「人生100年時代」といわれる中、ビジネスパーソンが継続して活躍したり、人生を充実させたりするためには、学び続けることが不可欠です。しかし、過去の経験や知識がある人ほど、「以前はこうした」「この場合はこうだった」といった前例にとらわれ、学びがうまくいかなくなることもあるといいます。どうすれば、これまでの学びや蓄積を財産として持ったまま、最大限に生かして、これからも成長し続けることができるのでしょうか。 『Unlearn(アンラーン) 人生100年時代の新しい「学び」』 から、ビジネスパーソンの新しい成長の秘訣を探ります。3回目は「前例踏襲思考の破り方」について。

残業時間を誇るブラック企業はなぜなくならないか?

 自分がそうしようと決めた意識もなく、その行動や動作が当たり前のものとして身についてしまっている。そのせいで、「それはほんとうにベスト、あるいはベターな対応なのか?」ということが意識に上ることもなく、当然、確認をとることもないままに、自動的に実行してしまっている。あなたの職場は、こうした「パターン化の罠(わな)」にはまってしまっていませんか?

 もちろん、「パターン化の罠」にはまっていたとしても、つつがなく回っているのであれば、今の時点では問題とはいえないでしょう。しかし、気づかないうちにパターン化してしまっていると、いざ、変化に直面して、対応を変えなければいけない場合にも、そもそも変化に気づくことができません。それが極端な形で出たものが、いわゆる「ブラック企業」と呼ばれる企業体質でしょう。

(写真:Stokkete/shutterstock.com)
(写真:Stokkete/shutterstock.com)

 「みんなが残業をしているから、残業が当たり前」「休みの日も仕事に出るのが当たり前」。さすがに今ではこういう企業は少なくなっていると信じたいのですが、少し前まではそれほど珍しくもなかったのです。しかも、多くの社員が「だけど、やりがいがある」と感じて、「今月の残業時間200時間を超えたぜ!」なんて、半ば自慢していました。これは、まぎれもなく「パターン化の罠」に自分自身が取り込まれてしまって、過剰に適応してしまった例だと思います。

 それほど極端でなくても、「パターン化の罠」は頻繁に起こっています。企画書の書き方や会議資料のつくり方、会議をセッティングする際の段取り、決裁の仕組みや何らかの申請方法……。

 もし、日常生活の中で、「ほんとうにこの選択でいいのか?」「今この決定をすることに建設的な意味があるのか?」などと問いかけて考える姿勢を持つことがなく、「いつも通り」「前回と同じ」で物事を進めているならば、自分に対して実行していただきたいことがあります。

 無意識に決めたりパターンにのっとって行動したりしていることを見直し、最適化すること──つまり、アンラーンです。ここからは、アンラーンの実践方法として、誰もが実践可能な「自問の仕方」を2つのステップに分けて説明していきます。

アンラーン① 無意識にやっていることを洗い出す

 「無意識にやってしまっていること」「自動的に処理していること」の中に、アンラーンされるべき対象、アンラーンが必要な要素が潜んでいます。

 まずは、すべてを洗い出していきましょう。それには、文字化するのがいちばん効果的です。ノートに書くのでも、スマホにメモするのでも構いません。「とにかく全部書き出すぞ!」くらいの気持ちでやってみましょう。

 やりやすくするためのコツは、時間帯などカテゴリーに分けて書き出すことです。たとえば「朝起きて家を出るまで」「家を出て会社に到着するまで」「会社に着いて、その日の最初の業務を開始するまで」を考えてみる。あるいは業務の種類などで「会議の準備・運営の際にやること」「営業に行く際の準備」などとテーマを決めるといいと思います。

 この時点では「無意識」なのか「意識的」なのか、「スキル」なのか「カルチャー対応(職場の文化や環境に自分の考え方や行動を合わせること)」なのかについては考えずに書き出していきましょう。無意識でやっていることをピックアップしたり「カルチャー対応かどうか」を考えたりするのはその後で十分です。

