タワーマンションを利用した相続税の節税に関して、2022年4月に最高裁判所から注目の判決が出ました。節税策の封じ込めかと話題になりましたが、実際はどうなのでしょうか? ベテラン税理士の内藤克さんが解説します。相続でよくある落とし穴を明らかにし、その対策を解説した書籍『残念な相続<令和新版>』(内藤克著/日経プレミアシリーズ)から抜粋。
「いえ、借り入れをしただけではダメですよ」
「でもよく相続対策の本には書いてありますよ」
「だって借り入れをしたらお金も手元に入ってきて、トントンになっちゃうじゃないですか」
「?」
「借り入れして不動産を購入したら、節税効果が出るということなんですよ」
「ああ、そういうことか!」
不動産評価額と時価には差が
相続対策は「(親族が)もめない対策」「納税資金の対策」「節税対策」の3本柱をバランスよく実行しなければなりません。しかしこの3つの柱は相続対策においては相反することが多く、副作用を伴うことも多いのです。
そのため、それぞれの家庭ごとに、「うちは金融資産が少ないから納税資金対策をまず始めなければ…」とか、「うちは相続税はかからなさそうだから、分割面で不公平にならないように気をつけなきゃ」などと、話し合って優先順位を決めてから取り組まなければなりません。
それなのに、世間を見渡すと「相続対策=節税対策」と思い込んでいる方があまりにも多い気がします。
不動産の相続評価額は一般的に「時価」より低く、有利な金額となっているといわれています。そしてこの時価とは、実は税法で一番難しい概念なのです。
最近ではお寿司屋さんで「時価」と書いてある札を見ることは少なくなりました。ネット社会になり、商品の比較には値段が重要な要素となるため、世の中全体で曖昧な表示が減ってきたのでしょう。お寿司屋さんの場合、仕入れ値が季節によって異なり、あらかじめ値決めできないことや調理に手間がかかるといったことが時価の理由だとすると、「時価とは不安定なもの」と考えることができます。
ものの値段は需要(買い手)と供給(売り手)の力関係で決まります。この点では不動産の時価とは、売れて初めて分かるもの。そのため「今売るとしたらいくら?」という一種の仮定が時価のベースとなっています。
一方、相続税や贈与税の計算をするときに用いるのが「路線価」や「固定資産税評価額」であることは比較的よく知られています。また、これらが時価(今売るとしたらいくら?)よりも低く、納税者にとっては有利なものだということも同様でしょう。
一般に土地の評価に用いられる路線価は時価の80%、建物の評価に用いられる固定資産税評価額は時価の60%くらいといわれています。そのため、資産は現預金で持っているより、そのお金で不動産を購入したほうが評価額が圧縮でき、相続税対策になるのです。
しかし、これは相続「税」対策であって、前述の相続対策の3要素を満たしているとは言えません。
富裕層が行うタワマン節税のカラクリ
これまでに見てきた流れからすると、不動産を購入して土地・建物の相続税評価額を最大限に圧縮するには、購入代金に占める建物比率の高い不動産が狙い目だとなります。その代表格が超高層マンションである「タワーマンション」なのです。
タワーマンションは敷地面積が小さい割に高い建物が立っているため、建物比率が高いのが特徴です。例えば、50階建てタワーマンションの2LDK(80平方メートル)の物件を購入しても、代金のうち土地の割合はタタミ1畳分くらいにしかなりません(タワマンの節税効果を俗に「タタミ1畳」というのはこの辺から来ています)。
建物比率が高いということは評価額全体を抑えることができるため節税効果が高いのですが、行きすぎた節税に対し、2022年4月に注目すべき最高裁判所の判決が言い渡されました。
2009年に当時90歳の男性が信託銀行から10億円の融資を受けて14億円でタワーマンションを2つ購入しました。その後の相続税申告で、評価額3.3億円(土地は路線価、建物は固定資産税評価額)で申告します。借入金は債務控除できるため6億円超の債務超過を作り出し、ほかの財産と相殺し「相続税ゼロ」として申告しました。
それに対して札幌南税務署が財産評価基本通達6項を適用し、租税負担の公平を著しく害するとして、不動産鑑定士による鑑定価額を採用して課税したのです。財産評価基本通達6項とは、「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する。」という規定で、行きすぎた租税回避行為と認められた場合に適用されるものです。裁判の結果、札幌南税務署の主張が認められました。
この判決で「いよいよタワマン節税の封じ込めか」と騒がれました。この方法を積極的に提案する不動産会社、銀行がかなり減っている一方で、税理士業界は「特殊な例」と捉えて「通常のタワマンは大丈夫」と見ている感じがします。銀行の融資の稟議(りんぎ)書に「相続対策」として記載されていた点、90歳で多額の借り入れをして行う不動産投資などあまりない事例と言えます。
しかし、この判決を受けて国税庁は、マンションに係る財産評価基本通達に関する有識者会議を立ち上げて、「市場売買価格との乖離(かいり)の実態を踏まえて適正化を検討する」と公表しています。新たな算定ルールは、築年数や階数などに基づいて「実勢価格」を計算し、評価額を引き上げるというものです。
いずれにせよ、後々の課税リスクを生じてまでの過度の節税策は人々に受け入れられない時代が来そうです。
内藤克著/日本経済新聞出版/1045円(税込み)


