この保険、解約してもいいですか? 』(日経BP)を刊行。有料の保険相談を長年、続けてきた後田亨氏が、販売が急増している「一時払い終身保険」の損得を考察する。

 「貯蓄性商品として報じないほうがいいのではないか?」

 2024年2月、生命保険会社の「一時払い終身保険」の販売増を伝える各種媒体のニュース(*1)に接して感じた。販売額が2倍に迫ったとの報道もある。

 終身保険は、一生涯の死亡保障を確保できる商品で、相続対策に適している(*2)。

 しかし、相続対策を目的に終身保険に入る人はそれほど多くない。老後資金を蓄えるために入る人のほうが多数派だろう。「銀行預金ではお金が増えない。とはいえ、投資は怖い」と感じている人たちに、「死亡保障があるうえに、一定期間を経過したら、預金よりお金が増えます」などと貯蓄性を語り、販売される事例が多い。

 どうして終身保険に入ると「お金が増える」のか?

*1.日経電子版「一時払い終身保険、販売額2倍に 新NISAは逆風」(2024年2月19日)、産経ニュース「予定利率上昇で一時払い終身保険の加入増加 『金利のある世界』近づき売れる貯蓄性商品」(2024年2月27日)参照
*2.終身保険は、相続税法上、死亡保険金が一定額まで非課税になるといったメリットがあり、相続対策には有効である

 終身保険では、加入者が支払った保険料の相当部分を、その加入者への保険金支払いに備えて、ためておく。そして解約時には、たまったお金を加入者に払い戻す。この仕組みを加入者から見れば、定期預金口座などにお金を置いておくのと似ている。だから、貯蓄性商品として検討されるというわけだ。

人が一生涯に死ぬ確率は100%だから

 なぜ、このような仕組みになっているかというと、終身保険では、中途解約や保険会社の破綻がない場合、保険料の支払いがほぼ100%の確率で発生するからだ、と考えたらわかりやすいかもしれない(一生涯に人が死ぬ確率は100%だ)。

 終身保険の保険料は、加入者の年齢はもちろん、金利の影響を受ける。金利が高い場合、保険会社は、保険料を決める際に用いる「予定利率」を高く設定する。そうすると、保険料は安くなる。会社側からすると、お金を増やしやすい環境であれば、同じ保障を提供する場合でも、少ない保険料で済むという理屈だ。

 このところ「一時払い終身保険」の契約が増えているのも、市場金利が上昇し、保険料が安くなったためだ。「一時払い終身保険」とは、契約時に保険料を一括して払い込む終身保険である。

 では、どのくらい保険料が安くなったというのか?

 日本生命(*)が販売する「ニッセイ一時払終身保険」の商品ページを見てみよう。「2024年1月1日以降、保険料がお安くなりました」という説明の下に、保険金額1000万円の終身保険に、60歳男性が加入する例が載っている。

* 正式な社名は、日本生命保険(相互会社)

日本生命は8.3%を上回る「値下げ」

 従前の予定利率0.6%では、一時払いの保険料が933万6900円だったのが、予定利率1%になったのに伴い、855万4400円になっている。実に8.3%を上回る「値下げ」である。これだけ値下げされて、保障内容が変わらないのなら「お金の運用手段として悪くない」と考える人もいるだろう。そんな事情で契約が増えていると見られる。

 それでも筆者は、貯蓄・運用目的で「一時払い終身保険」に加入するのはやめたほうがいい、と思う。理由は以下の3点だ。

【お勧めしない理由 1】
実際の利回りは、予定利率を下回る

 「予定利率が1%になりました」と販売員に説明されても、鵜呑み(うのみ)にしてはいけない。例えば、1000万円の保険料を一括で払ったとして、1年後に10万円の利息がつくわけではないのだ。

 なぜなら、1000万円が丸々、運用に回るわけではないからだ。1%で運用されるのは、保険料から諸費用などを引いた残りのお金だ。諸費用が掛かるのは、投資信託や株の信用取引なども同じだが、保険の場合、それが高額だ。特に、契約初年度に販売員に支払われる手数料が高額で、自己資金が大幅に減った状態から貯蓄・運用が始まると認識したほうがいい。

 論より証拠。都心の保険ショップで、先ほどの「ニッセイ一時払終身保険」の提案書を作成してもらった。お金がどれほど増えるのか、確認してみよう。

 保険金額1000万円のプランに65歳男性が加入する場合、一時払いの保険料は881万8000円である。それに対して、払い戻しされる「解約返戻金」は以下の通りに推移する。

