「自分は不器用で損ばかりしている」「あの人はいつも楽しそうだ」……その根底にあるのが「他人との比較」。しかし「価値は相対的なもの。自然のまま、流れのままに生きていこう」と考えればラクになる。これこそ2500年前に中国の思想家・老子が説いた無為自然の教えだ。強い怒りを感じたとき、老子ならどうする? 日経ビジネス人文庫『人生に、上下も勝ち負けもありません。 焦りや不安がどうでもよくなる「老子の言葉」』(野村総一郎著)から抜粋・再構成してお届けする。
怒りがわいたら「スプーンの思考」
「怒り」の感情とどのように向き合うか。
近年、とくに注目のテーマではないでしょうか。
「怒りのコントロール」を意味する「アンガーマネジメント」という言葉もよく耳にするようになりましたし、そのテーマのセミナー、ワークショップに参加する人も多いようです。
精神科のクリニックでも、
「つい相手に怒りを感じてしまい、大喧嘩(げんか)をしてしまう」
「いつもピリピリして、相手を憎んでしまう」
など「怒り」に関する悩みを打ち明ける人はたくさんいます。
その場の感情で怒っても、自分も相手もいいことなんてひとつもない。
それどころか、あとでものすごく気まずくなったり、いつまでもモヤモヤが残ってしまってロクなことはない。
それがわかっているのに怒ってしまう……。
人間である限り、どうしたって怒りはわき起こってきます。
そんなときは「スプーン」のことを考えてみてください。
フォークとナイフは置いといて相手を丸ごとすくいましょう。
善く敵に勝つ者は与(とも)にせず。
相手に怒りを向けることもなく、争いもしない。
しかし勝負には勝つものである。
怒りをぶちまけても残るのは自己嫌悪
仕事にせよ、プライベートにせよ、思う通りに事が運ばなければ、イライラしたり、怒りを覚えたりするのは当然です。
どんな人も完璧ではないので「つい、怒ってしまう」のはなかなか避けられないでしょう。
ただ、ここではひとつ、
「怒るって、どれほどメリットがあるのだろう?」
「怒ることで、うまくいったことはあったかな?」
と客観的に振り返ってみてほしいのです。
怒りを露骨に表現すれば、一時的に周りが言うことをきいてくれるかもしれません。職場の上司やリーダーなら、そもそも役職がありますから、なおさらきいてくれるでしょう。
しかし長い目で見れば、人としての信頼を失い、みんなとの距離は(物理的にも、精神的にも)遠ざかります。最近は、パワハラで訴えられるリスクもあるでしょう。
友人同士のようなフラットな関係でも、相手に怒りをぶちまけてうまくいくことなどまずありません。自分がスッキリするならまだしも、言った側も「ああ、なんだか言いすぎちゃった」「こっちも気分が悪い」と後悔することのほうが多いはず。
そんな怒りがわき上がってきたとき、頭のなかでどう考えればいいのでしょうか。
そこで「スプーンの思考」です。
戦略家は相手をてのひらで踊らせる
まずはナイフ、フォーク、スプーンを思い浮かべてください。
ナイフはグサッと刺したり、切り刻んだりする道具ですから、相手のダメージとなることをストレートにやり返す反応です。
フォークは尖(とが)った先端を使って、チクチク相手を刺していく方法。
一方、スプーンは相手を優しくすくい上げるイメージです。
怒りがわいてきそうなときほど、3つの食器をイメージして、ナイフやフォークではなくスプーンを選択してほしいのです。
こんなことを言うと「腹の立っている相手に優しくするなんてありえない!」と感じる方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、ただ相手に優しくするわけではありません。
相手より大きな存在となって、相手を自分のスプーンの上にのせる。言ってみれば、てのひらの上で踊らせるイメージです。
ナイフでグサッと刺すより、フォークでチクチクやるより、ずっと大人の対応です。
「勝ち負け」で考えるのが好きな方なら、こっちのほうがよほど「勝ち」な振る舞いだとは思えないでしょうか。
老子が言うように、優れた戦略家ほど無闇(むやみ)に怒りをぶつけたりはしません。
理由はじつに簡単。
「怒りに任せて行動しても、決して勝利に近づかない」という真理をよくわかっているからです。
相手のためじゃなく、自分の平穏のために心を大きくする。
『 人生に、上下も勝ち負けもありません。 焦りや不安がどうでもよくなる「老子の言葉」 』
読売新聞「人生案内」回答者を17年務めた医師が、「人生がラクになる」老子の教えを伝授します。「他人がうらやましい」「自分は損ばかりだ」と日々モヤモヤする人には、老子の“抜け道をいく”哲学が最善の武器になります。
野村総一郎著/日本経済新聞出版/880円(税込み)

