業績好調な良品計画。なかでも商品開発の強さには定評があるが、その方法論はあまりにユニークで、近年増えている競合他社からの転職者たちを一様に驚かせる。特筆すべきポイントは、「MUJIらしさ」へのこだわりであり(「無印良品のイヤホンが売れる理由 ニトリ出身者が語る商品開発の妙」参照)、「無印良品がつくる意味」を厳しく問われること(「無印良品は顧客起点で考えない 『せいろ』ヒットに見る弱者の兵法」参照)だ。新商品(2026年6月発売)の「希釈洗剤」シリーズを例に、さらに深掘りする。新刊『 MUJI解剖 ヒットを生み続ける「問いの立て方」 』から抜粋して紹介する。(文中敬称略)

(左:「お風呂用 希釈洗剤セット」=無印良品サイトから/右:写真=yalcinsonat/stock.adobe.com)
(左:「お風呂用 希釈洗剤セット」=無印良品サイトから/右:写真=yalcinsonat/stock.adobe.com)

 無印良品が「つくる意味」を強く感じて商品化した例として、2026年6月発売の家庭用洗剤「希釈洗剤」シリーズがある。

 手のひらに収まるくらいの小ぶりなパウチに入った液体洗剤で、専用のスプレー容器に水を入れた後に洗剤を混ぜて使う。重さは1パック50~60グラムほど。その名の通り、水道水で薄める。

 希釈するのは一見、手間がかかる。しかし、一般的な詰め替え用洗剤の重さや大きさを考えれば、店から持ち帰る労力や家で保管するスペースを省ける利点のほうが大きい、というのが無印良品の提案だ。

 良品計画(上席執行役員)の嶋崎(朝子)は「世の中の商品の多くには、メーカーや小売りの都合が入っている」と語る。「作り手の論理ではなく、生活者の論理でものづくりをするのが、無印良品だ」

「お風呂用 希釈洗剤セット」。ボトルとセットになった洗剤を10倍に希釈して使用する(無印良品サイトから)
「お風呂用 希釈洗剤セット」。ボトルとセットになった洗剤を10倍に希釈して使用する(無印良品サイトから)

 洗剤で言えば、大容量をうたう商品のサイズやカラフルな包装が、「作り手の論理」を映し出しているという。

 日用品メーカーが考えることは、一般に「いかにお店で目立ち、消費者の目に留まるか」。お店で目立つために、メーカー各社は陳列棚の好位置を奪い合う。パッケージは派手なほうが、そしてサイズは大きいほうが有利だ。

 メーカーや小売りにとって、大容量の商品は単価が高く粗利も大きいというメリットがある。そして大容量の詰め替え用洗剤を買い替えるころには、新商品が出てボトルも変わっていることもある。そうすればボトルごと買い替えてもらえるかもしれない。

 もちろん消費者が大容量の詰め替え用洗剤を買うのは、高頻度で買い替えるのが手間だからで、その判断にも合理性がある。

スーパーマーケットには大容量の洗剤が多く並んでいるものだ(写真=dodotone/stock.adobe.com)
スーパーマーケットには大容量の洗剤が多く並んでいるものだ(写真=dodotone/stock.adobe.com)

 一方で、一般的な液体洗剤は成分の6~7割近くを水が占めている。

 水は家の蛇口をひねれば出てくるのだから、最初から水を多量に含んでいる必要はないのではないか──。無印良品の開発担当者はこう考えた。

「水を抜けばいい」というほど単純な話ではない

 開発に着手したのは、25年初め。欧州へ出張に訪れた際に、欧州の一部地域では家で希釈する濃縮洗剤が売られていると知ったことがヒントになった。

 ただし、当初の想定以上に開発は難航した。市販の洗剤から水を抜いて販売すればいい、というような単純な話ではなかったのだ。

 顧客が自分で水を混ぜて求められる洗浄性能を出すには、水に混ぜた後に洗剤が腐敗するのを防いだり、軟水から硬水まで水道水の成分の違いに対応したりする必要がある。無印良品はこうした点をクリアし、商品化にこぎつけた。

 希釈洗剤は一般的な洗剤よりかさばらないため、パッケージのゴミが減る。輸送時も効率的に運べるため、供給網での二酸化炭素(CO2)排出を抑えられる。

 環境にも配慮したライフスタイルの提案につながる、MUJIらしい商品と言える。

 26年6月、嶋崎は希釈洗剤の説明会に訪れた報道陣に、伝えた。

 「みなさんのお力も借りて、布教したい」

 提案型の開発はときに啓蒙的で、まさに「布教」の側面を持つ。なぜなら顧客はまだ、その商品を欲していないからだ。

 顧客は無印良品の商品を取り入れ、従来の生活を見直すことで初めて、商品の意義を実感できる。

 嶋崎が語った「生活者の論理」には、無印良品の創業者である堤(清二)の思想がにじむ。堤は「資本の論理」よりも「人間の論理」を優先すべきだと説いた。

「How」よりも「Why」

 人は「何を」ではなく「なぜ」に動かされるのです──。

 作家サイモン・シネックが「優れたリーダーはどうやって行動を促すか」と題した講演で紹介した考え方は、マーケティングにも転用できる。

 サイモンは「Why(なぜ)」「How(どのように)」「What(何を)」の順で考えて行動し、周囲に語ることが効果的だと説く。

 例えばiPhoneをはじめとする米アップル製品が人々の心をつかんだのは、単に製品の機能が優れていたからではないと語る。「世界を変える」という信念を真っ先に説いたからだというのだ。

(写真=yalcinsonat/stock.adobe.com)
(写真=yalcinsonat/stock.adobe.com)

 商品の開発現場では「何をつくるか(What)」や「どんな仕様にするか(How)」に意識が向きがちだ。

 しかし、無印良品のように「Why」を問うことで、顧客の共感を呼ぶ商品を生み出せるかもしれない。

アップルと無印良品の共通点と違い

 サイモンが例示したアップルと同じように、無印良品も「感じ良い暮らしと社会」の実現という理念を掲げる。商品を通じて生活をよくする、という意思を商品に込めている。

 だからこそ、売れればいいという考え方とは距離を置く必要がある。

 良品計画社内で繰り返される「無印良品がつくる意味はどこにあるのか」という問いは、機会主義に走らないようにする「歯止め」でもある。

 一方で、アップルと無印良品の相違点を指摘する人物もいる。

 デザイナーのサム・ヘクトである。ヘクトは、無印良品の商品デザインも手掛けたことがあり、経験を基に次のように語っている。

 「アップルには厳格なデザイン言語があって、ガイドラインもあって、ブランドのルールがある。それらは当然魅力的なものです。

 しかしMUJIの場合は違います。基本となる哲学はあるけど、原則が決まっているわけではありません。

 『あれをしちゃダメ』『これをしちゃダメ』と細かく決めているわけではないのに、商品を見るとなんとなくMUJIらしさがある」

 この証言はMUJIらしさが暗黙知であるという見方を裏付ける。そして、無印良品と対照的に、「アップルらしさ」とはいわば形式知であると、ヘクトは指摘しているのだ。

[日経ビジネス電子版 2026年9月29日付の記事を転載]

売れるものにしようと頑張るほど、顧客が求めるものから離れてしまう──。無印良品は「何が売れるか?」から考えない。それでも売れる「これでいい」のつくり方。ヒットを生み続ける秘訣は「問いの立て方」。

梅國 典(著)/日経BP/2200円(税込み)