入るべき生命保険と、解約したほうがいい生命保険。この2つは、簡単に見分けられます。『 この保険、解約してもいいですか? 』をこのたび刊行した後田亨氏が、〇×形式で、要点をご紹介します。今回のテーマは、「終身医療保険」と「がん保険」です。
生命保険を正しく利用することは、専門知識がなくても、難しくない。そんな筆者の主張を確かめるため、前回に続き、○×問題をご紹介する。
前回の繰り返しになるが、筆者は1995年から今日まで、大手生保の販売員として、乗り合い代理店(*)の販売員として、そして著述業と並行して有料の保険相談を受ける自営業者として、生命保険に関する悩みを抱える人たちと接してきた。そのなかで近年、痛感するのが「常識で考えれば、正解はおのずと分かる」ということだ。
読者の皆様も、試しに以下の2問に答えてみてほしい。大人の常識で少し考えれば、正解を出すのは、それほど難しくないはずだ。
【問題】 以下の記述について、それぞれ適切(○)か、適切でない(×)かを、答えよ。
(1) 「医療保険」は、老後も保障が切れない「終身型」がよい (2) 「2人に1人ががんにかかる時代」だといわれる。だから、「がん保険」には加入しておきたい
次のページに、【解答・解説】を用意した。
【解答・解説】
(1) 「医療保険」は、老後も保障が切れない「終身型」がよい → ×
読者の皆様は、次の2つの見解のうち、いずれに賛同するだろう?
「高齢になるほど、入院する機会なども増えるから、一生涯の保障がある医療保険に加入したい。70代や80代で保障が無くなる保険など意味がない」
「仮に医療保険に入る場合、長くても65歳くらいまででいい」
一般の人たちに「医療保険の望ましい保障期間」を尋ねたら、ほとんど全員が前者の発言に賛同するかもしれない。
しかし、常識で考えたい。入院する人などが増える老後まで保障が続く場合、手ごろな保険料で手厚い保障を持つことができるだろうか?
「若いうちに加入しておくと、保険料を抑えられる」と言う人もいるが、保障内容はどうか。仮に今、20代の人が、70代や80代になったときに最適な保障が現時点で完備されている商品などあるだろうか。
50年もたてば、世の中はずいぶん変わる。医療技術は進化しているだろうし、お金の価値も変わっているだろう。何がどう変わっているかが、具体的に分からない限り、50年後の自分にとって最適な保険に今、加入するというのは、無理な話に違いない。
「一生涯の保障が安心」というのは、願望にすぎないと、筆者は思う。ある保険会社の役員が「終身保障に合理性はない。60代前半くらいまでの期間限定なら、安くて充実した保障を提供できる」と語っていたことも付記しておく。
「2人に1人がかかる」なら、保険は向かない
(2) 「2人に1人ががんにかかる時代」だといわれる。だから、「がん保険」には加入しておきたい → ×
「がんは他人事ではありません」── このようなキャッチコピーに接した際、「がん保険で備えるべきか?」と思う人は、ぜひ自問してみてほしい。
「他人事ではない」事態に、保険の利用が向いているだろうか? と。
ゆっくり考えると分かるはずだ。保険での備えが向いているのは、他人事としか思えないような「まれに起こる事態」だ。発生率が低ければ、安い保険料で大きな保障を持てるからだ。「他人事とは思えない」ような、発生率が高い事象に、保険で備えようとすれば、保険料は高くなる。
保険で備えるのに向く事象と、向かない事象は、「発生頻度」と「発生したときに必要な金額」の多寡で判断できる。リスクマップと呼ばれている次の図のような関係だ。
不要な保険を見分けるリスクマップ
保険での備えが適切なのはAの場合であって、Bではない。また、CとDは、必要になる金額が多くないので、保険に頼らないほうがいい。
従って「2人に1人がかかるがん」は、保険での備えに向かない。「がんにかかる人が多い」という事実を根拠に保険加入を勧める論法は、常識で考えて、かなり怪しいのだ。
がんに罹患(りかん)する人が多いのなら、そもそもがん保険は、商品として成立しないのではないか? 常識で考えれば、そんな疑問を持つほうが自然だろう。長年、保険会社で保険商品の設計に関わってきた人によると、がん保険が商品として成立するのは、基本的に高齢者の罹患率が高いので、現役世代が加入する場合、保険金を支払うまで時間的な余裕があり、各種の治療法に対応した保障についても、確率論が働くからだという。
ちなみに、マネー誌等で評価が高いがん保険で、診断時に一時金が支払われるシンプルなプランの場合、人が一生涯でがんにかかる確率をもとに試算すると、50万円の給付金を受け取るために160万円ほど保険料を支払うと考えられる。詳細に興味がある方は、本稿末尾で紹介する拙著で解説しているので、ご参照いただきたい。
そんなわけで、身近なリスクを強調し、広告宣伝が行われている時点で、「販売側の取り分がかなり大きい商品に違いない」と警戒するのが、正しい大人の態度だろう。

必要なのは、「子どもが自立するまでの死亡保険」だけ
さて、前回と今回、2回に分けて5つの○×問題をご紹介し、解説した。どんな感想を抱かれただろうか。
「検討に値する保険は、世帯主の急死に備える死亡保険くらいではないか?」
「世帯主に死亡保険も、子どもが自立したら不要ではないか?」
「期間限定でいいし、掛け捨てでいいのではないか?」
こんなふうに考えた読者の方がいらっしゃるかもしれない。筆者は、それが生命保険との正しい付き合い方だと考えている。例外は、相続対策に終身保険を利用する場合くらいだろう。疑問がある向きは、前回の(1)の問題に戻って、もう一度、常識で考えてみてほしい。
(次回に続く)
[日経ビジネス電子版 2023年10月20日付の記事を転載]
その保険、あなたに本当に必要ですか? ── 老後に保険は要りません。保険に入りすぎている「五十嵐夫婦」の素朴な疑問に、保険商品の仕組みから業界の裏事情まで知る著者が、とことんやさしく答えていきます。経済評論家・山崎元氏、推薦。
後田 亨(著)、日経BP、1760円(税込み)

