新年を迎え自分を見つめ直す人も多いだろう。「自分は不器用で損ばかりしている」「あの人はいつも楽しそうだ」と思った人は要注意。その根底にあるのが「他人との比較」。そこでオススメしたいのが中国の思想家・老子の教えだ。「価値は相対的なもの。自然のまま、流れのままに生きていこう」と「無為自然」に考えればラクになる。では、自分の居場所が誰かに奪われたとき、老子ならどうする? 日経ビジネス人文庫『人生に、上下も勝ち負けもありません。焦りや不安がどうでもよくなる「老子の言葉」』(野村総一郎著)から抜粋・再構成してお届けする。
気がつくと自分のポジションがない
日本は今、世界でも類を見ないスピードで高齢化が進んでいます。
それに伴って「高齢者のうつ」もひとつの社会問題になりつつあります。「定年後症候群」と呼ばれるもので、仕事がなくなってしまうことで、「何をすればいいのかわからない」「仕事がないのが何より不安だ」などの思いにさいなまれ、精神を病んでいってしまうのです。
もちろん問題は定年後の人たちばかりではありません。
定年を迎える前の人たちでも、30代、40代はバリバリ働いていたのに歳をとるとともに少しずつポジションや与えられる仕事が変わっていって、気落ちする。
そんな悩みもよく聞きます。
50代半ばで役職定年になったり、60代で再雇用になったりするときにも「給料がすごく下がって、自分の価値がどんどんなくなっていくように感じる」と語る人もいます。
自分の老いを感じるにつれ、だんだんと気持ちが弱くなっていく。
年代を問わず、決して他人事ではないでしょう。
そんなときは「麦わら帽子」のことを考えてみてください。
いさぎよく麦わら帽子をかぶったほうがかっこいい。
功(こう)遂(と)げて身の退(しりぞ)くは、天の道なり。
自分がやるべきことをやり終えたなら、さっさと引退したほうがいい。
そのほうがかっこいいし、それが自然の道である。
キラキラするだけが人生じゃない
この言葉をそのまま読むと、いつまでも「自分が、自分が」と言っていないで、やるべきことをやったら、さっと引退する。
そんな意味にとれます。
もちろんその通りなのですが、もともとは、そうやって引退した人たちが「この先の人生、どんなふうに生きればいいのかわからない」と苦しんでいる、という話だったと思います。
老子の言葉をもう少し私なりに深掘りすると、
「バリバリ働いて、勝ち続けているだけが人生じゃない」
「自分が活躍して、賞賛されているだけが大事なんじゃないよ」
というメッセージにもとれます。
定年して仕事がなくなる(あるいは、自分のポジションや待遇が変わる)ことに苦しんでいる人の多くは「自分は勝ち続けてきた。だから、勝ち続けなければ意味がない」「仕事で活躍することこそ、輝かしい人生だ」との考え方に縛られている傾向が見受けられます。
これまた「ジャッジしている」ということです。
次の人に自然に委ねていく
老子の言葉を借りるなら「充足」「満足」「賞賛」「評価」などキラキラした要素で「自分の人生」を彩り、生きてきたのです。
まさに王冠をかぶっている状態です。
それが一気になくなってしまえば、不安になるのも当然です。
人は誰でもキラキラとした王冠をかぶったままでいたいですから……。
気持ちはわかりますが、「王冠をかぶり続けるだけ」が人生ではありません。
人に勝利し、組織のなかで輝かしい活躍をすることが、人生のすべてであるはずがありません。そこを老子は説いているのです。
自分の役割の変化を理解し、何かの仕事を終えたなら、自然の流れに身を任せ、次の人に委ねていく。目の前にある境遇を受け入れ、自然に身を任せて生きていく。
そんなスタンスこそが「自分の人生」を楽しく、したたかに生きていく術(すべ)なのです。
よく見ればもうボロボロになってしまった王冠をかぶり続ける人より、いさぎよく脱ぎ捨てて、麦わら帽子をかぶっている人のほうがかっこよくないですか。
新しい帽子をかぶって踏み出そう
必要なのは、今までかぶったことのない「麦わら帽子をかぶる勇気」です。
今、自分の「人生の器」が空っぽだと感じているとしても、それはおかしなことでも、嘆かわしいことでもありません。
空っぽ。最高じゃないですか。
今までは忙しくてできなかったことを思いっきりやって、新しい何かでその器を埋めていくことができる。そうやって「新しい自分」になっていけるなんて、素晴らしい生き方だと私は思います。
麦わら帽子には太陽と青空が似合います。
新しい第一歩を、そんな素敵な帽子とともに踏み出すと考えると、ちょっとわくわくしてきませんか。
『 人生に、上下も勝ち負けもありません。 焦りや不安がどうでもよくなる「老子の言葉」 』
読売新聞「人生案内」回答者を17年務めた医師が、「人生がラクになる」老子の教えを伝授します。「他人がうらやましい」「自分は損ばかりだ」と日々モヤモヤする人には、老子の“抜け道をいく”哲学が最善の武器になります。
野村総一郎著/日本経済新聞出版/880円(税込み)

