昭和世代から見ると、ナゾが多い「Z世代」。Z世代から見ると、昭和世代はえたいの知れない「昭和人間」。両者が共生するためにはどうすればいいのでしょうか。『Z世代の頭の中』(日経プレミアシリーズ)でZ世代を徹底的に深掘りした牛窪恵さん(世代・トレンド評論家)と、『昭和人間のトリセツ』(同)で昭和生まれの人間の不可解な生態をつまびらかにした石原壮一郎さん(コラムニスト)が語り合いました。2025年7月に紀伊國屋書店新宿本店で開催されたイベントの模様を収録。3回目は来場者からの質問に答え、Z世代の将来像、ロールモデルなどについて話します。

Z世代の親子関係は?

牛窪恵さん(世代・トレンド評論家)(以下、牛窪) ここからは来場者のみなさんのご質問にお答えしたいと思います。

Q Z世代はあまり欲がないとも聞きます。例えば、同世代の大谷翔平さんが活躍していても「自分もあれだけ稼いでやろう」とは思わないのでしょうか。

牛窪 『Z世代の頭の中』では、Z世代1600人以上に定量調査を実施しましたが、彼らにフリー回答で「(身近ではない)尊敬する人」を聞いたところ、断トツで1位が、大リーガーの大谷翔平選手でした。またインタビュー調査では、大谷選手が高校時代、夢を実現するために書いていたマンダラチャートを取り入れているという若者もいました。

 ただ、「自分は大谷選手みたいにはなれないし、あそこまではなりたくない」というのが正直なところだと思います。あのレベルになろうと思ったら、才能だけでは無理で、いろんなことを犠牲にしなきゃいけないし、睡眠をはじめ「毎日○時間」などキチンと時間も管理しなきゃいけない。そこまでするよりは、やっぱり無理しすぎず、自分の足元の幸せを大事にしたいと考える若者が大多数ではないかと思います。

「Z世代の多くは自分の足元の幸せを大事にしたいという気持ちが強い」と話す牛窪さん
「Z世代の多くは自分の足元の幸せを大事にしたいという気持ちが強い」と話す牛窪さん
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石原壮一郎さん(コラムニスト)(以下、石原) 我々の世代の大スターといえば、長嶋茂雄さんでした。僕らも長嶋さんになりたいけれど、なれなかった。でも、なれない自分を「なれないんだな」と受け止めていたのが我々の世代。慣れない理由を後付けでいろいろと考えて、「いや、自分にはほかにもっとやりたいことがあるから」と言っているのがZ世代という気がします。

Q 私も石原さんと同じく、新人類の世代です。Z世代は入社式に親が来るとのことですが(第2回「 牛窪恵×石原壮一郎 『仕事と結婚はトレードオフ』Z世代の結婚観 」参照)、自分は就職先も相談しなかったし、もちろん親は入社式に来ませんでした。大学の入学式、卒業式にも来ませんでしたね。私は地方出身で、いったん親元を離れたらあとは全部自分でやるのが当然だと思っていたからです。今は東京でも地方出身の学生が少ないのかもしれませんが、Z世代の親子関係は昔とは違うのでしょうか。

牛窪 1990年代後半に流行語になった「パラサイト・シングル」は、20、30代を過ぎても、未婚のまま親と同居し続ける若者のこと。なぜこの時代に流行語になったかといえば、親世代が「物分かりが良い」といわれる戦後生まれの団塊世代に入ってきたから(=なかよし親子)、そして、バブル崩壊とともに、親に学生の子どもを一人暮らしさせるだけの財力がなくなってきたからでしょう。

 今のZ世代の若者は、そのころ以上に親と仲が良い印象ですが、SNS(交流サイト)世代で、地方にいても中高生のころから様々な情報を得てきたため、一度は都会や海外に出て「自分の世界を広げたい」との思いも強いようです。今回のインタビューでも、「地方はレベルが低い」や、「狭いコミュニティーの中で終わりたくない」といった声も聞こえてきました。ただ、やはり親のほうは、金銭的な悩みもあるでしょうし、目の届かないところで一人暮らしさせるのは不安との思いもあるでしょうね。

石原 私も親は大学の入学式・卒業式には来なかったですね。まあ、来てほしいとも思わなかったけれども。でも、今は子どもが地方から都会に出てきたとしても、親のほうがしょっちゅう来ると思います。下宿探しから、洗濯機とか家電を買いに行くところまで「親は子どもの面倒をみるもの」と思っている。そこは大きく親子関係が変わっていますよね。

牛窪 名古屋や東海地方では、親が子に「車を買ってあげるから、その代わり実家にいて」と言うという都市伝説がありますね。

石原 僕は三重県出身ですけど、本当に言っていると思いますよ。今は親のほうが子離れが下手になっていますよね。

「親の子離れが下手になっている」と話す石原さん
「親の子離れが下手になっている」と話す石原さん
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ロールモデルがいないZ世代

