『 この保険、解約してもいいですか? 』(日経BP)を刊行。有料の保険相談を長年、続けてきた後田亨氏が「保険離れ」について考える。新しい少額投資非課税制度(NISA)によって「保険離れ」が加速したといわれる。しかし、地方を中心に「生命保険は必要不可欠」と考える人が依然、多数を占め、その事実を裏づけるデータもある。それでいいのか?
(前回から読む)

「NISAに積み立てるお金を増やすために、今、入っている保険を解約する。そういう人が出てきているし、これからも増えるだろうと思っています」
ある外資系保険会社に勤務している若手社員の発言だ。「『保険離れ』というか、個人的には、それで正解だと考えています」と言う。
新しいNISAも始まった。NISAによる「保険離れ」は、これからますます加速するのだろうか?
テレビを見ないから「保険離れ」?
「保険離れ」という言葉は、筆者が有料で行っている保険相談のお客様からも、近年、聞く機会が増えていた。情報の取り方が変わったことが影響しているようだ。
20~40代のお客様には「テレビなど誰も見ないし、新聞も読まない」と語る人が珍しくない。主な情報源はネット、特に動画で、お金関係の情報は「『リべ大』(*)の動画で学んでいる」というお客様が多い。
主な情報源がネットならば、テレビや新聞にあふれる保険のCMや広告を目にすることは少ない。もちろん、ネットにも保険の広告は流れているが、動画配信するYouTuberなどは、広告主だからと忖度(そんたく)して、保険会社にとって不利な情報発信を自粛することはない。その結果、「保険は極力、入らないのが正解」という、合理的な考え方が広がりつつあると考えることは、できなくもない。
とはいえ、筆者は、「保険離れ」が世の趨勢であるとは認識していない。
*リベ大:「リベラルアーツ大学」の略称で、IT企業経営者・投資家である両学長が運営する、Webコンテンツの総称。「時間の自由」「経済的自立」「精神的自立」を得るために必要な知識を様々な形で配信。YouTubeには、2023年12月末現在、1900本以上の動画がアップされ、チャンネル登録者数は約250万人である
「生命保険は不可欠」論者が、今も多数派
例えば、地方で開催されるセミナーで、「老後の医療関連保障は、国の保険制度と自己資金での対応が最善です」といった、本連載でも繰り返している主張を述べると、驚かれることが多い。
また、生命保険文化センターの調査(*)によると、2021年における生命保険の世帯加入率は89.8%で、2018年から1.1ポイント上昇している。特に、中都市、小都市で高い。大都市にいると気づきにくいかもしれないが、今も何かしら生命保険に入っている世帯が9割近くを占めていて、その比率が急激に下がっているわけでもない。
筆者の体感では「民間の保険に何も入っていない状態など考えられない。特に老後の医療保険などは必要不可欠だ」「国の制度が改悪される可能性もある。そう考えたら、むしろ民間の保険による備えを充実させる必要がある」などと考えている人たちのほうが、多数派なのだ。
*生命保険文化センター「2021(令和3)年度 生命保険に関する全国実態調査」
生命保険に「月額平均3万円以上」かけている
先ほどの生命保険文化センターの調査によると、生命保険に加入している世帯が、1年間に払い込む保険料は平均37万1000円だ。月額換算で3万円超に達している。
月額平均3万円を超えているのは、老後資金準備目的で保険に入っている人が多いからだろう。いわゆる「掛け捨て」の生命保険など、保障に特化した保険だけでは、保険料がここまで高くなるとは考えにくい。一方で、終身保険・養老保険・個人年金保険など、貯蓄性がある商品を老後資金準備目的で利用する場合、月々数万円の保険料になるプランが多い。
販売員にしてみれば、月々数千円の掛け捨ての保険より、数万円の終身保険などを販売するほうが、高額の手数料を稼げるので、積極的に提案していると思われる。大半の販売員は「保険商品の高い手数料は、顧客にとって資産形成における決定的なマイナス要因」と教えられていないので、心を痛めることもない。
顧客も「投資と違って、将来の受取額が決まっている保険は安心」と認識していることが多いので、「元本割れ期間はあっても長期的には預金よりお金が増える」という説明が通用しているのだ。
終身保険などで一定期間の元本割れが生じるのは、手数料が高額なため、契約当初の保険料のうち、貯蓄に回る部分が少ないせいだ。したがって、元本回復に時間がかかるという一点で、利用を控えるべきなのだが、現実は残念なことになっている。
いずれにしても本来、保険商品を利用して老後資金を準備する必要はない。この点については次回、説明する。そのうえで、NISAと「保険離れ」の関係について、筆者の見解を述べたい。
(次回に続く)
[日経ビジネス電子版 2024年1月26日付の記事を転載]
「保険貧乏 卒業したい人へ/その保険 いる? いらない? 見極めるための最強マニュアル」大反響、重版続々。保険に入りすぎている「五十嵐夫婦」の素朴な疑問に、保険商品の仕組みから業界の裏事情まで知る著者が、とことんやさしく答えていきます。
後田 亨(著)、日経BP、1760円(税込み)
