多いので、棚に厚みを持たせるようにしています。
また、慶應義塾の関連本や、創設者である福沢諭吉先生の本もコンスタントに売れています。前者は、慶應義塾高等学校が夏の甲子園で優勝したことを受けて関連本が相次いで刊行されたことで、購入する人が増えています。
「改めて、母校のことを深く知りたい」と考える人もいるようです。後者は、『学問のすゝめ』を中心に売れ続けていますが、授業で取り上げられる機会も増えているようです。在校生だけでなく、卒業生や近隣に住む方々が購入されるケースもあります。母校愛を感じますね。
個人的に学生にお薦めしたいのは、 『キャンパスの戦争』(阿久澤武史著/慶應義塾大学出版会) と 『日吉台地下壕 大学と戦争』(亀岡敦子、阿久澤武史、都倉武之、安藤広道著/高文研) 。著者の阿久澤氏は慶應義塾高等学校の校長で、長年、日吉台地下壕をはじめとする慶應義塾日吉キャンパス内の戦争遺跡や、その時代の塾史研究に関わってきた方です。
いずれも2023年刊行の本ですが、今この時代に発売されたことに意味があると感じています。戦時中、兵士たちが行き交うキャンパスで、悩み苦しみながらも勉強を続けてきた学生たちがいたからこそ、今の慶應がある。この本を通じて、その事実を一人でも多くの人に知ってほしいと願っています。
学生の皆さんには、どんなものでもいいので、まずは「本で文字に触れる」体験を増やしてほしいですね。スマホでの読書は気軽で便利ですが、紙の本を読むときは片手間ではなく、少なからず「読もう」と思って臨むので、何年たっても印象に残っていたりします。それが思わぬ気付きや、アイデアのきっかけになることもあります。前述の『キャンパスの戦争』などをお薦めしたいところですが、推理小説でもノンフィクションでも、雑誌でもいい。自分の引き出しを増やすためにも、まず1冊手に取ってみてほしいと思っています。
そのために我々スタッフも、皆さんの声を聞き、一人ひとりの心のキーワードに合致するような書籍を取りそろえるべく努力しています。いつ訪れても、何かのきっかけになるような本と出合える。そんな店舗であり続けたいですね。
文/伊藤理子 構成/市川史樹(日経BOOKプラス編集部) 写真/佐々木 睦





