『 この保険、解約してもいいですか? 』(日経BP)を刊行。有料の保険相談を長年、続けてきた後田亨氏が「学資保険」の要否を考察する。
「この契約は、満期がきても元本割れしますけど……」
「そうなんです。意味がないですよね。子どもが生まれたとき、親が『孫のために』と、郵便局で契約しました。保険料も親が払っているので、そのままにしています」
保険相談にいらした方に、ご加入中の「学資保険」について、お尋ねした際のやり取りだ。
ご存じの方が多いと思うが、学資保険は、子どもの教育資金(学資)を貯めることを目的とする保険だ。毎月一定額の保険料を払い続けると、子どもの大学進学の時期などに、まとまったお金(学資金)を受け取れる。親などの契約者が死亡したときに保険料の支払いが免除されるといった保障機能もあるが、主な目的は「貯蓄」にあり、保険業界では「貯蓄商品」と分類されている。
ただし、満期になる前に解約してしまうと多くの場合、払い戻しされる「解約返戻金」は、払い込んだ保険料の総額より少なくなってしまう。つまり「元本割れ」である。
それどころか、満期を無事に迎えても元本割れする商品もあり、先ほどの相談者のケースがまさにそうだった。
かんぽ生命(*)の学資保険では、よくあることだ。それでも「かんぽの学資保険」の人気は高いと感じる。1971年に誕生した「日本で最初の学資保険」(同社サイト)だからだろうか。
* 正式な社名は、株式会社かんぽ生命保険
「かんぽの学資保険」は、お得になったか?
かんぽ生命のサイトで「学資保険」のページにアクセスすると「2023年4月に戻り率が良くなりました!」という文言を確認できる。
実際のところ、どうなのだろう?
「戻り率」というのは、満期などに受け取るお金(学資保険の場合は「学資金」)を払い込んだ保険料の総額で割った数字だ。返戻率(へんれいりつ)と呼ぶこともある。
かんぽ生命のサイトには「戻り率101.2%!」という記載もある。
ここで紹介されているのは、30歳男性が、子どもが0歳のときに加入し、総額197万5200円の保険料を10年で払い終わり、子どもが18歳のときに200万円の学資金を受け取る例だ。確かに、戻り率は101.2%だ(小数第2位以下切り捨て)。
しかし、本当に元本割れしないのか。
やっぱり「かんぽ」は元本割れする
かんぽの学資保険の場合、保険料の払い方に複数の選択肢があり、学資金の受け取り方にも3つのコースがある。戻り率が101.2%になるのは、保険料を「10歳」のときに払い終えるタイプで「『大学入学時』の学資金準備コース」を選んだ場合だ。
同社のサイトにある「お見積りシミュレーション」では、保険料を「18歳」のときに払い終えるタイプ(「18歳」まで払い続けるタイプ)も選択できる。そこで、このタイプを選んだ場合の戻り率を計算すると、次の表に示すように、いずれのコースでも元本割れする。
なぜ、元本割れする貯蓄商品が売れるのだろうか? 正直、筆者にはわからない。
「学資保険」という商品名がいい、とは思う。進学資金準備に最適、という感じがする。ほかに考えられる理由としては「同調圧力」だろうか。親族や友人から「皆、入っているから」と言われて、学資保険に加入している人は珍しくない。
それにしても、視野が狭くなっているのではないか。
太陽生命の個人年金保険のほうがマシ
学資保険の満期は、通常、子どもが17歳や18歳になる時期に設定する。そこで「17~18年で、お金が増えれば何でもありではないか?」と思い、「個人年金保険」と比べてみた。太陽生命(*)の「スマ保険」のサイトで、個人年金保険の返戻率を試算すると、30歳男性が48歳まで保険料を積み立て、年金を一括受け取りする場合、100.2%だった。
つまり、18年かけて進学資金を準備する場合、かんぽの学資保険より、太陽生命の個人年金保険を利用するほうが、まだマシなのだ。
何しろ、かんぽの学資保険は元本割れなのだから。
身も蓋もない話かもしれない。それでも、この話に何か学びがあるとしたら、「お金の使い道」によって、金融商品を選ぶ必要はない、ということではないか。子どもの進学資金は学資保険で貯めなくていけない、という決まりはない。老後資金も個人年金保険で貯めなくてはいけない、というわけではない。
保険の場合、円建ての貯蓄商品の保険料は、主に長期の国債で運用される。外貨建て保険なら外国債券、変額保険なら株式や債券を中心に運用されているわけだ。したがって、保険商品を利用した貯蓄や運用は、保険会社に仲介料を払い、国内外の債券や株式を買ってもらうのと同じだ、と理解したらいい。
保険契約で、当たり前のように一定期間の元本割れが生じるのは、他の金融商品より手数料等の諸費用が高いからだ。
* 正式な社名は、太陽生命保険株式会社
ソニー生命の学資保険なら、さらにマシだけど
学資保険に力を入れているソニー生命(*1)の場合、どうだろう。30歳男性が18年間、月払いでお金を積んで、一括で学資金を受け取る学資保険のプランだと、返戻率は103.1%。かんぽの学資保険はもちろん、太陽生命の個人年金保険より高い。それでも、契約後10年間は、いつ解約しても元本割れが生じる。また元本を回復した後、満期までの返戻率はずっと100%だ(*2)。
つまり、元本割れ期間が10年ある上に、満期までお金は1円も増えない。満期時の返戻率と比べたら「ハイリスク・ローリターン」だと感じる。物価が上昇する可能性なども考えると、「中途解約リスクが高く、最終的なリターンも実質的にはマイナス」と評価できるだろう。
筆者の保険相談でも、今年に入り、20~40代のお客様から「学資保険は検討しない。NISA(少額投資非課税制度)の枠が大きくなったから、日常的に使うお金と非常時に備えるお金は、動かしやすい預金口座に置き、ほかのお金は、極力、諸費用が安い投資信託で運用したい」と聞く機会が増えている。
筆者もそれでいいと思う。そもそも「生まれたばかりのわが子が大学に進学するはずの18年後」など、特定の時期やイベントに合わせて、計ったようにお金を増やせる方法はないと考えるからだ。
その代わり、お金はどんな用途にも使える。だから、中長期的にお金がかかるイベントがあるなら、まずは中長期的にお金が増えやすいと思える手段を探すことだろう。そう思える手段が見つかったなら、家計が許す範囲内で、そこにできるだけ多くのお金を積み、必要に応じて取り崩したらいいと思うのだ。
「子どもが生まれたら学資保険」という判断は、厳しい言い方をすると安易で短絡的ではないだろうか。
*1.正式な社名は、ソニー生命保険株式会社
*2.ソニー生命の学資保険の元本割れ期間と、その後の返戻率については、ソニー生命のコールセンターに問い合わせて確認した

(次回に続く)
[日経ビジネス電子版 2024年4月26日付の記事を転載]
「保険貧乏 卒業したい人へ/その保険 いる? いらない? 見極めるための最強マニュアル」大反響、重版続々。保険に入りすぎている「五十嵐夫婦」の素朴な疑問に、保険商品の仕組みから業界の裏事情まで知る著者が、とことんやさしく答えていきます。
後田 亨(著)、日経BP、1760円(税込み)

