学年ビリの成績から慶応義塾大学に合格し、2022年秋からは米コロンビア大学に留学している元「ビリギャル」の小林さやかさん。勉強することに意味を見いだせず、中学時代は大学受験もしないと決めていたといいます。「あのままだったら、一生、地元の名古屋から出ることもなかった」と当時を振り返ります。そんな小林さんに、「勉強って、自分が思っていた暗記とは少し違う。面白い」と気づかせてくれたのが坪田信貴先生でした。小林さんに影響を与えた本を紹介する連載第2回。

「自分を信じてくれる人」がいるか

 「ビリギャル」として、講演会やイベントなどの教育活動を行うようになり、一つ気づいたことがあります。それは「私は、ただただラッキーだったんだ」ということ。自分の母親や塾で出会った坪田信貴先生という、「自分を信じてくれる人」が近くにいたからです。

 私が「1年半で偏差値を40上げて、慶応大学に合格した」と言うと、「地頭が良かったからでしょ」「ビリといっても私立お嬢様校のビリでしょ」と、なぜか当時の私の学力にこだわる人が多いんですね。「まあまあスタートラインが高かったから、慶応に行けたんだろう」と思われるんです。

 でも、「それは違う!」と、誰よりも私自身が声を大にして言えます。中学受験を機に勉強をしなくなっていたので、高校2年生当時の学力は小学4年生並み。坪田先生と最初に会った入塾テストでは「strong」の意味を「日曜日」(Sunday)と書き、授業では「聖徳太子」を「せいとくたこ」と読み、「太っているから、そんな名前を付けられたかわいそうな女の子」と思っていたほどです。

 勉強することに意味を見いだせず、大学受験もしないと決めていました。おそらくあのままだったら、一生、地元の名古屋から出ることもなかったでしょう。それはそれで幸せな人生だけど、「あれ? 勉強って、自分が思っていた暗記とは少し違う。面白い」と気づかせてくれたのが坪田先生でした。そして、坪田先生は「君は慶応に行ける」と信じてくれたんです。

「私はラッキーだった」と話す小林さん
「私はラッキーだった」と話す小林さん
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 でも、世の中には「慶応に合格した」という結果から判断する人が多いんだと分かったとき、裏を返せば、「あなたには無理よ」「地頭が悪いから勉強してもムダ」と言われている子どもが多いんだと気づきました。こっちのほうが大問題です。

「不合格」は失敗ではない

 私自身は「地頭が良かったから」と言われても、「あんなに努力したのに、そこは分かってくれないの?」とは思いませんが(なぜなら、努力したことを自分自身が一番よく分かっているから)、「あなたには無理」「どうせムダ」と言われて夢をあきらめている子どもたちがいるなら、救ってあげたい。子どもたちに「ビリギャルって、もともと頭が良かったんだろ。夢を見させるなよ」と思われたら、悲しい。

 実際に私のところに、「僕もビリギャルの話を聞いて、早稲田大学に行きたいと思った。でも、三者面談で先生に『ここは商業高校だぞ。今まで1人も早稲田大学に入った生徒はいないし、リスクが高すぎる』と言われました。どうしたらいいですか」という男子高校生からの悩みも寄せられました。

 私は、「まず『リスクって何ですか?』と聞いてごらん。たぶん、答えられないよ」と回答したのですが、先生が良かれと思って言っていることが、男子高校生の未来をつぶしていることに憤りを感じました。

 目標に向かう「強い動機付け」があり、「正しいやり方」で必死に勉強すれば、早稲田大学に入学することも夢ではありません。もし精いっぱい努力して不合格となったとしても、それは「不合格」なだけで、「失敗」ではありません。一生懸命に勉強した学びは身に付くし、成長を伴います。チャレンジしたか、しないままだったのかでは見える景色がまったく違ってくるのです。

「才能がない」と言い訳していないか

 では、その「強い動機付け」や「正しい努力」とは何なのかと知りたい人に読んでもらいたいのが、坪田先生の 『才能の正体』 (坪田信貴著/幻冬舎文庫)です。

小林さんが指導を受けた坪田信貴先生の著書『才能の正体』
小林さんが指導を受けた坪田信貴先生の著書『才能の正体』
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 これは、ビリギャルがなぜ成績を上げられたかを心理学的な視点から解説したとも言える本です。「地頭信仰をやめないと能力は伸びない」「『才能がない』は努力しない人の言い訳」「やればできる、というのは嘘」とも書かれており、その人の才能や能力を伸ばすためには、今いる状況を把握する「認知」、目的へ向かうための「強い動機付け」、そして「正しい努力」が必要だと説いています。

 私もこの本を読み、坪田先生との授業がよみがえってくるようで、とてもなつかしい気持ちになりました。この本に書かれているメソッドで導いてくれたからこそ、慶応に合格できたし、社会人になってからも大学院で学んだり、新しいチャレンジができたりしているんだと思います。そんな指導者に出会えて、本当にラッキーでした。

 ビジネスパーソンのみなさんも、「自分には才能がないから無理だ」「あの人は才能があるから、自分とは違う」と言い訳していませんか? ゴールまでたどり着くやり方が分かっていないだけのことかもしれません。

 本書は、勉強する意味や方法が分からない子どもたちだけでなく、仕事で悩んでいるビジネスパーソンにもお薦めしたい1冊です。

取材・文/三浦香代子 構成/雨宮百子 撮影/小野さやか