私たちのデジタル社会を支えるコンピュータは、「0」と「1」で表されるビットを使って情報を処理しています。一方、量子コンピュータが扱う量子ビットは、0と1の「重ね合わせ」という不思議な状態を取ることができます。ここでは『 量子革命 量子コンピュータからネット、ハード、AIまで ― すべてを変える新技術 』から、地球儀を使った直感的なたとえを用いて量子ビットが秘める計算能力の可能性を解説します。

ビットは情報の基本単位であり、二つの値を取ることができます。そして、二つの異なる状態を取りうるあらゆる仕組みによって表現することができます。たとえば、オンとオフ(それぞれ1と0)、表か裏が出るコイン、二つの箱のどちらかに入るボール、あるいはモールス信号のような長いパルスと短いパルスなどです。
現代のコンピュータでは、ビットは電流で表現されています。すなわち、電流が流れているか、遮断されているか、その二つの状態で表されます。この仕組みの中心にあるのがトランジスタという小さな素子で、電流を流すか止めるかを制御するスイッチの役割を果たしています。古典的なコンピュータの中では、こうしたトランジスタが何十億個も協調して動き、オンとオフを切り替えることで、極めて複雑な計算を可能にしています。コンピュータが問題を解き、データを処理し、私たちのデジタル社会を支えているのは、この小さなスイッチのおかげなのです。
ビットの重要性は、0と1の単純な並びによって、あらゆる数値や言葉、メッセージを表現できる点にあります。これを「二進法(バイナリー)」と呼びます。たとえば数字を考えてみましょう。二進法では、各桁は0と1の並びで表されます。十進数の2は「10」、3は「11」、4は「100」と書けます。
しかし、この仕組みの美しさは数字だけにとどまりません。アルファベットの一文字一文字、あらゆる単語、さらには本一冊まるごとでさえ、この0と1の言語に翻訳することができます。この単純でありながら強力な仕組みこそが、デジタル世界全体の基盤であり、あらゆる思考やデータ、画像を、コンピュータが扱える形に変換し、保存し、伝送することを可能にしているのです。
「0か1」ではない量子ビットの世界
これに対して、量子ビットは、古典的なビットよりもはるかに高度で強力な存在です。古典ビットが0か1のどちらか一つの状態しか取れないのに対して、量子ビットは「重ね合わせ」と呼ばれる不思議な現象によって、0と1の両方を含む状態を同時に取ることができます。
この違いをイメージするために、地球儀を思い浮かべてみましょう。古典ビットの二つの状態を地球の北極と南極に対応させると、「0」は北極、「1」は南極に相当します。つまり、古典ビットはこの二つの状態のどちらか一方しか取れません。これに対して、量子ビットでは、地球儀の表面上のどの点にも状態を対応させることができます。北極と南極の間には無限に多くの点があるように、量子ビットにも「0」と「1」の間に無限に多くの状態が存在するのです。
では、量子ビットが0と1の両方を含む状態を取ることができるとはどういう意味でしょうか。それを理解するために、測定の結果を考えてみましょう。すでに見たように、量子力学における測定結果は確率的に決まります。測定する前には、0が出るか1が出るかはわかりません。
「重ね合わせ」が計算の可能性を広げる
測定前の量子ビットは、北極(0)でも南極(1)でもなく、その両方が重なり合った状態にあります。地球儀の表面上の各点は、測定したときに0または1が得られる確率を表しています。北半球に近い点であれば、0が得られる確率が高くなり、南半球に近い点であれば、1が得られる確率が高くなります。
赤道上の点は、0と1がそれぞれ50%の確率で得られる状態に対応します。北極に近い点であれば、0が70%、1が30%といった具合です。そして北極そのものでは必ず0、南極では必ず1が得られます。
最終的に測定を行うと、量子ビットは0または1のどちらか一方の状態として観測されます。しかし測定されるまでは、その両方の可能性を同時に含んだ重ね合わせ状態として存在しているのです。
要するに、重ね合わせとは、量子ビットが測定されるまでの間、0と1の両方の状態の組み合わせとして存在していることを意味します。そして地球儀の表面上の位置が、その重ね合わせの内容を表しているのです。
このことは、量子ビットが古典ビットとは比較にならないほど広大な可能性の空間で動作していることを意味します。古典ビットは0(北極)と1(南極)のどちらかしか取れないのに対し、量子ビットは地球儀の表面上のあらゆる点に対応する状態を取り得ます。北極から南極へ飛び移るだけではなく、球面上のあらゆる経路を自由に進むことができるというのが、量子ビットの本質です。
このように状態の豊かさと変化の多様性を持つ量子ビットを多数組み合わせることで、計算のあり方は根本的に変わる可能性があります。現在の最も高性能な古典コンピュータでも限界に近い問題が、量子アルゴリズムによって解けるようになる未来が見えてきます。こうした可能性は、この小さくも非常に複雑な情報の基本単位の中に秘められているのです。
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ジュリアーノ・ベネンティ(著)、ジュリオ・カサティ(著)、シモーネ・モンタンジェロ(著)、森弘之(訳)/日経BP/2750円(税込み)
