相手が本音を話してくれない! それはあなたの一言に原因がある場合も……。つい口にしがちな善意のアドバイス、「わかるわかる」という同意。実はこれらはすべて逆効果。「NVC(非暴力コミュニケーション)」理論を軸に、コミュニケーション・コンサルタントが教える「危ない一言」と相手の心が開く会話の極意。日経ビジネス人文庫『自分と相手の「本音」がわかる会話術』(西任暁子著)から抜粋・再構成してお届けする。
本音から遠ざかる受け答え
多くの人がよかれと思ってやっているけれど、相手が本音から遠ざかってしまうコミュニケーションがあります。
この「本音から遠ざかる受け答え」には、たとえば、
- アドバイスする
- 考えや価値観を述べる
- 同意する
などがあります。それぞれ見ていきましょう。
相手は「わかってほしい」気持ちが強い
まずは「アドバイスする」です。
相手のためを思って伝えているのに受け取ってもらえないとしたら、相手は求めていないのかもしれません。
多くの場合、アドバイスよりも、共感してほしい、わかってほしいと思う気持ちのほうが強いものです。
アドバイスを聞くには、受け取るためのゆとりが必要です。
そのゆとりは、共感する聞き方がつくってくれるでしょう。相手の感情と、すべての行為の源にある「大切にしたい何か(ニーズ)」に寄り添って話を聞くことで、アドバイスを聞き入れるスペースができるのです。
またアドバイスを伝えるときは、ひとつの提案に過ぎないことを忘れずにいたいですね。
自分の考えが正しいと思えば、マウントを取ることになってしまいます。
聞き入れるかどうかという、相手の自由を尊重しましょう。
それでもアドバイスしたくなるときは、自分の心を観察し、ニーズに目を向けます。
なぜアドバイスしたくなるのか
たとえば、悩む相手に自分を重ねて苦しくなってしまい、そこから抜け出したくてアドバイスせずにはいられないのかもしれません。
その場合は「私は安心したいんだなあ」など、ニーズに気づいて自分に共感します。
あるいは、もちかけられた相談が目の前にあるのに、それを解決できないことが苦しいのかもしれません。
自分に問題解決能力がないという無力さを感じたくなくて、アドバイスしてしまうのです。この場合は、「私は相手の役に立ちたいんだな」と自己共感できそうです。
「そんなこと、自分でなんとかしてよ」と言いたくなるときは、「私は、ひとりで頑張ってきた大変さをわかってほしいんだなあ」と心で唱えたり、「ささいなことを気にするなよ」と言いたくなるときは、「私には、小さなことでは動じない広い心が大切なんだなあ」と唱えたりして、自分に共感できるでしょう。
自分が本当に大切にしているもの(ニーズ)にたどり着いて自分に共感できたら、イライラは収まり、相手に寄り添うゆとりが生まれると思います。
それでもアドバイスをしたいときは、相手にこうたずねてみませんか。
「今、アドバイスが思い浮かんだんだけど、言ってみてもいいですか?」
相手が解決を求めているのかどうかわからないので、確認してみるのです。
このようにたずねると、相手はアドバイスを聞く心の準備ができるでしょう。
本音を聞いてほしいサイン
本音から遠ざかる受け答えの2つ目は「価値観や意見を述べる」です。
先日、カフェで本を読んでいると、隣に座る女性グループの会話が聞こえてきました。
「会社へ行きたくないんだ」
ある人がこう言ったところ、「行かないと食べていけないじゃない」という批判や、「そういうときは、会社へ行く前に何か楽しみをひとつつくるといいよ」といったアドバイスが聞こえてきました。
そして別のある人が、「会社ってホントにつまらないよね」と自分の意見(価値観)を述べると、話題はそちらへ移っていきました。
もし誰かが「そっかあ。◯◯ちゃんは、会社へ行きたくないんだね」と話を聞いて伝え返していたら、彼女は心の内を打ち明けられたかもしれません。
私たちは、本音を隠したいのではなく、聞いてほしくてサインを送っているのですが、お互いに聞くゆとりを持てずにいることが多いのだと思います。
本当は誰もが、本音を聞いてほしいし、わかってほしい。
でも、まわりでそういった会話を聞いたことがなければ、どうすればいいのかわかりません。
それでもなんとか力になりたくて頑張って聞こうとするのですが、役立つアドバイスも、話を広げる質問も、会話を盛り上げる同調も、意見や価値観を述べることも、かえってお互いの距離を遠ざけてしまいがちです。