 物事を進める際に無意識化したり自動化したりするのは、別の表現をするなら「効率化」ということにもなります。何をするにも、「これはやるべきことだろうか?」「このやり方でほんとうに最適なんだろうか?」といちいち考えるのは、多くの場合「時間の無駄」「労力の無駄」にもなり得ます。それを避けるための無意識化・自動化であるという側面は無視できません。

 朝の準備・行動などはその典型的なものですね。朝起きてから「何をやるか?」については毎朝計画を立てなくても、勝手に身体が動いて、いつの間にか朝食を食べたり、着替えたり、洗顔をしたり、歯を磨いたり、ひげを剃(そ)ったりしています。これらは、エネルギーを無駄遣いしないように、ルーチン化されたものです。適応力の1つとして評価されこそすれ、非難されるようなことではありません。

 ただ、アンラーンという観点に立って考えるという姿勢を今後持つに当たっては、時折で構わないので「このルーチンが、ほんとうに『今も』最適なのか?」ということは、見直したほうがいいと思います。他の場面に関しても同様です。

 とくに、状況が少し変わったとき(転勤/昇進/結婚/引っ越しなど)は見直しのチャンスです。また、「なぜだか分からないけれど、最近、どうもうまくいかなくなっている」と感じ始めたときにも、「無意識」に行っているルーチン行動の洗い出しが必要です。

 アンラーンという考え方が身についてくれば、センサーがきちんと働いて、「あれ? 何だか合わなくなっているかもしれない」と自分で気づくことができ、軌道修正していけるようになりますが、そこにいたるまでは意識的にそれを行う必要があります。

 あるいは、多くの場合、無意識化した行動については、「気づく力」が鈍ってしまうということもあります。完全に無意識化し、自動化した日常的な嗜好や行動についてはセンサーの働きが止まってしまうのです。だからこそ、自分自身が現時点では何ら問題を感じていないことに関しても、あえて見直すということがとても重要になるのです。

 たとえば定期的な会議の運営。自分は「とてもうまく運営できている」と思っていても、他の出席者がそうは思っていないということはないでしょうか。特定の人が一方的にしゃべるだけの場になっていたり、出席する必要のない人までメンバーになっていたりはしていないでしょうか。ほんとうに必要な頻度よりも多かったり少なかったりするのに、「でもこれは、毎週金曜日の1時間の会議だと決まっているから」と、改善の提案もしないままに放置されているということはないでしょうか。「いつも通り」を、「それでほんとうにいいの?」という視点で、改めて意識のテーブルに載せてみる。あるいは、第三者の視点を借りて、客観的評価に耳を傾けてみる。これらは、想像以上に「面倒」で「不安」です。だけど、「ずれていること」に少しでも早く気づくことができれば、その分、軌道修正も早くできます。

アンラーン② 「いつも」「通常は」の思考にとらわれていないかをチェックする

 次は、①で書き出したことについて、「いつも」「これまでは」「普段は」「通常は」「うちは」「こういう場合は」などの前例をそのまま踏襲する「前例至上主義的な思考」にとらわれていないかどうかを、チェックしてみましょう。

 たとえば、大企業で長く働いている人の中には、「自社のプロジェクトは上場企業相手で、1億円規模以上の案件しか進められない」などと思っている人がいます。その反対に、これまで小さな案件ばかりをやってきた会社では、「億単位の仕事なんて、うちではできるはずがない」と思い込んでいることもあります。

 出版社の知人が多いのですが、彼らに面白そうな企画を持ち込んでみても、「うちはそういうジャンルはやったことがないから」「そのジャンルはうちには向いていないと思うよ」と頭から決めつけて受け付けてくれなかったりします。

 研究者の中にも、「自分の専門分野以外は一切やらない」「だって、それは専門外だから」と、範囲を固定してしまっている人が多いように感じます。

 同じようなセリフをこれまでに言ったことはありませんか? 「うちの専門じゃない」「これまでに例がないからできない」「通常はこうしているので、今回も変える必要はないと思います」。そんな言い訳が、すぐに口をついて出てしまうようなら危険信号です。

