『 この保険、解約してもいいですか? 』(日経BP)を刊行。有料の保険相談を長年、続けてきた後田亨氏が、かつてCMソングが一世を風靡したアフラックの医療保険「EVER」の特徴を解説する。その本質を理解することは、保険見直しのヒントにもなるはずだ。
「よーく考えよう~♪ お金は大事だよ~♪」
アフラック(*)のテレビCMで、懐かしい歌が復活している(2023年9月から)。
この歌がかつてテレビで流れたのは、2003~06年。アフラックが02年、「一生いっしょの医療保険 EVER」を発売したとき、CMソングとして使われた歌だ。
私事で恐縮だが、「EVER」は、2004年、筆者が大手生命保険会社を退職するきっかけになった商品だ。
* 正式な社名は、アフラック生命保険(株式会社)。
医療保障を単品で売るのは難しかった
「EVER」は、ケガや病気で入院したときなどに給付金が支払われる「医療保険」である。
今となっては、想像しづらいかもしれないが、筆者が在籍していた当時の大手生保では、「EVER」のように、医療保障だけを単品の保険商品でお客様に提供するのが難しかった。
現在、ネットで検索すると「医療単品やがん保険の販売は、2000年12月までは、外資系生保会社と一部の中小生保のみに許されており,国内大手生保会社や損保会社は販売することができなかった」といった説明が確認できる(*)。しかし、筆者の記憶は異なる。
* 宮地朋果. 生保会社による医療保険の商品開発と販売における課題. 保険学雑誌, 2010, 第611, p.141−156
国内大手が医療保険を売らなかった理由
国内大手は、医療単品の保険を「販売できなかった」というより、「販売しづらかった」「販売しなかった」というのが正しいと感じるのだ。
営業職員用の商品カタログには、単品の医療保険も載っていた。しかし、営業部では「報酬がゼロに近いから、販売しても仕方がない。存在自体、忘れなさい。営業職員として生き残っていきたいのであれば、ほかの主力商品を売りなさい」といった指導を受けていたのだ。
時期も特定できる。不動産業界から転職してきた上司の下で働いていた1995~96年のことだ。成績を計上する際の件数カウントも1件ではなく、0.5件未満だったから「確かに、この商品の販売に時間と労力を使うわけにはいかない」と感じた。
こうした事情から、大手生保では、死亡保険に入院保障等の「医療特約」を付加するといった形で、医療保障を「セット販売」していた。それと比べると、医療保障に特化した「EVER」は、保障内容がわかりやすく、何より保険料が割安であった。「EVER」と比べると、筆者が当時、勤務していた大手生保の商品は明らかに高価で保障内容もわかりづらかったのだ。
割高な「医療特約」を売るコツとは?
大手生保の販売員の場合、子供のいない単身者にも、死亡保障などに医療特約を付加した商品を薦めることになる。その結果、会社側が推奨するモデルプランで医療保障を得る場合、20代のお客様でも月々の保険料は1万円を超えることが多かった。
「20代独身の私に死亡保障が必要なのか?」と、疑問を呈するお客様もいた。そんなとき筆者は、外資系保険会社の知人から教わった話法で乗り切っていた。
「事故などで高度障害状態になった場合、死亡時と同額の保険金が支払われます。そのお金があれば、家族に迷惑がかかりません」と説明するのだ。「死亡時の話をしたいのではありません。そういう問題ではないのです」と、真顔で断言するのがポイントだった。
医療保障だけに注目しても、大手生保の商品は高かった。平均余命を全うする想定で、医療特約部分の保険料総額を算出すると、現役世代の場合、「EVER」より数十万円から100万円くらい、高くつく計算だったのだ。そのため、仮に医療特約以外の保障は、大手生保の商品が優れていたとしても、医療保障は「EVER」で確保するのが賢明だと考えられた。
しかし、「EVER」をお客様にお薦めすることは立場上できない。
他社の優良商品をお薦めできないジレンマ
「EVER」をきっかけに、「他社の商品に優良品があっても販売できない1社専属の営業職員」の限界を、筆者は認識した。このような仕事を続けるのはマズいと考え、大手生保を退職し、複数の保険会社の商品を扱う代理店(いわゆる「乗り合い代理店」)に移ったのだ。
冒頭に引用した「EVER」のCMソングのフレーズは、その後、保険販売の仕事を辞め、著述業で生計を立てる決断も促した。大事なお金について、筆者なりに「よーく考えた」結果、「保険には極力入らないのが正解」という結論に至ったからだ。
お金について「よーく考えた」ら、転職しかない
確かに「EVER」は、医療保険としては優良な商品であった。しかし、お金を大事にするなら、そもそも医療保険には入らないほうがいい。従って、どこの会社の商品であれ、医療保険を販売する仕事はマズい。そこで医療保険を販売するのではなく、「保険には極力入らないのが正解」という情報を販売しようと考え、著述業に転じたのだ。
なぜ「保険には極力入らないのが正解」なのか。理由は単純だ。保険における「お金の流れ」を想像してみるといい。
医療保険を例にすると、入院給付金などの原資は、加入者が支払った保険料である。加入者が支払った「保険料」から保険会社の「経費や利益」を引いた残りが、入院給付金になるはずだ。式にすれば、次の通りだ。
ということは、加入者全体で見ると、「受け取る給付金<支払う保険料」となる。保険会社が保険料を設定する際に計算を間違えない限り、こうなる。「負担>受給」と言い換えてもいい。ここまでは、よく考えなくてもわかるだろう。
これに対して、次のような反論が考えられる。
「保険以外の分野でも、商品やサービスを供給する側の経費と利益は、受給者が負担する。ことさら、問題視するようなことだろうか?」
この点については「よーく考えよう」と言いたい。詳しくは、次回に譲る。

(次回に続く)
[日経ビジネス電子版 2024年1月12日付の記事を転載]
「保険貧乏 卒業したい人へ/その保険 いる? いらない? 見極めるための最強マニュアル」大反響、重版続々。保険に入りすぎている「五十嵐夫婦」の素朴な疑問に、保険商品の仕組みから業界の裏事情まで知る著者が、とことんやさしく答えていきます。
後田 亨(著)、日経BP、1760円(税込み)