ただ聞いてもらえること、寄り添って共感してもらえることは、想像以上にパワフルな体験です。
意見したくなったらひと呼吸
会話の途中で、何か言ってあげなければと焦ることがあったら、ひと呼吸して、聞くことに戻りましょう。戻るのがむずかしければ、自分のニーズを探して共感します。
何か言ってあげなければと焦るのは、相手の力になりたい、貢献したいなどのニーズがありそうです。
そのために、無理をして何かを言う必要はありません。間(ま)を埋める必要もありません。
間に何も言わないでいると不安になりますが、間があるからこそ、相手は自分の心を感じることができます。むしろ、いつも以上に間を大切にしていただきたいのです。
たとえ長い間ができたとしても、あなたがリラックスして聞いていれば、相手もリラックスして話してくれるでしょう。
自分の心の状態と相手の状態は、共鳴して同じになっていきます。
無理して同意しなくていい
本音から遠ざかる受け答えの3つ目は「同意する」です。
まずお伝えしたいのは、無理して同意しなくてもいい、ということです。
話を合わせないと嫌われる、空気が読めないと浮いてしまう、といった不安の奥には、居場所やつながりを求めるニーズがありそうです。
でも、落ち着いて考えてみると、自分に嘘をついて同意しても、安心できる居場所やつながりは得られないことに気がつきます。
無理をして同意する必要はありません。
そうしなくても、相手の意見を受け取ることはできるからです。
「考えが違う」のは当たり前
「同意する」と「受け取る」、両者の違いを見てみましょう。
- 同意する:「私も、あなたと同じように◯◯だと考えます」
- 受け取る:「私は、あなたが◯◯だと考えている(感じている)という事実を、尊重します」
このように、「同意」は、相手と同じように考えることで、「受け取る」とは、相手の考え方や感じ方を否定せずに尊重することです。
誰もが違う考えを持ち、違う感じ方をします。それは自然なことです。
「聞いてもらえた」と感じられるのは、そんな違いを否定せず、批判せず、ただ受け取ってもらえたときではないでしょうか。
「わかる」と言われてうれしくない理由
「わかる!」と同意された人の表情を見ていると、多くの場合、あまりうれしそうではありません。それは、「わかる」と言っている人がわかっているのは、あくまで自分の体験だからです。
たとえば、人間関係に悩む友人に「わかる」と言うとき、その人が思い出しているのは自分が悩んでいたときの苦しみです。
「わかる!」という言葉には、「私も人間関係がうまくいかなかったときつらかったから、あなたも同じようにつらいんでしょ?」という意味が含まれます。
そのため、相手の体験は自分と同じだと決めつけているように聞こえてしまうのです。
結果として言われた相手は、「あなたの体験と私の体験は違う。あなたは私のことをわかっていない」と感じてしまうことになります。
相手の存在そのものを肯定する
小説を読んでいるときや映画を見ているときには、登場人物が自分と異なる価値観を持っていても、説得しようとは思いませんね。
「そんな考え方をするんだなあ」と、受け取るのではないでしょうか。
どんな考え方をするかは、生まれ育った環境に大きな影響を受けますから、もし自分が、相手の両親のもとに生まれて、完全に同じ育ち方をしていたら、自分も相手と同じ考えを持っていたかもしれません。
私たちは、少なくともその瞬間には、違う考え方をしたくてもそのようにしか考えられないし、感じられないのです。
だから相手の話を聞いて受け取ることは、相手の歴史も含めた存在そのものを肯定することになります。それこそが、多くの人が求めているものだと思うのです。
もし世界中の人が同じ考えだったら、世界はこんなに豊かな創造にあふれていないでしょう。
違いを受け入れることは、新たな視点や学びをいただくことであり、自分が広がっていくことなのです。
『NVC 人と人との関係にいのちを吹き込む法』マーシャル・B・ローゼンバーグ(安納献 監訳・小川敏子 訳/日本経済新聞出版、2012年)
『 自分と相手の「本音」がわかる会話術 』
「自分も相手も大切にするコミュニケーション術」を、①自分の本音に気づく→ ②相手の本音を聞く→ ③自分の本音を伝える、の3つのステップで解説。心の奥に隠された「本当に言いたかったこと」とその上手な伝え方がわかります。ビジネス・日常のあらゆるシーンで応用可能です。
西任暁子著/日本経済新聞出版/880円(税込み)

