仕事をしながら自身で定めた目標に向かって勉強している社会人男女を多数取材しました。学びの“現場”である自宅の勉強机にスポットを当てて紹介しつつ、学ぶ理由やキャリアのヒストリー、その人なりの勉強のコツなどを掘り下げます。そこには、大人の学びを効率的かつ前向きに取り組むためヒントがたくさんありました。ムック『THE DESK リアルな「勉強机」から⾒えた⼤⼈の学び100のヒント』から抜粋してお届けします。
植物と偉人にビジネス戦略を教わる人のデスク
――30代・IT系フリーランス編集者 藤原 華さん
Q 何を学んでいる?
A 生物学と世界史
本(電子書籍)を買って読み、学んだ内容をパソコンで書いてまとめるのが勉強の基本スタイル。生物学と世界史に関する書籍をKindleで読み、その内容を咀嚼した結果を「読書ノート」として、子どもに教えるような会話形式でテキストにまとめる。読書ノートはワークアプリの「Notion」に保存していく。
Q デスクのある場所は?
A 関東圏内の賃貸マンション(1DK・35㎡)8畳の居間
パソコン入力を伴う勉強は居間のダイニングテーブルで行う。ただし、それは藤原さんの勉強スタイルのごく一部。ダイニングの壁にプロジェクターでYouTubeを投影して映像で学んだり、ベッド脇の棚にタブレット端末を立てて読書したり、VRヘッドセットを装着して世界中の歴史的建造物を仮想空間で体験したり、家中どこでも楽しみながら学べる環境を整えている。
Q デスク周りのお気に入りアイテムは?
A 約14万円で買ったアーロンチェア
5~6年前、当時東京・銀座にあった大塚家具で購入。家で仕事をしていて腰が痛くなったことから、人間工学に基づいたワークチェアの代名詞であるこの椅子を選んだ。祖母がよく「自分と地面の間にあるものには金を惜しむな」と言っていたことも思い出し、奮発した。
A 残り時間が視覚的に分かるTIME TIMER
60分以内で時間を設定すると、残り時間が黒い面積で表示されるタイマーをパソコンの脇に。「1つの作業をするときに時間を決めてタイマーを設定。あと何分で終わらせよう、と集中できます」。
植物や歴史上の人物の戦略に学べば、ビジネスでの逆境はきっと乗り越えられる
「今、どんな仕事してるの? と聞かれると、一言で言いにくいんですよね」という藤原華さん。本業は、IT系メディアのフリーランス編集者だ。大学卒業後、3社の企業に勤め、ウェブメディアの編集者としてキャリアを積んだ。最後の1社では家電ニュースの編集者を10年続けたが、副業で行っていたライター教育にニーズがあると感じたこと、より自分らしく編集の仕事をしたいと思ったことを理由に、2021年末に退職。現在は、フリーランスの立場で、ニュースメディアなどに所属する新人編集者やライターの教育、企業広報のコンサルタントを主に請け負っている。
その傍ら、note(個人が文章や画像などを投稿できるウェブプラットフォーム)で自身の暮らしをテーマにした文章を書き、一部の記事の有料販売や書籍化による収入も得ている。
そんな藤原さんが今夢中になっているのが、生物学と世界史の勉強だ。世界史を学び始めたのは4年ほど前、自身の「お金」について真剣に考え始めたことがきっかけだ。「資産運用をうまく行うためには世界情勢をきちんと理解しておきたい、そのためには各国の歴史から深く知ることが必要と考えました」。
世界史を学ぶうちに有史以前の地球のあり方について興味を抱き、生物学も学び始めた。深くのめり込んだきっかけは、静岡大学教授の植物学者、稲垣栄洋氏の本に出合ったこと。 『世界史を大きく動かした植物』 (PHP研究所)、 『「雑草」という戦略 予測不能な時代をどう生き抜くか』 (日本実業出版社)、 『生き物の死にざま』(草思社) (文春新書)など、稲垣氏の著書はすべて読破した。「生物学のなかでも特に植物の生存戦略に惹かれ、稲垣先生の本で学びを深めています。いつか大学で先生の講義を実際に受けてみたいと思っています」。
「考え方のコアを育む」学びに惹かれる
IT分野を仕事の主戦場とする藤原さんにとっては、ChatGPTやメタバースなどのITトレンドを日々追いかけたり、目まぐるしく変化するSNSの最新の活用法をチェックして実践したりといったことは、ごく当たり前に行っていることで、「勉強」とは呼ばない。
「私にとって勉強とは、自分の考え方のベースをつくるための知識を得ること。勉強すると世の中の解像度が上がり、世界を見るのが楽しくなる。それに、学ぶことで人や世界の違いを知っておけば、“自分と違う”人と出会ったときに、優しくはできなくても、傷つけることは避けられるではないかと思います。“優しさの半分は知識でできている”という言葉をどこかで見かけましたが、まさに至言だと思います」
生物学と世界史を学ぶことは、自身の「ビジネスの売り上げアップにもつながる」と言い切る。
