学年ビリの成績から慶応義塾大学に合格し、2022年秋からは米コロンビア大学に留学している元「ビリギャル」の小林さやかさん。中学3年生のときには喫煙が見つかり、校長先生に「君は本当にわが校の恥だな」「人間のクズだな」という言葉をかけられたこともあったといいます。「トットちゃんとビリギャルがすごく重なる」と引き込まれ、今までに4回くらい読み返しているのが『窓ぎわのトットちゃん』。小林さんに影響を与えた本を紹介する連載第1回。
「君は、本当は、いい子なんだよ」
『窓ぎわのトットちゃん』 (黒柳徹子著/講談社青い鳥文庫)は私の母が一番好きな本で、私も大学生の頃に読みました。読み進めるうちに「トットちゃんとビリギャルがすごく重なる」と引き込まれ、今までに4回くらい読み返しています。
『窓ぎわのトットちゃん』は黒柳徹子さんが小学生時代のご自身を振り返って書かれた話です。他校では問題児扱いされたり、小学校1年生で退学になったりしたトットちゃんが、トモエ学園の校長・小林宗作先生に出会い、「君は、本当は、いい子なんだよ」と何度も声をかけられ、自信を取り戻していきます。
小林先生がトモエ学園で大事にされていた教えや、「その子の個性を大切にしよう」「個性の違いはあっても悪い子はいない」といったメッセージが伝わってきて、私も読み返すたびに違うページで涙がこらえられなくなります。まるで、「君は、本当は、いい子なんだよ」という言葉を私に言ってくれているみたいで。
思えば私も問題児で、中学3年生のときには喫煙が見つかり、校長先生に頭のてっぺんから足の先まで冷たい目で見られ、「君は本当にわが校の恥だな」「人間のクズだな」という言葉をかけられたこともありました。そのときは、自分がしたことは棚に上げて(笑)、「何で初めてしゃべるオジサンに、そんなこと言われなきゃいけないの!?」「校長が私の何を知ってるっていうの!?」と、ものすごく腹が立ったんですよね。
当時、周囲には私の本質を見ようとしてくれている大人がいなくて、そのことにものすごく憤りを感じていました。そして、そんな大人たちに対して心を閉ざしていました。
その後、偏差値30台のビリギャルとなり、高校2年生のときに進学塾の坪田信貴先生に出会ったら、坪田先生が「君、面白いね」と言ってくれたんです。だから、トットちゃんにとっての小林先生が、私にとっての坪田先生とも言えます。
初心に返りたいときに読み返す
小学生から読める『窓ぎわのトットちゃん』を、なぜ大学生になってから読んだかというと、それまでの私には読書習慣がなかったから。坪田先生が「慶応を受けるんだったら、小論文を書かないといけない。でも、いい文章を読まないと、いい文章は書けないよ」と言われ、本を読み始めたのは高校2年生の頃です。
その後、「ビリギャル」として知られるようになり、教育現場での講演会やイベントを重ねてきました。子どもたちだけではなく、先生や、ときには保護者の方とも対話し、教育についての悩みを聞いてきました。
実際に学校に足を踏み入れて分かったのは、「学校によって雰囲気がまったく違う」ということ。例えば、私がとある中学校に行き、講演しようと壇上に立つと、先生が「こらーっ、お前ら、静かにしろ! 小林さんに失礼だろ!」と怒鳴っているんです。その学校の先生には、講演の打ち合わせのときに、「いや、うちの学校の生徒は真面目なんですけど、自己肯定感が低くて。小林さんのお話でモチベーションを上げてやってください」とも言われました。
そんなふうに先生が威圧的だったので、私はあえてゆる〜く、「やっほー。ビリギャルの小林さやかで〜す」みたいな調子であいさつし、「先生がああやって言ってくれてるのに申し訳ないけど、ぜんぜん静かにしなくていいよ。私の話が面白かったら、『あの人、ウケるね』と隣の人とおしゃべりしてもいい。つまんなかったら、私の話術不足だから寝ててもいい。自由に聞いてね」と言いました。
また別の学校に行くと、子どもたちがみんなすごく生き生きしていて、「わー! ビリギャルのサインください!」と群がってくる。同じ年代の子どもたちなのに、この差は何なんだろうと考えたとき、やっぱり先生たちの影響が大きいんだなと思いました。先生たちが子どもたちの個性や人格をどう捉えているかで、学校での学びが変わってくるんです。
そうした教育の本質を『窓ぎわのトットちゃん』はユーモアたっぷりに書いているんだな、と気づき、ストンと腑(ふ)に落ちました。だから今でも、「私はビリギャルとして人に何を伝えるべきか」と迷ったときには読み返して、初心に戻るようにしています。
私が伝えたいのは「学びは自分の未来と世界を広げてくれるもの」だということ。そして、「子どもたちはみんな天才なんだよ」ということ。大人になったみなさんにも、ぜひ読んでもらいたい1冊です。
取材・文/三浦香代子 構成/雨宮百子 写真/小野さやか