Q 私も石原さんと同じ、新人類世代です。「Z世代」という言葉を聞いたときは、衝撃的でした。でも、仕事や推し活でZ世代の人に会うと、世代に関係なく話すことができて、刺激を受けています。私の仕事では、Z世代のリーダーがいるものの、「認めてもらいたい」という自己承認欲求が強く、なかなか突き抜けたリーダーになれていないように思います。いったい彼らはどうなりたいのか、今回の本の取材を通じて、何か見聞きしたことはありますか。

牛窪 将来像という点では、Z世代のみなさんに身近なロールモデルがいないんだと思います。国の第三者機関の経年調査では、「いずれ結婚するつもり」との回答割合は今も男女共に85%前後で、ここは30年前と大きく変わってはいません。ただ、結婚して、子どもを生み育てて、仕事もして…となると、女性以上に男性は、上の世代にロールモデルがいない。だから、男性も仕事と家事・育児を両立させるイメージが持てず、迷いがあるのかなと思います。

 リーダー像については、自分が旗振り役になるよりも、「みんなで力を合わせて目標に近づく」や、「共創で社会や会社をより良くする」といったニュアンスに関心が強い印象です。リーダーになりたくないわけではないのですが、昨今求められるのは「伴走型」ともいわれる等身大のリーダー像ですので、こちらもロールモデルが見つからないのではないかと思います。今後は、Z世代のお手本となる姿を見せてあげられる上司や先輩が増えるといいですね。

石原 今、牛窪さんが言ったように、「リーダーを目指すのは素晴らしい」と思えないのは、ロールモデルがいないんでしょうね。でも、Z世代がリスクヘッジのためにAプランだけでなく、Bプラン、Cプランを用意していると聞くと(第1回「 牛窪恵×石原壮一郎 Z世代は実は飲み会がそれほど嫌いではない 」参照)、「人生、そんなに計画通りに行かないぞ」と心配になります。少しずつ中途半端なことをしている気がして、将来的に本当に大きな幸せがやってくるのかどうか、30年後を見てみないと分からないですね。

Q 私は1997年生まれでZ世代です。質問というよりは感想になってしまうのですが、2つお話しさせてください。1つはZ世代もこの本を読んだほうがいいと思いました。私は社会人5年目ですが、周囲に自分と同じ価値観の人や同世代がいないとき、この本を読むと「自分と同じ考え方の人がこんなにいるんだ」と安心材料になると思います。2つ目はZ世代の友達や後輩が何を考えているのかを知るきっかけになりました。実生活でもコミュニケーションを取る際に役立てていきたいと思います。

牛窪 ありがとうございます。まさにZ世代の方々にも読んでもらいたいと思って本を書いたので、うれしいです。

石原 何としっかりした青年でしょうか。牛窪さんの本が素晴らしいのは「Z世代はこういう傾向です」というだけではなく、こういう時代背景があって、こういう傾向が生まれてきたと解き明かしてくれるところ。だから、なおさら心に響きますよね。

牛窪 『Z世代の頭の中』のインタビューでは、あるZ世代の女性が、こんなふうに言っていました。「自分たちにはロールモデルがいないけれど、SNSで『私はこんなふうに働きたい』とハッシュタグをつけてつぶやけば、たとえ少数意見でも『○○界隈(かいわい)』のように、賛同してくれる人が集まる。それが自分の力になるのだ」と。そうしたパワーはZ世代ならではで、私も勇気づけられました。

石原 昭和人間はZ世代と考え方や感性が違うのは当たり前ですが、Z世代と付き合う際には落とし穴がいっぱいあります。「説教をしたい」「過去の自分を肯定したい」「昔は良かったと思いたい」とかね。そういった甘い誘惑に負けず、Z世代と分かり合おうとすることが、結局は昭和人間を幸せに導いてくれるんじゃないかと思います。

イベントは紀伊國屋書店新宿本店で行われた
イベントは紀伊國屋書店新宿本店で行われた
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取材・文/三浦香代子 写真/鈴木愛子

日経プレミアシリーズ『 Z世代の頭の中
会社をすぐ辞める。恋愛・結婚は面倒。お金を使わない。メディアで語られる若者像はどこまで正しいのか? 実際のZ世代は、何を考え、なぜそう振る舞うのか? 令和の若者1600人への大規模調査と55人への直接取材で、彼らのナゾに迫る。

牛窪恵著/日本経済新聞出版/1210円(税込み)
日経プレミアシリーズ『 昭和人間のトリセツ
ややこしくもデリケートな「昭和生まれ」の深淵に切り込む本邦初? の書籍

なぜ10年前の出来事を最近のことのように語ってしまうのか? LINEが無意味に長文になる理由は? ――仕事観やジェンダー観など多様な切り口から「昭和生まれの人間」の不可解な生態に肉薄し、その恥部をもつまびらかにする日本初の書籍。「【注】知っておかなくても構わない昭和・平成用語集」も収録。

石原壮一郎著/日本経済新聞出版/990円(税込み)