「例えばトウモロコシは自力での繁殖力は決して強いとは言えませんが、あらゆる加工食品や工業製品に使われていて、小麦や米と並ぶ世界三大穀物として世界中で作られています。『人間に利用される特性を持つ植物』であることで繁殖に成功しているというのが、トウモロコシの生存戦略。これをビジネスに応用すると、多くの人に役立つ無料の情報をブログやSNSでたくさん発信して『使われる』存在になることで認知度が高まり、さらに価値ある情報を有料で買ってもらうことが可能になる、という考え方ができます。私はnoteで自分の著述やマネタイズのノウハウの大部分を無料で公開し、重要な部分を有料化して収益につなげていますが、まさにトウモロコシの生存戦略と通じるので、自分のやり方は間違っていなかったと確信が持てました」
また、古今東西の世界史上の人物たちが、多くの失敗の末に大事を成していることを知ると、自身の失敗に対しても、「こういうやり方ではうまくいかないというデータが取れた」と前向きに捉えられるようになり、チャレンジすることを恐れなくなった。
「これまでずっと『準備が8割、実戦が2割』という姿勢で生きてきました。勉強は私にとって、生きていく上での『8割の準備』なんです」。勉強で新たな知識を得ることは、生きていく上での“トランプの切り札”が増えていくような感覚だと言う。「普通の人の切り札が3枚だとしたら、私は18枚も持っている、というような感じです。会社員を卒業して独り立ちした私は、この先さまざまな逆境に遭遇するかもしれませんが、そんなときは、多様な生き物たちの生存戦略や、歴史上の勝者や敗者のストーリーを頭の中から引き出してくるつもり。彼らの力強い生き様に学べば、だいたいのことには対処できるはずだから大丈夫、と思っています」。
実践でつかんだ学びのノウハウ
1 小学生向けの本で学び始める
大枠を理解してから個別の事象を掘り下げるほうが理解が深まり、体系的に学べるため、「易しい」「浅く広い」本からスタートし、段階を踏んでから、気になる事象の本や学術論文を読む。「精神医学を学んでいた大学院時代、論文をよく読んでいた」ので、論文を検索して読むのは比較的身近な習慣だ。
小中学生向けの本を1冊読む
子ども向けの日本の歴史のマンガなどを読み、大枠を理解する。
STEP 2
広く浅く学べる新書を3冊読む
社会人向けの「この1冊で日本史が分かる」といった切り口の本で、詳細を理解する。
STEP 3
興味を持った事象の本を読む
『女たちの壬申の乱』 など、ピンポイントで深掘りしたいテーマの本を読む。
STEP 4
CiNiiなどで論文を読む
国立情報学研究所の学術情報検索サイトCiNiiで、「壬申の乱」「皇位継承」など気になるワードで論文を検索して読む。
2 学びを会話形式の読書ノートにまとめる
「知りたがりの小学生の甥っ子がいるのですが、彼の素朴な質問に答えるように会話形式の文章でノートを作っています」。紙のノートは使わず、パソコンでテキストファイルを作り、ワークアプリのNotionにまとめている。「参考にした本の表紙のサムネイル画像を付けることで、それぞれの本の知識を身に付けたという達成感があります」。
3 VRヘッドセットで歴史スポットを体感する
VRヘッドセット「Meta Quest」を装着し、世界中の名所や遺跡を体験できる世界旅行アプリで、世界史や日本史の気になる事件があった建造物などを仮想空間で訪れる。「ベルサイユ宮殿や二条城などの中にも入れるので、歴史をよりリアルに想像できます」。夜、ベッドに入って寝る前に世界旅行するのが楽しみ。
4 晩酌しながらプロジェクターで動画を視聴
「映像は大画面で見たほうが強く印象に残る」ため、プロジェクターも勉強に活用。視聴時はXGIMIのモバイルプロジェクターをキッチンに置き、反対側の白壁に投影する。YouTubeで静岡大学の稲垣栄洋氏による生物学の解説動画などを流し、晩酌や家事をしながら映画を楽しむような感覚で勉強する。
勉強がはかどる部屋づくりのアイデア
1 寝ながら読書&動画視聴用に壁付けの棚を設置
無印良品の「壁に付けられる家具長押」で、ベッド脇にタブレットを置く場所を設置。写真のものはネット限定商品。「壁に小さいピンで穴を開けるだけなので賃貸でもOK。取り付けも簡単です」。寝ながらKindleで読書したり動画を見たりするのに便利。
2 ノートパソコンの収納場所はベッドの足元
ダイニングテーブルでの勉強や仕事が終わると、ノートパソコンとマウスを寝室のベッドの足元の収納ボックスの上へ。「ワンアクションで収納&取り出しができるよう、しまい込みません」。ボックスはビールなどを収納した無印良品の「ポリプロピレン頑丈収納ボックス」。
3 勉強グッズはミニトートに入れて椅子に引っ掛けておく
勉強中にパソコン周りに置くタイマーや目薬、Kindle端末などは、無印良品のミニトートバッグにまとめて入れ、アーロンチェアの背もたれに引っ掛ける。モノが散らからず、勉強開始とともにすぐに取り出せる。
取材・文/藤川明日香 写真/名和真紀子
日経ホームマガジン 日経WOMAN別冊、1430円(税込み)












