この保険、解約してもいいですか? 』(日経BP)を刊行。有料の保険相談を長年、続けてきた後田亨氏が、インフレと保険の関係を考察する。保険は本質的にインフレに弱く、インフレに対応できると販売員が勧める「変額保険」には、注意が必要だという。アクサ生命保険の商品を例に、解説する。

 「保険は、インフレには弱い」── 昨年来の物価上昇から、あらためて認識している。

 一般に保険契約は「長期・定額」だ。死亡保険金・入院給付金・満期保険金・年金などの金額は、契約時から数十年後まで変わらない商品が大半である。したがって、インフレ等による貨幣価値の下落リスクには対応できない。

 筆者には忘れがたい経験がある。

 大手生保の営業職員だった2000年のことだ。「養老保険」の「満期のお知らせ」を持って、ある個人商店を訪問した際、お客様に「満期保険金、たったの20万円!? 30年もかけた保険なのに。孫に小遣いをあげて、旅行に行ったらもう残らない」と責められたのだ。

 筆者も、養老保険の満期保険金が20万円というのは安すぎるように感じた。20万円ではなく、200万円なのではないかと思い、書面を確認したが、間違いではなかった(お客様が払ってきた保険料の総額も20万円よりずっと少なかった)。

1970年に決めた「保険金20万円」の価値とは?

 「30年もかけた保険」ということは、契約したのは2000年から遡って30年前。1970年の契約で、その後の物価上昇についていけていなかったのだ。

 後で調べてわかったのだが、1970年の新卒(大学卒)初任給の平均は約4万円だ。これが2000年には20万円ほどに上がっているから、約5倍だ。ということは、1970年時点での「20万円」は、2000年では「100万円」くらいに感じられただろう。筆者を責めたお客様も、今のお金にすると、100万円超の満期保険金を受け取ることができる、それくらいの目論見(もくろみ)だったのではないだろうか。

 長期・定額の契約を結ぶ保険のリスクについて、考えさせられる事例だと思う。

 では、このリスクを解消できる保険はあるか? 

 結論から言うと、現時点でも「インフレに対応できる」と明言できる保険はない。

 「変額保険はインフレ対策ができる」と説明する保険会社の人やファイナンシャルプランナー、保険販売員もいるが、言い過ぎだと感じる。

「変額保険はインフレ対策になる」と販売員は言うが

 変額保険では、保険加入者が支払った保険料を、保険会社が投資信託などで運用する。そして運用が順調な場合、死亡保険金や解約返戻金の増加が見込める。なので、「インフレにも対応できる」と評価する人がいるのだ。

 しかし、「インフレに対応できる可能性がある」という説明にとどめるべきだと思う。「保険金は増加しないケースが多いだろう」と付け加えてもいいかもしれない。

 変額保険も、そのほかの保険と同様、販売手数料などが高く、そもそも運用に回るお金が少ない。そのため、たとえ運用環境が良くても、その成果が、保険加入者に還元されにくい仕組みと見られるからだ。

 アクサ生命(*)が販売する変額保険、「ユニット・リンク保険(有期型)」を例に考えてみよう。

 下図をご覧いただきたい。アクサ生命のサイトにある「運用実績シミュレーション」から抜粋して作成した。「30歳男性」が、この保険(変額保険)に加入し、「月額2万円」の保険料を支払うという前提条件で、契約から「30年」以内に死亡、ないし高度障害状態になった場合、いくらの保険金を受け取れるかを示している。受け取れる保険金の金額は、「957万円」が「基本金額=最低保証額」だが、保険会社による運用の実績によって変わる(詳細に興味のある方は、アクサ生命のサイトをご参照いただきたい)。

画像のクリックで拡大表示

 この表をご覧になって、読者の皆様は、どう思われるだろうか。

 この表からわかるのは、「運用実績6%」という最も楽観的なシナリオで推移しても、死亡・高度障害保険金は20年間、1円たりとも増加しないということだ。

 運用実績6%の場合、30年後には保険金が1633万円に達するので、確かに、死亡保険金が「増えることもある」。

 しかし、それすら素直に喜んでいいのか疑問だ。

*正式な社名は、アクサ生命保険(株式会社)。ただし、生命保険会社の社名は「保険」を省略して呼ぶことが多く、本稿では「アクサ生命」と表記する。

自分で運用すれば「316万円」お得

 保険料に相当する「月額2万円」を、自分で積み立て投資して、30年間、6%で運用できた場合、いくらになるだろうか。野村証券のサイトにある「マネーシミュレーター みらい電卓 積立編」で試算すると、資産残高は1949万円になる。元金は720万円(2万円×12カ月×30年)だから、およそ2.7倍。30年後の変額保険の死亡保険金より316万円も多い。

 なぜこんなことになるのかといえば、繰り返しになるが、販売手数料などが高いからだ。加入から30年後に死亡した場合、保険料として合計720万円を積み立ててきたのに対して、保険金は957万円(運用実績が6%ならば1633万円)。保険金の大半は、運用によって増えた「自分の積立金」が返ってくるだけ、と捉えていい。それも「手数料等を引かれた後の自分の積立金」だ。

 筆者は「死亡保険は不要だ」と言いたいわけではない。

 通常、死亡保険の利用がふさわしい期間は、子どもが自立するまでの20年程度だろう(相続対策に用いる場合を除く)。そうであれば、その間、変額保険ではなく、掛け捨ての死亡保険に加入したほうがいいのではないか。その上で別途、保険より各種手数料が低い投資信託にお金を積んでおくほうが、インフレ対策としても賢明に違いない。

 冒頭に書いた通り、保険はインフレには弱い。死亡保険に限らず、医療保険やがん保険、さらに個人年金保険・学資保険などの貯蓄型の保険商品も定額契約である限り、将来の受給額の価値は目減りする可能性が高いのだ。

 1月(編集部注:2024年1月)から、NISA(少額投資非課税制度)の制度が拡充された。今後は、これまで以上に、保険の利用は最小限にして、運用に回せるお金を確保すべきではないだろうか。

(写真:akoji/stock.adobe.com)
(写真:akoji/stock.adobe.com)

(次回に続く)

日経ビジネス電子版 2023年12月28日付の記事を転載]

【経済評論家・山崎元氏&両@リベ大学長】W推薦

「保険貧乏 卒業したい人へ/その保険 いる? いらない? 見極めるための最強マニュアル」大反響、重版続々。保険に入りすぎている「五十嵐夫婦」の素朴な疑問に、保険商品の仕組みから業界の裏事情まで知る著者が、とことんやさしく答えていきます。

後田 亨(著)、日経BP、1760円(税込み)