この保険、解約してもいいですか? 』(日経BP)を刊行。有料の保険相談を長年、続けてきた後田亨氏が、保険にまつわる「不合理な心理」を考察する。

(前回「保険会社の取り分は競馬の胴元より多く、宝くじを上回るときも」から読む)

 生命保険のお金の流れはギャンブルと同じだ。だから、利用を必要最小限にとどめたい。

 生命保険だと「各種給付金= 保険料 - 保険会社の経費・利益」だ。
 ギャンブルは「 賞金  = 賭け金 -  運営側の経費・利益」である。

 「ギャンブルにハマってはいけない」と注意を促す人がいるのは、「胴元(運営側)の取り分を考えると、確実に損失が出る仕組み」だと認識しているからだろう。「参加者全体で見ると、賭けに投じたお金と賞金の収支は、間違いなくマイナスになるのだから、参加する機会も、使うお金の額も少ないほどいい」という論法だ。

 競馬や宝くじについては、公式サイトで、具体的にマイナスの大きさを知ることもできる。

 日本中央競馬会(JRA)のサイトには「勝馬投票法ごとの払戻率について」という項目があり、【平成26年6月7日以降】の払戻率が公表されている。単勝や複勝、枠連など、投票法によって若干異なるが、70~80%の範囲に収まる。お金の運用として捉えれば、マイナス20~30%が確約されたゲームなのだと理解できる。

 実際、同じくJRAのサイトで、2022年度の「決算報告等に関する公告」を見ると、「勝馬投票券収入」が3兆2754億800万円であるのに対し、「勝馬投票券諸支払金」は2兆4781億1900万円で、払戻率が75.7%となっている。つまり、馬券を買った人全体の収支はマイナス24.3%だったのだ。

宝くじの運用成績はマイナス53.1%

 宝くじは、公式サイトに一目でわかるグラフが出ている。以下に引用する。2022年(令和4年)度実績では、「宝くじの売上金額」の46.9%が当選者に支払われている。運用成績としては、マイナス53.1%ということになる。

出所:宝くじ公式サイト「収益金の使い道」
出所:宝くじ公式サイト「収益金の使い道」

 筆者は、お金に関する書籍を読む中で、「競馬はマイナス25%ほど」「宝くじではマイナス55%くらい」と記憶していたが、今回、公式な数字を改めて確認して「大金をつぎ込んではいけない」と痛感した。

 競馬は、レースの予測をする楽しみなどもあるかもしれないとしても、宝くじに至っては、「4万7000円の受給権を10万円で買う」ような仕組みなのだ。「夢を買う」などと言っている場合だろうか? と感じる。

 もとより、人には、お金の入手経路や使い道によって、判断が変わりやすい傾向がある。人の不合理な行動について研究する行動経済学では、「メンタルアカウンティング(心の会計)」と呼ばれている。

保険でもらったお金は、評価が上がりやすい

 例えば、仕事で稼いだお金は貯蓄に回そうとするのに、ギャンブルで儲けたお金は、心の中で「あぶく銭」と計上して、浪費してしまうといった傾向が人にはある。それは、お金の入手経路により、お金に対する評価が変わり、心の中で計上する「勘定科目」が変わったからだと考えられる。

 増税を嫌う人でも、「大震災からの復興」のための増税や「社会保障費に充てる」ための増税には「やむなし」と思ってしまうのは、よくよく考えれば「否応(いやおう)なく徴収されるお金」であっても、お金の使い道により、「必要経費」と認識されやすくなるからだろう。

 この観点から考えると、保険料は、「いざというときのため」「安心のため」「家族に迷惑をかけないため」といった目的があるために、心の中で「必要経費」として扱われやすいと感じる。メンタルアカウンティングの好例であろう。

 また、入院給付金やがん診断一時金といった、医療保険の各種給付金は、人が肉体的にも精神的にも弱っているときに給付されるため、「救済金」としてカウントされやすいとも思う。入手経路により、評価が上がるイメージだ。

 しかし、お金に本来、色はないはずだ。冷静にお金の流れを考えると、保険料が必要経費であるというのも、各種給付金が救済金であるのも、ある種の錯覚ではないかという疑問が浮かぶ。

「宝くじよりも、損な保険」もある

 前回(「保険会社の取り分は競馬の胴元より多く 宝くじを上回るときも」)も書いたが、保障目的の保険の場合、支払ったお金のうち、戻ってくるお金の割合は、競馬より少なく、宝くじよりひどい例もあるからだ。

 筆者は、複数の保険会社で商品設計などに関わってきた保険計理人(*)から、貴重な証言も得ている。

 「現行の保険商品は、お金を用意する方法としては、費用が高くつきます。従って、後田さんがおっしゃるように、入るとしたら、世帯主の死亡保険くらいに限定するほうがいい」

 キーワードは「お金を用意する方法」と「費用」の2つに違いない。

 ギャンブルにハマってはいけない理由を思い出してほしい。

* 保険計理人:保険会社で、保険料や責任準備金の算出に関する業務や、会社全体の健全性を確認する業務を担う。保険業法によって、保険会社に選任が義務付けられている。資格試験に合格するほか、保険会社で保険数理に関する業務に5年以上従事するなどの条件を満たす必要があり、専門知識のほか豊富な業務経験を求められる。

ギャンブルと保険の共通点を再確認

 「参加者全体で見ると、賭けに投じたお金と賞金の収支は、間違いなくマイナスになるのだから、参加する機会も、使うお金の額も少ないほどいい」という論法だった。これは、そのまま保険にも通用するはずだ。「賭けに投じたお金」を「保険料」に、「賞金」を「給付金」に、置き換えてみたらいい。「お金を都合する方法として見ると、費用が高くつく仕組みなので、極力利用を控えよう」というわかりやすい話なのだ。

 「心の会計」において、保険料や給付金の評価が変わりやすい理由は他にも考えられる。また次回以降、取り上げる。

付記:私は、行動経済学関連の知見の多くを、経済コラムニストの大江英樹さんを経由して学んでいます。大江さんは、2024年1月1日にお亡くなりになりました。心より哀悼の意を表し、ご冥福をお祈りいたします。

(写真:SENRYU/stock.adobe.com)
(写真:SENRYU/stock.adobe.com)

(次回に続く)

日経ビジネス電子版 2024年2月16日付の記事を転載]

【経済評論家・山崎元氏&両@リベ大学長】W推薦

「保険貧乏 卒業したい人へ/その保険 いる? いらない? 見極めるための最強マニュアル」大反響、重版続々。保険に入りすぎている「五十嵐夫婦」の素朴な疑問に、保険商品の仕組みから業界の裏事情まで知る著者が、とことんやさしく答えていきます。

後田 亨(著)、日経BP、1760円(税込み)