 「今まで」「いつも」という言葉、「うちに向いている」「向いていない」という決めつけ、「通常は」「以前は」「前はこうやっていました」という前例踏襲思考。

 その都度詳細を検討してイチから判断するよりも、「速い」「無駄がない」というメリットはたしかにあるでしょう。仕事をスムーズにスピーディーに進めることには寄与しているので、全否定はできません。こうした判断や行動を今すぐやめろと言いたいわけでもありません。しかし、改めてその理由を突っ込まれたとき、納得のいく説明はできますか?

 「なぜ、専門じゃないことはやらないの?」

 「例がないことをやらないというのは、どういう理由で?」

 「通常と今回、同じようにやってみて、ほんとうにうまくいきますか?」

 もしすべてに明確で、自分も相手も心から納得のできる答えを出せるなら、それはアンラーンの対象では、(少なくとも今は)ありません。「なぜこういうことになっているのか」を整理して答えを出して、きちんと伝わるように言語化できるのであればOKです。

 つまり、逆に言えば、それができないようならアンラーンすべきタイミングだということです。この「言語化」というのが、アンラーンを考える際に非常に大切なポイントになるような気がします。なぜなら、この先の未来のどこかで、「これまで」の道から外れてしまうことが、きっとあるからです。

 先ほど紹介した「自社のプロジェクトは1億円以上の案件しか進められない」というケース。もしもプロジェクトチームの人数が変わったら、進める日数が変わったら、扱う対象が変わったら、顧客との関係性が変わったら、外部環境が変わったら、……「これまで」の常識はまったく意味をなさなくなってしまうはずです。それなのに、「わが社はこうだ」という思い込みで自動的に判断してしまうと、小さなずれに気づけないだけでなく、気づけないままどんどん大きくずれていってしまって、取り返しがつかなくなるというリスクも高まります。

 自動化・無意識化していることについては、「ほんとうにこのパターンでよかったのか?」「どうしてこのやり方が最適なのか?」を常にチェックする姿勢が必要です。外側にチェックする人がいて、定期的にフィードバックの得られる環境にいるのならともかく、そうじゃない限りは、自分で定期的にやるしかありません。

 自分がパターン化していることへの気づきは、パターン化以前の柔軟な状態に戻ることにつながります。気づいた時点で新たに思考を組み立て直すことができれば、行動や動作はより最適なものへと変わっていくに違いありません。

「みんなが残業しているから、残業は当たり前」と思い込んでいませんか?(イラスト:Satoshi Kurosaki)
「みんなが残業しているから、残業は当たり前」と思い込んでいませんか?(イラスト:Satoshi Kurosaki)

日経ビジネス電子版 2022年1月26日付の記事を転載]

これまで身につけてきた知識・経験・スキルをやわらかくほぐし直し、発展させていくための、新しい学びの技術「アンラーン」

働き方が変わった、新しい制度が導入された、職場環境が変わった、転職した……。毎日は、大小さまざまな変化の連続です。
また、直接の変化がなくても、「人生100年時代」といわれる今、学び続けること、第2第3のキャリアを形成していくことは、誰にとっても必須です。

そんなときに必要となるのが、「アンラーン」の技術です。

アンラーンとは、「学ばない」ことではありません。「過去の学びや蓄積」から、クセやパターン、思い込みをなくすことで、新たに成長し続けられる状態に自分を整える技術です。

真面目に経験を積み、スキル・知識をしっかり得てきた人が、さらなる成長をするために。
何歳からでも、正解のない世界でも、足元の状況や価値観がどれだけ変化しても、ビジネス・勉強で活躍し、自己実現し続けるために。

「新しいインプット」の前に絶対不可欠な、
「学び、成長し続けられる自分」の整え方