怒りや悲しみといった「不快な感情」も抑え込む必要はない。脳科学的にも、それらは90秒で終わらせることができるのだから。NVC(非暴力コミュニケーション)理論を軸に、コミュニケーション・コンサルタントが感情との上手なつき合い方、怒りを長引かせない・ため込まない方法を解説。日経ビジネス人文庫『自分と相手の「本音」がわかる会話術』(西任暁子著)から抜粋・再構成してお届けする。

怒りを他人に見せてはいけない?

 「感情はコントロールするもの」。そう教えられて、自分の感情にあまり目を向けずに生きている人がほとんどでしょう。
 特に、怒り、悲しみ、寂しさなどの不快な感情は、人に見せてはいけない「悪い感情」として抑圧されがちです。

 でも、感情にいい・悪いはあるのでしょうか

 ある父親は収入が減ってしまい、子どもを大学に進学させてやれるか、「不安」な気持ちでいっぱいでした。
 この不安は、子どもの望みをかなえてあげたい愛情があるからこそ生まれてくるのではないでしょうか。

 大切な人を失って、深い「悲しみ」に打ちひしがれることもありますね。
 できればそんな思いはしたくありませんが、悲しみは、失った人がどれほど大切な存在かということを教えてくれるでしょう。

抑え込んだ感情は後で噴き出す

 そうは言っても、不快な感情は避けたいと思うのが人の性(さが)。
 何かで気を紛らわせたり、抑えたりしたくなるものです。

 そうして避けた感情は、どこへ行くのでしょうか。

 たとえば、訪問先でお客様に理不尽なことを言われてムカムカしたとします。
 「こんなことで腹を立てても仕方がない」
 そう自分に言い聞かせ、怒りを抑え込むことができたら、ビジネスパーソンとしては正解かもしれません。

 でも、ムカムカする気持ちは多分なくならないでしょう

 納得がいかないまま会社に戻ると、部下に「報告があるので、お時間いただけますか?」と言われました。
 トラブルの報告ですが、まわりくどい説明にイライラして「それで、結論は!? 」とつい怒鳴ってしまうかもしれません。

 そうして家に帰ると、子どものおもちゃが床に散らかっています。
 その瞬間にスイッチが入り、「どうしてちゃんと片付けないんだ! いつも片付けろって言ってるだろう」と声を荒らげてしまう……。

自分より「弱い相手」に爆発

 こんな具合に、怒りは抑えても他で噴き出すのです。
 しかも、たちが悪いことに、部下や家族など、自分よりも立場の弱い人に向けて爆発します。

 感情は、抑え込んでもなくなりません。
 抑圧した分だけ大きくなって他の場所で爆発すると、大切な人を傷つけてしまう可能性もあるのです。

不快な感情とどうつき合うか

 では、不快な感情とは、どのようにつき合っていけばいいのでしょうか。

 感情は、出てきたときに抑え込まずに、しっかりと感じると終わっていきます。
 泣くとすっきりして軽くなる、あの感覚で、小さな子どもは、それがとても上手です。

 先日、買い物をしていると、アイスクリームを買ってもらえずに泣きじゃくる男の子がいました。
 床に転がって「いやだー」とわめきながら、「悔しい」「むかつく」「悲しい」といった気持ちを全身で味わっています

 そこへ、柔和なおじいさんがやってきて、「どうしたのかな」と声をかけました。
 男の子はおじいさんの目をじっとのぞき込み、興味津々な様子。
 アイスクリームを買ってもらえなかった悔しさはどこへやら、感じ切った感情は終わったようです

脳科学的にも怒りは90秒で消えていく

 不快な感情は感じれば終わっていくことが、脳科学の研究でもわかっています。

 『奇跡の脳』(新潮文庫)を著した脳科学者ジル・ボルト・テイラー氏によると、脳から放出された怒りの感覚をもたらす化学的な成分は、90 秒以内に血液中からなくなるそうです。

 怒りは90 秒で終わらせられるのです。

 もし90 秒を過ぎてもまだ同じ怒りが続いているとしたら、それは自分がそうなるように選んでいるとテイラー氏は言います。

 選んでいるとは、一体どういうことでしょう。
 私の体験を例にご説明します。

 夏のある日、混み合う電車に乗っていると、サンダルを履いた素足を革靴で踏まれてしまいました。
 思わず「いたっ!」と声が出ると同時に怒りも出ましたが、あまりの痛みで動けません。

 ただただ痛みを感じていると、どうでしょう。
 痛みが引く頃には、怒りも一緒に引いていたのです。

 もしあのとき、頭の中で「どうしてちゃんとまわりを見ないのよ!」と相手を責める余裕があったら、足の痛みが引いても怒りは続いていたかもしれません。

思考を止めて怒りを「ただ感じる」

 選んでいるとはすなわち、考えることによって感情を長引かせているということです。

 感情を終わらせるためには、思考を止めて、湧き起こってくる感情や感覚を感じればいいのです。

 「どうして私が踏まれなきゃいけないのよ」とか「なんでこんな靴を履いてきちゃったんだろう」などと考えれば考えるほど、感情は長引くでしょう。

 終わらない痛みはないように、終わらない感情はありません。
 「考え」という燃料をくべなければ。

■主要参考文献
『NVC 人と人との関係にいのちを吹き込む法』マーシャル・B・ローゼンバーグ(安納献監訳・小川敏子訳/日本経済新聞出版、2012年)
こらえた怒りは後で必ず噴き出してしまう(写真 Peak River/stock.adobe.com)
こらえた怒りは後で必ず噴き出してしまう(写真 Peak River/stock.adobe.com)
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西任暁子著/日本経済新聞出版/880円(税込み)