この保険、解約してもいいですか? 』(日経BP)を刊行。有料の保険相談を長年、続けてきた後田亨氏が、保険と競馬、宝くじの損得を比較する。

 「それって、競馬より不利な仕組みですよね?」

 筆者の保険相談にいらしたお客様に、医療保険の「料金設定」についてご説明したときの反応だ。

 「保険商品の設計に関わっている複数の専門家によると、『医療保険』の保険料には30%程度、保険会社の経費などが含まれている、と見ていいそうです」と、お伝えした。お客様は、競馬の場合、馬券代の約25%が運営側の(税金も含む)経費等に回り、残りの約75%が賞金になることを知っていて、「医療保険に加入すると、馬券を買うより損失が出やすい」と想像したのだ。

 筆者は、「『がん保険』では『こんなに?』と驚くくらい、保険会社の取り分を大きくした料金設定になっているケースもあるそうです」と付け加えた。複数の保険会社で、がん保険の商品設計に関わってきた保険計理人(*)から、「競合が激しい医療保険より、がん保険のほうが高収益を見込める設計にしやすい」と聞いていたからだ。

 いずれも伝聞による情報だ。しかし、貴重な開示情報もある。

* 保険計理人:保険会社で、保険料や責任準備金の算出に関する業務や、会社全体の健全性を確認する業務を担う。保険業法によって、保険会社に選任が義務付けられている。資格試験に合格するほか、保険会社で保険数理に関する業務に5年以上従事するなどの条件を満たす必要があり、専門知識のほか豊富な業務経験を求められる。

ライフネット生命ですら、「競馬より不利」

 ライフネット生命(*)の2022年度決算説明資料(2023年5月11日)には、「粗利率」が記載されている。これは、保険料から各種給付金を支払い、将来の給付金支払いのために一定額を積み立てた後、会社側に残るお金の割合である。

 この粗利率が、2020年度は43%、2021年度は44%、2022年度は39%(新型コロナウイルス禍の影響を除くと46%)となっている。

 ライフネット生命は、ネット生保の草分け的な存在であり、2008年の開業以来、「インターネットで加入できる保険の場合、人や店舗にかかる経費を抑えられるので、保険料が割安になる」と説明している。

 そのような保険会社でも、粗利率から逆算すると、給付に回るお金の割合は、コロナの影響を除けば55%前後(54~57%)であり、競馬より不利な仕組みになっていると見られるのだ。

 ところで、貴重な情報を開示しているライフネット生命には、一般に「良心的な保険会社」というイメージもあるかもしれない。この点について、少し考えてみたい。

* 正式な社名は、ライフネット生命保険(株式会社)。

ライフネット生命は「良心的」と言えるか?

 ライフネット生命のホームページにアクセスし、「ライフネット生命が選ばれる理由」を確認してみよう。

 1番目に「 業界初、『保険料の中身』を開示しています」と書かれている。その後には「保険料に含まれる手数料が何%なのか。この情報を公開しているのは、日本ではライフネット生命だけ。このような情報開示は、私たちは『生命保険がわかる』情報を提供する、というマニフェストにもとづいています。」という一文が続く。

 その下に、「保険料の内訳表はこちら(2021年6月1日現在)」というリンクがあり、ここに「手数料が何%なのか」を示すPDF資料があるようだ。クリックすると、「純保険料」と「付加保険料」が表記された内訳表を確認できる。

 「純保険料」とは、保険料のうち、病気やケガなどをしたときの各種給付金支払いに使われるお金のことだ。

 一方、「付加保険料」は、保険会社の経費等に充てられるお金だ。

 従って、ライフネット生命が「手数料」と呼ぶのは、「付加保険料」のことだと考えられる。「給付金支払いに使われないお金=付加保険料=手数料」という論法なのだろう。

 しかし、それでいいのだろうか? これは「正直に、わかりやすく、安くて、便利に。」を標榜しているライフネット生命の真意が疑われる説明だと思う。

 なぜなら、給付金の支払いに回ると説明されている「純保険料」は、「見込み」で決められている。そして、保険会社は通常、健全な運営のために、将来、支払うであろう各種給付金をあらかじめ高めに見込んで保険料を設定している。従って、「給付に回らないお金=手数料」とするなら、「手数料=付加保険料+純保険料の加算部分」と発信するのが筋だろう。「手数料=付加保険料」とすることは、手数料を実際より安く見せることにつながる。