 注目したいのは「予定利率1%」でも、3年間、元本割れすることだ。初年度の販売手数料の影響が大きいのだろう。加入から1年後の解約返戻金は、881万8000円から14万8000円減って867万円となっている。率にするとマイナス1.68%だ。

 「4年目以降は増える」と反論する人がいるかもしれない。しかし、初年度に1.68%も費用として引かれ、その後も支払った保険料から諸費用を引いた残りのお金を1%で運用する仕組みなのだ。実質的な利回りが1%に届くはずがない。実際に計算すれば、わかる。

実質的な利回りは「0.3%台」

 野村証券のサイトにある「マネーシミュレーター『未来電卓』」を用いて、利回りを計算してみよう。10年後の解約返戻金の913万2000円で、0.35%。20年後でも0.397%だ。

 一昨年来の物価上昇などを考えると、3年という元本割れ期間の長さに見合うお金の増え方ではない、と感じる。

【お勧めしない理由 2】
インフレについていけないリスクが高い

 「一時払い終身保険」については、「投資と違って、将来、解約したときに受け取ることのできるお金の額が決まっていて安心」と、メリットを語る人もいる。

 投資信託などを利用する場合、成果は不確実なので、気持ちはわかるつもりだ。しかし、冷静に考えてみてほしい。「長期にわたり、運用の成果が決まっている」ということは、「金利や物価の上昇などにはついていけない」ということでもある。つまりインフレに弱い。

 しかも、現在のインフレ下で「値下げされた保険」ですら、実質的な利回りは0.4%にも達していないのだ。これほど低い固定金利で長期間の契約を結んでもいいのは「お金を増やす場合」ではなく「お金を借りる場合」というのが、大人の常識だろう。

 筆者が、終身保険の手数料の高さや元本割れリスクに言及すると、保険代理店の人などから「終身保険には死亡保障もついている。単純に運用商品として評価するのはいかがなものか」といった意見をいただくことがある。この点について、どう考えるべきか。

【お勧めしない理由 3】
死亡保険金の大部分が「自腹」

 確かに、一時払い終身保険にも、死亡保障がついている。とはいえ、現実には貯蓄性を語って販売される事例が多い。それに、一時払い終身保険の場合、加入した瞬間から、死亡保険金のかなりの部分が、加入者の保険料で賄われる。

高齢になるほど、保険金が「自腹」になっていく

 先ほどの「ニッセイ一時払終身保険」でいえば、80歳男性が死亡保険金1000万円のプランに加入した場合、一時払い保険料は955万9500円、90歳男性なら977万7500円だ。つまり、高齢になるほど、死亡保険金に占める自腹部分が大きくなる。いずれにせよ「一時払い終身保険」では、加入時から死亡保険金の大部分は自腹である、と認識したい。

 筆者は、保険の長所は、支払う保険料と受け取る保険金の差額の大きさにあると考えている。事実、30歳男性が40歳までの10年間、ネット生保で掛け捨ての死亡保険を利用すると、月々約1000円の保険料で、1000万円の死亡保障を確保できる。こうした例こそ、保険の最もいいところだと思うのだ。

 そんなわけで、一時払い終身保険を検討するとしたら、冒頭に書いた通り、相続対策が必要な場合くらいに違いない。

 繰り返しになるが、貯蓄、および運用目的での保険加入はお勧めしない、とまとめておきたい。

 なお、今回、提案書を作成してもらったショップの人からは「お金を増やしたかったら、円建てよりも外貨建てがいいですよ」と勧められた。しかし、外貨建て保険は円建て以上に販売手数料が高く、「一時払い終身保険」では、初年度に5%程度の手数料が引かれる商品も珍しくない。1000万円の保険料を払うと、いきなり50万円減るのだ。ショップの人が勧めたいのはわかるが、貯蓄・運用目的での利用は厳禁である。

(写真:Andrey Popov/stock.adobe.com)
(写真:Andrey Popov/stock.adobe.com)

(次回に続く)

日経ビジネス電子版 2024年3月15日付の記事を転載]

【経済評論家・山崎元氏&両@リベ大学長】W推薦

「保険貧乏 卒業したい人へ/その保険 いる? いらない? 見極めるための最強マニュアル」大反響、重版続々。保険に入りすぎている「五十嵐夫婦」の素朴な疑問に、保険商品の仕組みから業界の裏事情まで知る著者が、とことんやさしく答えていきます。

後田 亨(著)、日経BP、1760円(税込み)