京都御所に隣接し、同志社大学文系学部の1~4回生が学ぶ同志社大学・今出川キャンパス。同キャンパスの北側に位置する「良心館ブック&ショップ」は、大学生協最大規模の売り場面積と在庫数を誇り、多くの学生や教員でにぎわう。同店で2018年から書籍を担当している山形拓史さんに、売れ筋や注目本、学生たちへのメッセージなどを伺った。

同志社生協「良心館ブック&ショップ」生協書店としては全国屈指の規模を誇る
同志社生協「良心館ブック&ショップ」生協書店としては全国屈指の規模を誇る
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地下鉄の駅すぐの好立地で、一般客の来店も多い

 ここ「良心館ブック&ショップ」は、大学生協のなかでは売り場面積でトップ、約5万冊という在庫数も東京大学と並び最大規模を誇っています。今出川キャンパスには文系学部が集まっているので、人文社会系の専門書を取りそろえているほか、雑誌や小説、就職対策本、資格参考書など、幅広い品ぞろえを意識しています。地下鉄今出川駅すぐの好立地にあるため、学生や先生方はもちろん、近隣の一般客の来店も多いのが特徴です。学生の街といわれる京都でも近年はいわゆる「町の本屋さん」が減ったことで、地域の総合書店としての役割も持つようになっています。

 学生に少しでも本に触れてもらえるよう、さまざまなイベント企画にも注力しており、定期的に店内でゲストを招いたイベントや読書会、新入生向け書店ガイドツアーなどを開催しています。同志社大学には短歌会があり、活動が盛んなこともあって、2023年秋に開催した歌人の岡野大嗣さんによる短歌教室&トークイベントは大盛況でした。読書会への参加者も増えつつあり、今後は月1回ペースで開催できればと考えています。

同志社生協 良心館ブック&ショップの山形拓史さん
同志社生協 良心館ブック&ショップの山形拓史さん
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京都の大学では短歌会の活動が盛んだという。同志社生協でも短歌会とコラボして短歌イベントを実施している。店内には短歌本コーナーも設けている
京都の大学では短歌会の活動が盛んだという。同志社生協でも短歌会とコラボして短歌イベントを実施している。店内には短歌本コーナーも設けている
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売れ筋はフェミニズム関連本。同志社大教員・研究者の著書が人気

 最近の売れ筋は、 『ケアの倫理』(岡野八代/岩波新書) をはじめとするフェミニズム関連本です。『ケアの倫理』著者の岡野八代さんは本校の教授でもあり、特に注目されていますが、この本に限らずフェミ二ズム本は全般的に売れ行きがいいという印象です。フェミニズム関連の本の人気は本校に限ったことではなく、他校でも動きがいいと聞いていますが、同志社大学の学生は半数以上が女性ということもあり、なおさら注目度が高いのかもしれません。

 SNSや著名人の発信をきっかけに本が売れる傾向も強まっています。ChatGPTなど生成AIの隆盛に合わせたタイムリーな内容で話題の 『言語の本質』(今井むつみ、秋田喜美著/中公新書) は、「ゆる言語学ラジオ」のSNSでプッシュされたこともあり、ヒットを続けています。また、ヨルシカが文学作品をオマージュして作った音楽画集『幻燈』で取り上げられている文学作品も話題になっており、 『老人と海』(ヘミングウェイ著/角川文庫など) 『アルジャーノンに花束を』(ダニエル・キイス著/ハヤカワ文庫NV) などの歴史ある文学作品が売れています。生協としてはこういう動きを敏感に察知し、在庫を増やすなどの対応を取るようにしています。

 個人的に注目しているのは、同志社大学に所属、もしくは出身の研究者や作家の著書です。前述した『ケアの倫理』のほか、グローバル・スタディーズ研究科の三牧聖子准教授の著書 『Z世代のアメリカ』(NHK出版新書) 、三牧さんとグローバル地域文化学部の和泉真澄教授の共著 『私たちが声を上げるとき アメリカを変えた10の問い』(集英社新書) 『クィア・シネマ』(菅野優香著/フィルムアート社) のほか、同志社大学出身の作家である藤野可織さん、松田青子さん、大前粟生さんの本の動きには注目しています。

 同志社大学には神学部があるため、神学部出身のユニークな研究者や牧師による「ブラック・ライブズ・マター」(BLM=黒人の命も大事だ)やジェンダーに関する本についても積極的に扱っています。例えば、榎本空さんの 『それで君の声はどこにあるんだ? 黒人神学から学んだこと』(岩波書店) 、山下壮起さんの 『ヒップホップ・レザレクション』(新教出版社) などをコーナーを設けて紹介しています。今出川キャンパスには同志社礼拝堂(チャペル)があり、神学部に限らず礼拝に参加する学生も多く、これらの本に注目する人も少なからずいるようです。

同志社出身者や関係者の本が並ぶ「同志社コーナー」
同志社出身者や関係者の本が並ぶ「同志社コーナー」
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生涯の財産になり得る「古典」を読んでみてほしい

 学生の本離れの深刻さを、日々感じています。コロナ禍後、キャンパスには学生が戻りましたが、生協書店への客足は完全には戻っておらず、危機感を覚えています。

 今の大学生は、子どもの頃から身近に本屋さんが少なく、「何となく本屋さんに行って気になる本を見つける」という習慣がない上、さまざまなものに興味を持つ中高生時代に行動が著しく制限されるなど、本に自由に触れる機会が少なかったと思われます。

 加えて、昨今の経済状況の背景に、一人暮らしの学生への仕送り額が減少していることもあると考えています。2024年3月に発表された全国大学生活協同組合連合会の調査によると、下宿生の1カ月あたりの仕送り額は約7万円。生活を考えると、なかなか本にお金を回せないというリアルな現状もあります。

山形さんお薦めの2冊。左は同志社大学商学部教授で社会学者の佐藤郁哉氏が暴走族と共に生活して書いた『暴走族のエスノグラフィー』(新曜社)。右は同志社大学で仏教史を専攻した作家の澤田瞳子さんの直木賞受賞作『星落ちて、なお』(文藝春秋)
山形さんお薦めの2冊。左は同志社大学商学部教授で社会学者の佐藤郁哉氏が暴走族と共に生活して書いた『暴走族のエスノグラフィー』(新曜社)。右は同志社大学で仏教史を専攻した作家の澤田瞳子さんの直木賞受賞作『星落ちて、なお』(文藝春秋)
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 そんななか、少しでも学生の負担を減らすべく、文庫・新書を3冊以上買うと15%オフになる「まとめ買いフェア」を定期的に行っています。文庫と新書の違いが分からない学生も多く、驚くこともありますが、まずはこういう機会を活用して本との接点を増やしてもらいたいですね。そして、読書習慣が身に付いたら、できれば古典にも手を伸ばしてほしいと願っています。

 はやりの本はもちろん素晴らしいのですが、古典は長くたくさんの人によって読み継がれてきたものであり、時間がたってもその価値が薄れません。ドフトエフスキー『カラマーゾフの兄弟』の初版発行は1880年ですが、今もその価値は廃れることなく、多くの人に影響を与え続けています。

 20歳の時に読んで感銘を受けた古典は、40歳、60歳、80歳で読むとまたそれぞれ感じ方が違うはずです。自身の生涯の財産になり得るので、ぜひ一冊、手に取ってみてほしいですね。

取材・文/伊藤理子 構成/市川史樹(日経BOOKプラス) 写真/奥田晃介

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