大手生保の死亡保険は「宝くじより不利」

 ともあれ、ライフネット生命が公開している内訳表を見ると、終身医療保険の場合、付加保険料の割合はおおむね20%台前半だが、「がん保険」「就業不能保険」では、同社が「手数料」と定義している付加保険料の割合が、30%や40%台に達している例が珍しくない。

 ライフネット生命以外の保険会社は、保険料の内訳のような情報を開示していないが、大手生保の「定期保険」(保障期間が定まっている死亡保険)では、加入者の死亡時の給付金に回るお金は保険料の約23%にすぎない、と試算できる契約例もある(*)。

 そんなわけで、筆者は、生命保険は「ネット生保でも、6万円用意するのに10万円超のお金がかかる仕組みであり、競馬より確実に不利で、運営側の取り分が55%ほどある宝くじよりひどい例もある」と認識している。

* 例えば、明治安田生命のサイトには、30歳男性が死亡保険金3000万円の「個人定期保険」に加入した場合、月払い保険料が7380円という「契約例」が記載されている。一方、厚生労働省「第23回生命表(完全生命表)」を基に、30歳男性が向こう10年間に死亡する確率を算出すると約0.67%(30歳の生存者数から、40歳の生存者数を引いた数を、30歳の生存者数で割って算出)。この死亡確率に基づき、先ほどの「契約例」で、3000万円の死亡保険金の給付に必要な原資を算出すると20万1708円(3000万円×0.67%)。これを10年間(120カ月)で支払うなら、月払い保険料は1681円だが、明治安田生命の「契約例」では7380円。従って、保険料のうち、死亡保険金の原資になるのは約22.8%であると試算できる。

保険と競馬を比較するのは、不謹慎か?

 ギャンブルが要注意なのは、「賭けに投じるお金-胴元の取り分=賞金」であり、「胴元の取り分」に相当するお金が、確実に失われる仕組みだからだ。この点は保険も同じだ。「保険料-保険会社の取り分(経費や利益)=各種給付金」となる。

 誰も保険会社を胴元とは呼ばないが、会社側の経費や利益の分、加入者のお金は確実に減るのだ。お金の心配をしている人であれば、保険を広く長く利用するのは控えるほうがいいに違いない。

 ところが、こうした発信をすると、保険業界関係者はもちろん、一般の人からも「保険とギャンブルとの比較などありえない」といった反論が出る。「保険はいざというときに役に立つ。競馬や宝くじと比べること自体、不謹慎だ」と言う人もいる。

 虚心に、お金の流れを想像すると、暴利が疑われる仕組みであるにもかかわらず、病を患ったときや大けがをしたときなどに給付金が支払われるため、ギャンブルに使うお金とは扱いや評価が変わる。これは、「行動経済学」で言うところの「メンタルアカウンティング(心の会計)」である。

 非常に興味深い論点なので、次回以降、詳述したい。

(写真:gttkscg/stock.adobe.com)
(写真:gttkscg/stock.adobe.com)

(次回に続く)

日経ビジネス電子版 2024年2月9日付の記事を転載]

【経済評論家・山崎元氏&両@リベ大学長】W推薦

「保険貧乏 卒業したい人へ/その保険 いる? いらない? 見極めるための最強マニュアル」大反響、重版続々。保険に入りすぎている「五十嵐夫婦」の素朴な疑問に、保険商品の仕組みから業界の裏事情まで知る著者が、とことんやさしく答えていきます。

後田 亨(著)、日経BP、1760円(税込み)