学年ビリの成績から慶応義塾大学に合格し、2022年秋からは米コロンビア大学に留学している元「ビリギャル」の小林さやかさん。さまざまな学校で講演を行うなかで、生徒の反応が異なるのは、先生の指導によるものが大きいのだと気づきました。なかには先生が、「うちの生徒たちは自己肯定感が低い」「大学進学はリスクが大きいからやめたら」と言っているケースもありました。そこに悔しさを感じた小林さんは、米国への留学を決意します。小林さんに影響を与えた本を紹介する連載第3回。

「先生」がキーパーソン

 私は、2022年秋からコロンビア大学教育大学院に留学します。

 理由は学習科学や認知科学を学び、日本の教育現場にいる先生たちをエンパワーメントしていきたいから。そして、それを通して子どもたちに自己肯定感を育んでほしいからです。

 「ビリギャル」として講演会やイベントを行うなかで、「同年代の子どもたちでも学校や学年、クラスによってまったく雰囲気が違う」と気づきました。生き生きと活発な集団もあれば、おとなしくて目も合わせてくれない集団もあります。

 この違いは何かと考えたとき、やはり学校の雰囲気、先生たちの指導によるものが大きいのだと思います。なかには先生たちが、「うちの生徒たちは自己肯定感が低い」「(大学進学を目指す子どもに)リスクが大きいからやめたら」と言っているケースもありました。

 私はそれがすごく、悔しい。

 子どもたちはきっかけさえあれば、すぐに変われます。例えば、私が講演会で話していると、最初は興味がなさそうだった子が、身を乗り出したり、メモを取り始めたりして聞き入ってくれることが何度もありました。

「子どもたちはきっかけさえあれば、すぐに変われます」と話す小林さん
「子どもたちはきっかけさえあれば、すぐに変われます」と話す小林さん
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「主体的・対話的で深い学び」を引き出す

 また、私が社会人になってから聖心女子大学大学院で学んでいたとき、ある中学校と授業方法の共同研究を行いました。そのときに取り入れたのは「知識構成型ジグソー法」というもの。これは、5つのステップで構成されます。

 具体例で説明しましょう。授業の最初に先生から、「聖徳太子はどんな世の中をつくりたかったんでしょう?」と、生徒たちが向かう「問い」を投げかけます。まずは生徒が1人でその問いに対する自分なりの答えをワークシートに書き込んでおきます。それから、A「聖徳太子の国内での政策はどのようなものだったか」、B「聖徳太子が外交政策として行ったことは何か」、C「聖徳太子の文化政策はどのようなものだったか」について学べる資料のうち、どれか1つを生徒に配布します。

 次に同じ資料を持っている生徒3人が集まって、その資料における理解を深めます(エキスパート活動)。その後、A、B、Cそれぞれの資料を持った生徒を3人1組にして、「聖徳太子はどんな世の中をつくりたかったのか」をそれぞれの視点からディスカッションします(ジグソー活動)。ここでは、自分しかその資料についての情報を持っている人がいないため、相手に伝わるように説明しなければなりません。これを外化活動といって、考えていることを言語化してみることで、理解がさらに深まり、思考の幅も広がります。各チームでそれぞれの答えを出し、全体に発表したのち、もう一度自分1人で考えてみる。ここで学習者は、授業の最初とは自分の意見が大きく変わったことに気づきます。こうして、自ら考え、結論を導き出す力が養えるのです。

 最初、その中学校で知識構成型ジグソー法を取り入れてくれたのは、1人の若い先生だけでした。他の先生は、「理屈は分かるけど、すぐに授業を変えるのは難しい」「うちの生徒たちには無理じゃないか」と消極的でした。

 ところが、知識構成型ジグソー法の授業を受けている生徒たちがあまりにも楽しそうなので、だんだんと他の先生も見学に来るようになり、同じ授業方法を取り入れるクラスが増え、最終的には「もう、元の授業には戻れません」と先生がおっしゃるまでになったのです。

 ものすごい速さで社会の当たり前が変わっていくなかで、教育現場に求められるものも変わりました。しかし、肝心の現場の先生たちの「学び」が確保されていない。新しい学習目標を達成するには、先生たちの学習観のアップデートとスキルアップが必須です。でも、日本の先生たちには学ぶ時間も機会もリソースも、圧倒的に足りていないと感じます。ならば、私が代わりに学んでこよう。そして、それを伝えようと留学を決めました。

学びの理解度・定着度を上げるには?

 留学を決めてから読んでいるのが、 『授業を変える 認知心理学のさらなる挑戦』 (米国学術研究推進会議編著/森敏昭、秋田喜代美監訳/21世紀の認知心理学を創る会訳/北大路書房)です。専門書ではありますが、学びの本質について書かれているので、ビジネスパーソンが読んでも腑(ふ)に落ちる部分が大きいのではないかと思います。

 例えば、「転移」という用語が出てくるのですが、これは学習者が学んだことを他分野でも生かせると知っているか、知らないままなのかで学びの理解度や定着度が違ってくるという意味です。

学びの本質について書かれている『授業を変える』
学びの本質について書かれている『授業を変える』
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 今の日本の学校教育では、「知識を詰め込むことが学び」という学習観がいまだに根強くあるように感じます。でも、それが「本当の学び」でしょうか。私はスイスの心理学者・ピアジェの「学びとはスキーマを変えることだ」という言葉が本質を突いていると思います。

 スキーマを分かりやすく説明すると、例えば3歳くらいの子どもが、「海にいる生物はすべて魚である」という間違ったスキーマを持っていたとします。しかし水族館に行くと、カメもいるし、ウミヘビもいるしで、「海のなかにはいろんな生物がいるんだな」という新しい経験を得ます(森口,2014)。この新しい経験、価値観に触れ、スキーマを変えることこそ「学び」だとピアジェは言いました。

 思い返せば、私も坪田信貴先生に出会ってから、スキーマをつくり変えることの連続でした。「歴史なんて年号を暗記するだけ」「昔の人が戦って、誰が勝ったかなんて関係ない」と思っていたら、坪田先生に「歴史が嫌いなの? あんなに面白い昼ドラないのに」と言われ、初めて興味を持ちました。それで、マンガで日本史や世界史を読んでみたら、面白かった。そして、「現代の課題を知るには、歴史を学ぶ必要がある」ということも分かりました。

 教育には「科学」と「情熱」のどちらも必要だと、坪田先生がよくおっしゃいます。どっちかだけでは、人は変えられない。心理学など科学的な根拠に支えられた指導法と、「さやかちゃんならできる!」と情熱を持って伴走してくれた坪田先生のアプローチは、まさに「情熱と科学の融合」だったんだな、と改めて感じます。

 今までのように講演会をやっているだけでは、何も変えられない。子どもたちが世界を広げるためにグッと踏ん張らないといけないときに、効果的に能力を引き出しサポートできる大人が増えれば、子どもたちの未来は変わると信じています。そこに貢献するために、私がアメリカに行って学んできたいと思います!

取材・文/三浦香代子 構成/雨宮百子 撮影/小野さやか