東京カメラ部社長・塚崎秀雄さんの新著『実践講座! 名画から学ぶ写真の見方・撮り方 「被写体の探し方」から「名画を超える写真」まで』(日経BP)。写真撮影に役立つ知識やテクニックを世界的名画を例に解説。「被写体の見つけ方」や「構図の作り方」を楽しみながら学ぶことができます。今回はその中から印象派の巨匠であり、日本でも人気の高い画家クロード・モネの名画から学ぶ撮影テクニックを紹介します。

1回目 東京カメラ部 名画に学ぶ撮影術と今こそ必要な「寛容さ」 から読む

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被写体の見つけ方×クロード・モネ『サン=ラザール駅』

 日本でも人気が高い印象派の画家、クロード・モネ。印象派やバルビゾン派以前の絵画は神話や聖書の物語を題材にしたものが多く、風景画は価値が低いものと見なされていました。ですが、モネをはじめとする印象派の画家たちはアトリエから屋外に出て、スケッチに励みます。そうした制作の手法が大きな注目を集めました。印象派の画家はそれまでになかった作品を世に送り出すとともに、絵画のあり方も大きく変えたのです。

 では、モネが残した名画から写真の撮り方を学んでみましょう。まずは、モネの人気作のひとつ『サン=ラザール駅』。サン=ラザール駅は1837年に開業したパリで最も古いターミナル駅で、屋根がガラス張りになっており、観光名所として人気を集めていました。今でいう、“映えスポット”の先駆けですね。モネはこの駅舎をモチーフにたくさんの絵画を描き、現在でも世界に12作品が残されています。

出所:『実践講座! 名画から学ぶ写真の見方・撮り方 「被写体の探し方」から「名画を超える写真」まで』(日経BP)
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 個性的な写真を残すために、誰も知らないような風景を探す方も多いでしょう。でも、こうした超有名な“映えスポット”も名画の舞台になります。被写体探しに時間をかけるのではなく、訪れやすい身近な場所も十分にモチーフになり得る。そんな感覚を持つことが、写真を楽しむためのコツです。

光の変化で個性を出す×クロード・モネ『ルーアン大聖堂』

 1892年から1894年にかけて、モネはフランス北部の都市ルーアンにある『ルーアン大聖堂』の連作を手がけました。それぞれの作品はほぼ同じアングルから描かれていますが、作品からは違った印象を受けます。それは異なる天候、異なる時間帯の光の環境下で描かれているため。午後の明るく強い光を感じさせる『ルーアン大聖堂:扉口、昼下がり』、夕焼けに染まる幻想的な建物を捉えた『ルーアン大聖堂:日没』。同じモチーフや構図でも、個性的な作品を作り出すことが可能であることを教えてくれます。

出所:『実践講座! 名画から学ぶ写真の見方・撮り方 「被写体の探し方」から「名画を超える写真」まで』(日経BP)
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 また、近年ではスマホのアプリを使って、特定の場所の太陽の向きや雲の量などを手軽に知ることができます。そんなアプリを活用すれば現地に赴く前に当たりをつけることができます。そして、その情報を活用して適切な時間や天候を選んで、現地へ足を運べば、同じ場所でも、時間や天候ごとに、まったく知らない風景に出会える可能性を高められます。また、何度も通ううちに、その場所や建物に対する愛着も深まっていって、別の楽しみも増えるでしょう。

コントラストを工夫し、被写体の存在感を高める×クロード・モネ『カササギ』

 被写体の魅力を伝えるために、画面いっぱいに“ドアップ”で撮影する。そんな意識が強過ぎて、全体のバランスが失われてしまったという経験を持つ方もいらっしゃるのではないでしょうか。ドアップが有効な場面もありますが、常に大きく写すだけがいいとは限りません。被写体を小さく写しても存在感を高める技術があることを覚えておきましょう。

 モネがフランス・ノルマンディー地方の雪景色を描いた『カササギ』という作品。タイトル通り、主題は1羽のカササギですが、その姿は画面の左中ほどに小さく描かれているだけ。しかも美しい色彩が用いられているわけでもなく、黒一色でシルエット化されています。まるで脇役のような扱い。それでもカササギは強い存在感を放ち、見事にこの絵の主役を務めています。

出所:『実践講座! 名画から学ぶ写真の見方・撮り方 「被写体の探し方」から「名画を超える写真」まで』(日経BP)
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 では、どうしてこんなに小さなカササギの存在感が強く感じられるのでしょうか。それは主にコントラストです。モネは一面の雪景色の「白」とカササギの「黒」のコントラストによって、カササギの存在感を強調。さらにカササギが止まっている門の周辺の雪面に光を当てて、輝度を高めています。このテクニックにより、カササギの黒がより強められているのです。

構図の工夫で人物をより美しく×クロード・モネ『ラ・ジャポネーズ』

 人物を撮影する時は、ポーズと構図、衣装と背景の色を意識すると写真のクオリティーがぐっと高まります。『ラ・ジャポネーズ』は、妻のカミーユ・ドンシューをモデルにした人物画。日本風の着物を身に着けていますが、当時のパリは日本ブームのまっただ中。絵の背景には浮世絵をあしらったうちわが飾られています。

出所:『実践講座! 名画から学ぶ写真の見方・撮り方 「被写体の探し方」から「名画を超える写真」まで』(日経BP)
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 モデルのカミーユは菱川師宣の浮世絵『見返り美人図』のようなS字カーブでポーズを取り、しなやかさを表現しています。さらに広がる着物の裾を使って、三角形構図を構成。S字構図と三角形構図の組み合わせにより、鑑賞者はしなやかな美しさと安定を同時に感じることができるのです。

 色の組み合わせにも注目を。モネはモデルが着ている着物の赤と補色の関係にある青緑を用いることで主体をより際立たせています。名画は色の合わせ方も教えてくれるんですよ。

取材・文/川岸 徹 構成/市川史樹(日経BOOKプラス編集)

撮影時のよくある悩みや迷いを解消

名画と写真を鑑賞しながら、名画がなぜ名画たり得るのか、その技法を写真に応用するとどうなるか、それぞれの手法をどういう場面で使えばよいかを解説。東京カメラ部のノウハウがこの一冊で学べます。

塚崎秀雄著/日経BP/2,200円(税込み)