「この3カ月間で売上は上昇傾向です。よって来月の売上高は微増での着地と予測します」。部下の報告にあなたならどう突っ込む? カギは……サイズ。「ビジネス数学」の第一人者・深沢真太郎氏の新刊『 数字にだまされない本 』(日経ビジネス人文庫)から一部抜粋してお届けする。

「順調に推移」の嘘を見抜く

 今回は「サイズ」というキーワードでお話をしていきます。
 サイズとは「大きい・小さい」を表現するもののことです。

 結論から申し上げると、あなたは次のような問いを自分自身にすることで数字にだまされる機会を減らすことができます。

 「そのサイズでいいの?」

 例えばある企業のマーケティング担当者が、発売してまる2年になるある自社商品の今後の売上予測を説明しました。

 この担当者の説明は次の通りだったとします。

 直近3カ月の数字は図1のような状況であり、わずかながら上昇傾向です。よって翌4月の売上高は3月から微増の570万円から580万円程度での着地になると予測します。

 わずかではありますが順調に売上を伸ばしています。
(出所)『数字にだまされない本』(日経ビジネス人文庫)
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 確かにこの3カ月の数字から考えると、説明の内容にもうなずけます。

 思わず「順調」という言葉を信じてしまいそうですが、このようなときこそ私たちは次の問いを思い出したいところです。

 「そのサイズでいいの?」

データの範囲を変えてみる

 この担当者はわずか3カ月間の数字だけで翌4月の数字を説明しましたが、予測のために使うデータの範囲は本当にその3カ月でいいのでしょうか。

 もう少し大きい範囲で売上の推移を把握したほうがいいとは考えられないでしょうか。

 そして、発売当初から2年間の月別データを確認したところ、図2のような推移だとしたらどうでしょう。

(出所)『数字にだまされない本』(日経ビジネス人文庫)
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相手の主張を鵜呑(うの)みにしない

 好調だった月とそうでなかった月の差が大きく、きわめて予測が難しい推移をしていることが分かります。

 これでは翌4月が大きく売上を落としてしまう可能性も否定できません。

 「順調」という担当者の言葉はきわめて信憑性のないものに変わるでしょう。

 このように、「もっと大きい(小さい)サイズで数字を確認する」という視点を持っておけば、相手の主張を鵜呑(うの)みにすることなく、正しい指摘ができるようになります。

 ところで、ある企業研修でこのような時系列データの扱い方について説明したところ、参加者から次のようなご質問をいただきました。

未来予測に必要なデータは「最低2年間」

 時系列データから未来の予測を説明されるとき、その予測に使う時系列データの個数はどれくらいあれば妥当でしょうか。

 逆にどれくらい少ないデータの個数の場合にその主張を疑ったほうがいいのでしょうか。

 もちろんデータの個数は多ければ多いほど、つまり大きい範囲であればあるほどいいのではないかと感覚的に思っているのですが。

 当然のご質問だと思います。
 そこでお答えした内容を、ここでも紹介しましょう。

 まず、「大きい範囲であればあるほどよい」が大前提となります。
 未来の数字を予測するにあたり、そのための素材は多ければ多いほどよいからです。

 先ほどの事例においてもわずか3カ月のデータよりは2年間(24カ月)のデータがあったほうがだまされずに済む可能性は高くなるでしょう。

 しかし私の知る限り、妥当なデータ量を規定する世界共通の方法論やルールは存在しません。

 その上で、最低どれくらいのデータの個数があればいいと考えるかについて私見を述べます。

 私の考えは、「月ごとの時系列データならば最低2年間(24カ月)は欲しい」となります。理由を説明します。

時系列データは4種類ある

 私は時系列データには、大きく4種類あると思っています。

 ①大きな変動がなくほぼ横ばい
 ②分かりやすい上昇(下降)傾向がある
 ③季節変動がある
 ④季節に関係なくランダムに変動する

(出所)『数字にだまされない本』(日経ビジネス人文庫)
(出所)『数字にだまされない本』(日経ビジネス人文庫)
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 まず①はそのまま横ばいが続くと説明するだけですからもっとも未来の予測がしやすいですね。

 ②についても2年間ずっと上昇(下降)しているということは長期的な傾向だといって差し支えないでしょう。
 その上昇率(下降率)を算出することで未来の推移も簡単に説明ができそうです。

 ③は例えば夏だけ急上昇する、といった傾向のことを指します。
 1年だけではたまたまその年の夏だけイレギュラーな動きをしたと考えることもできますが、2年の計測期間があれば夏は2回やってきます。
 そのいずれも急上昇した実績があれば、これは未来を語るに十分な情報だといえるでしょう。

 最後の④はすなわち①でも②でも③でもないケースということになり、きわめて予測が難しいと言わざるを得ません。
 先ほどの事例で登場した図2などはまさにこのケースであり、未来を予測する素材としてはほとんど扱えないと結論づけられるでしょう。

時系列データのサイズが分かればだまされない(写真/shutterstock)
時系列データのサイズが分かればだまされない(写真/shutterstock)
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予測値の妥当性も範囲しだい

 以上が「月ごとの時系列データならば最低2年間(24カ月)は欲しい」の理由です。

 もし誰かが時系列データをもとに未来を予測して説明している場面があったら、必ずその時系列データの範囲を確かめてください。
 できるだけ大きな範囲のデータで事実を確かめ、その予測値が妥当かどうかを評価しましょう。

【ポイント】
月ごとの時系列データは最低でも2年間(24カ月)は欲しい。
「そのサイズでいいの?」という問いを習慣にしよう。

日経ビジネス人文庫
数字にだまされない本
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深沢真太郎著/日本経済新聞出版/定価880円(税込み)