新年を迎え自分を見つめ直す人も多いだろう。「自分は不器用で損ばかりしている」「あの人はいつも楽しそうだ」と思った人は要注意。その根底にあるのが「他人との比較」。そこでオススメしたいのが中国の思想家・老子の教えだ。「価値は相対的なもの。自然のまま、流れのままに生きていこう」と「無為自然」に考えればラクになる。では、ひとりでがんばりすぎてパンクしそう、そんなとき老子ならどうする? 日経ビジネス人文庫『人生に、上下も勝ち負けもありません。焦りや不安がどうでもよくなる「老子の言葉」』(野村総一郎著)から抜粋・再構成してお届けする。
「自分ひとりでなんとかしなくては」
私のところを訪れる患者さんのなかには、症状や状況がすでに悪くなっていて「どうしていいかわからない……」となす術なく、うろたえている人もたくさんいます。
しかし、そんな大事になってしまう前の段階では、
「このくらい自分でなんとかしなきゃ」
「わざわざ人に言うような話じゃないし」
と思い込み、抱え込んでいるケースが非常に多いのです。
もちろん、そんな方たちにていねいに向き合い、一歩ずつ問題を解決していくのが私たち精神科医の仕事です。
ただ世の中の常として、物事が大きくむずかしくなっている状況に対して、一発で解決するような「マジック」や「特効薬」はそもそも存在しません。
仕事の進め方においても「問題が起こったら、すぐに報告」が鉄則ですよね。「自分でなんとかしなきゃ」と思い、抱え込んでもいいことはありません。
とはいえ、なかなかそれができない……。
ついつい自分ひとりでがんばりすぎてしまう……。
そんなときは「トイレ」のことを考えてみてください。
もう、我慢するのはやめなよ
大なるを其の細(さい)に為(な)す。
だからこそ、むずかしい仕事は、それが易(やさ)しいうちに考え、
大きなことは、それが小さいうちに対処することが大切だ。
川の源流の最初の一滴
世の中の「むずかしいこと」「たいへんなこと」のほとんどはいきなりむずかしくなったわけでも、たいへんになったわけでもありません。
川の源流のごとく、最初は一滴の水のような小さなことから始まっています。
ストレスや疲れ、精神的な負担も同じです。
日々、仕事や生活をしていて、まったく疲れていない人はまずいません。どんな人も多かれ少なかれストレスを抱え、多少なりとも疲れているでしょう。
それは日常のことなのでとりたてて問題にすることではありませんが、でもちょっとだけ「小さな積み重ねがたまってきていないかな」とだけは意識してほしいのです。
以前、交通安全の年間スローガンに「行けるはず まだ渡れるは もう危険」というものがありました。道路上で「まだ渡れるかな」と思ったときには「もう危険な状況」になっている。そんなメッセージを端的に表しています。
人の心や体にもこの意識が大切です。
「まだ大丈夫」は「もう危険」
真面目で責任感が強い人ほどついがんばってしまいます。
でも実際、家に帰るとぐったりしたり、朝、目覚めたときに体が重かったり、そんな感じの人も多いのではないでしょうか。
そうした体のシグナルよりも「まだ大丈夫」「がんばらなきゃ」「休むわけにはいかない」との思いが先に立ち、ついがんばってしまうのです。
新型コロナウイルスの流行や働き方改革などにより、以前に比べれば「体調が優れないときは休みましょう」といった雰囲気は広がっていますが、無理をしてしまう人はまだまだ大勢います。
「自分ががんばらなきゃ」という責任感の強さのほかにも、「私なんてどうなってもいい」とやや捨て鉢な自己肯定感の低さからきている場合もあります。
心や体が疲れているとき、それが大きくなる前にぜひ一度休んでください。
きっとあなたは「まだ大丈夫」と思うでしょう。
でも、「まだ大丈夫」は「もう危険」かもしれないのです。
「トイレの思考」で生きていく
ここでの意識は「トイレの思考」。
用を足したくてしょうがなくなってからトイレを探すと、すごく焦ってしまいますよね。そんなときに限ってトイレが見つからなかったり、人が入っていて空いていなかったり……。
でも「まだ平気かな」というくらいのうちに行っておくと、終始落ち着いた気分で過ごせます。
そんなゆとりをあなたの生活にもぜひ取り入れてほしいのです。
「あれ? 私、なんかたまってる?」と思う前に、早めに休んだり、人を頼ったりする。まだ「我慢」ができるうちに、問題を大きくする前に、手を打つのがコツです。
早め早めに休んだり、人に頼ったりする勇気が大事
『 人生に、上下も勝ち負けもありません。 焦りや不安がどうでもよくなる「老子の言葉」 』
読売新聞「人生案内」回答者を17年務めた医師が、「人生がラクになる」老子の教えを伝授します。「他人がうらやましい」「自分は損ばかりだ」と日々モヤモヤする人には、老子の“抜け道をいく”哲学が最善の武器になります。
野村総一郎著/日本経済新聞出版/880円(税込み)

