『物語思考 「やりたいこと」が見つからなくて悩む人のキャリア設計術』(幻冬舎) 著者で連続起業家のけんすう(古川健介)さんは、「やりたいことを見つけない」「過去から自分の行動を決めこまない」「自分を大切にし過ぎない」ことが大切だという。就活や転職、日々の生活でも自己肯定感を持つことはプラスに捉えられることが多い。けんすうさんが、高い自己肯定感は不要という理由とは? (聞き手は、日経BP書籍編集者の中川ヒロミ)

<1回目「けんすう「やりたいこと」を見つけるのをやめよう」>

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「立派な自分」でいなければという思いがチャレンジの足かせに

  前回 は「やりたいことを探そうとしない」「過去の積み上げで今を決めない」「自分を大事にし過ぎない」という3つの認知転換をしたい、という話をしました。今回は、このうち3つ目の「自分を大事にし過ぎるのはやめましょう」というメッセージについて、もう少し詳しく話したいと思います。

 ここ10年ほどで急速に広まった「自己肯定感が高いことはいいことだ」という言説には、ずっと疑問を持っていました。なんというか、余計なプライドを背負うことにつながりかねないと思っているんです。

 「立派な自分でいなきゃ」と自分自身にプレッシャーをかけてしまって、ちょっとしたチャレンジにもちゅうちょしてしまう。そういう行動回路が生まれるのはよくないなと思っています。

 例えば、「1年間ニートをしていた自分が採用面接に行っても、どうせ落ちちゃうと思うので」と、面接を受ける前から諦めるのはもったいないですよね。別に元ニートが面接を100回受けて100回落ちても、「ま、ニートだったしな」で済ませればいい話です。さも絶対に失敗してはいけないオオゴトのように捉えているのは、要は自分が傷つくのが怖いからですよね。

 もしも友達が「実は面接落ちちゃってさ」と教えてくれたとして、その人を全否定しますか? しませんよね。「ま、落ちることだってあるよね」くらいで捉えると思います。そんなもんです。自分を過剰に守りたくなるのは、最初から自分に完璧を求めているからでしょうね。「100%を目指そう」なんて思うからいけないのであって、「20%で上出来さ」くらいの態度で臨みましょう。

「目標の達成ではなく、その過程に本当の楽しみがあると気づいたら、失敗も全部受け入れられます」
「目標の達成ではなく、その過程に本当の楽しみがあると気づいたら、失敗も全部受け入れられます」
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目標のハードルは低くゆるゆると、プロセスを楽しむ

 最近も、ある若者から「目標に向かって新しい行動習慣を始めてみたけれど、やっぱり疲れちゃって3日も続きませんでした。そんな自分が嫌です」という相談を受けたんですけれど、時間軸が短過ぎると感じました。僕自身を例に出すと、僕が「運動習慣を付けないとヤバいな」と思って取り組み始めたのは20歳くらいの頃だったんですが、ちゃんと毎週続くようになったのは35歳前後になってからです。

 「やらなきゃなー」とあれこれ試して、今は筋トレを週2回。あと、人から誘われて最近ゆるく柔術も最近始めましたが、これもいつまで続くか分かりません。運動習慣が身に付くまで15年もかかったわけですから、「80歳のときに自分の足で歩ければ合格」くらいの低い目標でやっているので十分です。

 「毎日ジョギングするって決めたのに、3日目で挫折しました」なんて自嘲気味に言っている人を見ると、「いやいや、その目標だと、普通は挫折しません?」って返したくなります。毎日走るとしたら「1日30分」なんて無理せずに、「1日1分」から始めたらいいんじゃないですか。1日1分でも1カ月続けたら30分ですよ。2カ月目には「そろそろ1日5分くらいは走れるかも」と思えるはずです、多分。

 繰り返しになりますが、大切なのは「プロセスを楽しむこと」。あれこれ試したり、うまくいくと予想したのに違ったり、その逆もあったり。目標の達成ではなく、その過程に本当の楽しみがあると気づいたら、失敗も全部受け入れられると思います。 『物語思考』 で伝えたかったのは、そういうことです。

「『99%無理!』という状況の時こそ、真正面からトライするのがおすすめです」
「『99%無理!』という状況の時こそ、真正面からトライするのがおすすめです」
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99%無理な目標でテンションを上げる

 目標によって自分を苦しめないコツとして、もう1つ挙げるとしたら「達成したらめちゃくちゃテンションが上がる目標を立てる」という方法もあります。以前、ある企画で「ミュージシャンとコラボしよう」ということになり、誰に声をかけようかと考えたときに、「やっぱり有名な人がいいよね。有名といえば、ジャスティン・ビーバーじゃない?」と思い付いたんですね。で、本当に声をかけてみたら、なんとOKがもらえたんです。多分、彼にとっては日本の知らないちっちゃいサービスで、本当にどうでもよかったんだと思います。

 僕たちにとっても、断られて当然のノリでしたし、なんなら「ジャスティン・ビーバーにコラボお願いした」というだけでネタになるだけでダメージゼロ。OKもらえたら超ラッキーだと思っていたら、まさかのまさかでOKが出ちゃったんです。「99%無理!」という状況のときこそ、真正面からトライするのがおすすめです。

「『物語思考』は1000万部を目指しています。「あり得ないくらいの目標」を立てることで行動が変わります」
「『物語思考』は1000万部を目指しています。「あり得ないくらいの目標」を立てることで行動が変わります」
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 『物語思考』の売り上げに関しても、目標発行部数5万部で2万~3万部でとどまったらツラいですけれど、編集の箕輪さんとは「1000万部目指しましょう」と言っているんです。すると当然ながら海外市場も視野に入れることになるので、「翻訳版は、“オタクシンキング”のコンセプトにする? 禅の思想も入れる?」と面白い方向性へ膨らんでいくわけです。

 制限を取っ払って「あり得ないくらいの目標」を立ててみると、行動がまるっきり変わるんです。結果として、1000万部までいかずに100万部で終わったとしても、十分じゃないですか。何より、「あの本でアメリカ市場に乗り込んでみました」と後で語れると面白い。僕は一応、会社も経営しているんですけれど、一緒に働くメンバーの評価も同じ手法でやっています。

 達成したらめちゃくちゃテンションが上がる目標を設定して、「6割まで行けたら、超すごいよね」と。達成したかどうかの0か100かではなくて、どれだけ前進したかの変化量を見るんです。逆に、達成できそうな目標を掲げて達成できなかったときのほうがツライですよね。あり得ないレベルの目標に向かって、「できるわけないよね」と笑いながら試行錯誤して、いろんな経験ができるほうが人生面白くなると思うんです。

取材・文/宮本恵理子 構成/市川史樹(日経BOOKプラス) 写真/鈴木愛子