東京カメラ部社長・塚崎秀雄さんの著書『実践講座! 名画から学ぶ写真の見方・撮り方 「被写体の探し方」から「名画を超える写真」まで』(日経BP)には、国内外の名画を題材に、様々な撮影テクニックが紹介されています。前回は「印象派の巨匠クロード・モネから学ぶ写真術」を解説。今回はモネと並んで人気の高い画家ルノワールや日本を代表する浮世絵師・葛飾北斎らの作品から、魅力的な写真を撮るノウハウを学びます。
1回目
東京カメラ部 名画に学ぶ撮影術と今こそ必要な「寛容さ」
2回目
印象派の巨匠クロード・モネの名画に学ぶ写真の撮り方
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安定感抜群の「日の丸構図」×ルノワール『陽光の中の裸婦』
被写体を中央にドンと据える「日の丸構図」。構図の工夫が感じられず、簡単に作ることができるため、“芸がない”ように思われがちですがそんなことはありません。被写体を真ん中に置けばそれだけで十分に強い絵になりますので、自分の子どもやパートナーなど大切な人を撮影する時に活用するといいでしょう。
ピエール=オーギュスト・ルノワールも日の丸構図を用いた作品を残しています。『陽光の中の裸婦』は、裸婦が画面の中央に大きく配されており、主題であることが明確です。「裸婦を描く」というルノワールの強い意図と熱意を感じ取ることができます。裸婦の背景にはリーディングライン(視線を自然に誘導する線)が入れられており、鑑賞者の視点が被写体に集中するように工夫。さらにその背景に青が含まれているため、裸婦の肌と補色の関係になってコントラストが高まり、主題である裸婦がより際立っています。
この作品は第2回印象派展に出品されましたが、美術記者から酷評されたというエピソードが残っています。女性の肌に緑色や紫色が使われており、腐乱した死体のようだと。今となっては信じがたい話ですが、この時代は人間の肌は“肌の色”で描くと決まっていたのです。
「アルファベット構図」で親しみやすさを演出×ルノワール『イレーヌ・カーン・ダンヴェール嬢』
もうひとつ、ルノワールの作品を紹介します。ルノワールが生涯に描いた数千点の絵画の中でもトップクラスの人気を誇る『イレーヌ・カーン・ダンヴェール嬢』です。作品は被写体のイレーヌ嬢を中央に大きく据えた日の丸構図が用いられているとともに、アルファベット構図「A」が使われています。作品の全体を眺めると、アルファベットの「A」の文字が浮かび上がってくるでしょう。イレーヌの頭部を頂点に、彼女が座って広がったスカートと手前にそろえた手によって、アルファベットの「A」が形成されています。
アルファベットは見慣れた形ですから、おのずと作品の安定感や安心感が高まります。この作品を鑑賞して「なんか、いいな」「親しみやすそう女性だな」と思えるのは、「A」の構図による効果が大きいですね。
そのため、お子さんや愛犬・愛猫などのペットといった大切でかわいい被写体を撮影する時に、このアルファベット構図を使ってみてください。
複数の被写体を交点に配置×ウィリアム・ターナー『トラファルガーの戦い』
友人とのグループ写真やお気に入りのグッズをまとめて撮影する時など、1枚の写真に複数の被写体を入れて撮影する場面は多いものです。でも、たくさんの被写体をバランスよく、美しく撮影するのは意外に難しい。「構図がうまく作れずに、メリハリのない、ごちゃごちゃした写真になってしまった」という声もよく耳にします。
そんな時に参考にしたいのが、19世紀イギリス・ロマン主義を代表する画家ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナーが描いた『トラファルガーの戦い』という作品です。画面には「ネルソン提督率いるイギリス海軍旗艦ヴィクトリー」「敗退しつつもネルソン提督に致命傷を与えた敵艦ルドゥタブル」「提督を襲った悲劇を知らずに勝利を喜ぶイギリス海軍の船員たち」と、複数の被写体が描かれています。
重要な被写体は多いのに、この作品ではそれらすべてがバランスよく配置されています。土台となる水平線を含めて、被写体すべてを四等分割構図の線上、あるいは交点に配置。これによって全体がすっきりと整理されており、鑑賞者の視線は被写体のすべてに誘導されます。画面中央のイギリス海軍旗艦ヴィクトリーに三角形構図が用いられているのも、全体を分かりやすく見せる重要な要素になっているといえるでしょう。
このように、たくさんの被写体をバランスよく、美しく撮影する際には、こうした四等分割構図を活用してみてください。
「額縁構図」で視線を誘導×葛飾北斎『諸国名橋奇覧 摂州天満橋』
最高の写真を撮りたいのに、理想的な撮影場所ではなかった。「花火を撮影したいのに前の見物客の頭が邪魔」「電車を撮りたいのに木の枝が入り込んでしまう」「みんなと同じ場所から撮るので、個性が出しにくい」といった不満を感じたことがあるという人も多いのではないでしょうか。
そうした時に覚えておきたいのが「額縁構図」です。「前の見物客の頭」や「木の枝」を写真の一部として使ってしまう。障害物と思えた要素が、写真のアクセントや個性になることは珍しくありません。
この「額縁構図」、葛飾北斎の浮世絵でも使われています。例えば、『諸国名橋奇覧 摂州天満橋』は、アーチ状の天満橋を額として、その下に中ノ島などの風景を描写。この構図によって、橋の上で行われている祭りだけでなく、橋の下に広がる町並みや水面に浮かぶ舟などにも視線が誘導されます。
撮影したくなるような被写体は、多くの場合、鑑賞したいものでもありますから、撮影時には周囲が混雑していて、撮影しづらいということはよくあります。周囲に迷惑にならない範囲で、理想的な撮影環境を追い求めるのもいいですが、今ある環境を逆手にとって偶然やハプニングも撮影に利用してみてはいかがでしょうか? 名画で使われている技術は、そんな方法も教えてくれるのです。
取材・文/川岸 徹 構成/市川史樹(日経BOOKプラス編集)
名画と写真を鑑賞しながら、名画がなぜ名画たり得るのか、その技法を写真に応用するとどうなるか、それぞれの手法をどういう場面で使えばよいかを解説。東京カメラ部のノウハウがこの一冊で学べます。
塚崎秀雄著/日経BP/2,200円(税込み)








