日経BPの専門誌の編集長およびラボの所長約50人が今後注目すべき技術を100件選定、専門記者が解説する『 日経テクノロジー展望2027 世界を変える100の技術 』が発刊。本コラムでは「日経トレンディ・日経エンタテインメント!」の澤原昇・総編集長が「もっと知りたい」と注目する技術について、記事を執筆した専門記者に話を聞きます。第2回は「世界モデル」についてです。
フィジカルAIへの関心と共に認知高まる「世界モデル」
澤原昇(以下、澤原):新刊『日経テクノロジー展望2027 世界を変える100の技術』の中で、気になるトピックについて専門記者に聞く企画、第2回は「世界モデル」です。そもそも、世界モデルとは何のジャンルの言葉になるのですか。
渥美友里(以下、渥美): 端的に言うとAI(人工知能)です。大規模言語モデル(LLM)がよく知られていると思いますが、LLMに並ぶモデルの一種です。
日経クロステック&日経コンピュータ記者
世界モデルが指す「世界」というのは現実世界のことなんですよ。つまり、現実世界のことをよく分かっているモデルとして「世界モデル」と呼ばれています。最近は動画を生成するモデルを使った動画などが世に出ていると思いますが、これらの動画では、現実世界では起こり得ないような動作などが見られますよね? こうした動作や挙動をなるべくなくして、現実の世界で起こり得ることを予測できるようなモデルですね。
従来のゲームやシミュレーターでは、人間が作成した数式やルールに基づいて世界を表現するのが一般的でした。一方で世界モデルは、実際の画像や動画などの大量のデータから現実世界のパターンや因果関係を学習します。そのため、人間が明示的なルールや数式として記述していない複雑な現象も再現できる可能性があります。
澤原:なぜ、この世界モデルが今注目を高めているのでしょうか。
渥美:フィジカルAIへの期待が高まっていることがその一因です。フィジカルAIをより早く実現するためには世界モデルが必要だといわれています。
澤原:すみません、フィジカルAIについてもちょっと教えてほしくて。現実世界のタスクをこなすようなロボットに搭載されるAIという認識で大丈夫ですかね。
日経トレンディ・日経エンタテインメント!総編集長
渥美:はい。製造現場などが分かりやすいかもしれません。工場で複数のロボットが周りの状況や業務を理解しながら動いてくれるようなイメージですね。
澤原:世界モデルとこれまで一言で言っていますが、どのように開発されるのでしょうか。
渥美:現在の世界モデルに関する主要なサービスの1つがNVIDIAの「NVIDIA Cosmos」です。直近だと、2026年6月に発表した「NVIDIA Cosmos 3」があります。このサービスでは文章や画像、動画、音声、ロボットなどの行動の入力に対応しています。これらの入力から現実世界の物理法則や因果関係に沿った動画などを出力します。そのほかにも動画を分析し、映像内で起きている事象を文章で回答したり、次に発生しそうな事象を予測したりすることができます。
澤原:つまり、こうしたサービスを使うユーザーがそれぞれ動画や画像などのデータを入力しながら活用していくといったイメージですかね?
渥美:そうです。これまでのAIロボット開発でもシミュレーターを使いながらロボットに動作を学習させていましたが、これだけだと現実世界とのギャップがどうしても埋まらないという課題がありました。世界モデルを使うことで、ロボットなどがよりリアルな動作ができるようになると期待されています。
製造業がフィジカルAIの主要なプレーヤー
澤原:一方で世界モデルの開発に関する課題や障壁もあると思いますが、その辺りはどうなのでしょうか。
渥美:AIの開発でよく言われる電力消費問題や、過剰な投資なのではないか?という議論があります。大量のお金を投じて、本当に使える技術になるのかどうかという疑問の声もあります。
澤原:世界で色々なプレーヤーが動いていると思うのですが、日本企業が優位性を持っていたりするのでしょうか。
渥美:日本の製造業の現場をよく知っているモデルを作るといった動きはあります。日本の国産AIを開発するため、ソフトバンクやNEC、ソニーグループ、ホンダの4社を中核企業として2026年1月に立ち上がったNoetra(ノエトラ)という企業がありますが、ここでもフィジカルAIを開発するとしています。
渥美:ただし、はっきりと「優位性がある」とも言い難い状況です。というのも、製造業が強いとされてきた日本なので、蓄積されているデータは膨大にありますが、オープンなモデルを作るには、様々な企業に蓄積されているデータを集約して学習する必要があります。ただし、これらのデータは企業が保有する重要なデータでもあるので、なかなか共有されづらく、開発とのジレンマはあると思います。
ただ、日本の製造業内に刺さるモデルはゆくゆくは出てくるでしょう。アメリカを含む海外の工場と比較しても、工場が小さかったり、この道何十年といった熟練の技術者がいたりだとか。こうした条件を加味したモデルが生まれる可能性は近い将来、ありそうです。こうしたロボットが実現できれば、人手不足問題を解決する一手になるのではないかと個人的にも期待しています。
AIを取材し続ける記者が、今注目する「FDE」
澤原:ちなみに、今AI関連で渥美さんが取材していることも気になります。
渥美:そうですね…直近の特集では「FDE(フォワード・デプロイド・エンジニア)」という新たなAI時代の職業について取材しています。FDEとはお客さんの現場で課題を見つけ出して、伴走しながらAIの導入を支援する仕事です。
昨今、AIが生活や業務に浸透していると思いますが、AIをもっと業務に適合させつつ、人がこれまで担っていたことを代替できるような存在にしたいというニーズがあります。この需要に応じて、様々なITベンダーがFDEという職種を設けているという状況です。
澤原:生成AIを使うと言っても、結局一問一答で壁打ちするところで終わってしまいがちですよね。業務を本格的に効率化するためには、それなりの発想力が必要ですし。そのためにはFDEのような専門職種が必要なのかもしれませんね。
人物写真/尾関祐治 構成/馬本寛子(日経BOOKプラス)
日経BP編、日経BP、2970円(税込み)
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