『 この保険、解約してもいいですか? 』(日経BP)の著者で、保険の有料相談を長年、受けてきた後田亨氏が、入るべき保険と、解約したほうがいい保険の見分け方を説くシリーズ。前回に続き、近年目立つ「変額保険の落とし穴」に、注意喚起する。
資産形成を目的に変額保険に加入するのはあり得ないという、筆者の見解を前回、述べた。近年、「つみたてNISAと生命保険のいいとこ取りの保険」として、生保販売員が変額保険を薦めるケースが増えているので、注意喚起したい。
変額保険では、手数料が23~26%ほどかかるという試算を前回、示した。ちなみに、筆者が個人の資産形成に有用だと認識している「全世界株式型」投資信託の場合、販売手数料はゼロで、保有期間中にかかる費用は、残高の0.05775%以内だ(*1)。従って、変額保険を利用すると、良心的な投資信託の400倍ほど費用が高くつくことになる。
「費用が高過ぎる」という私見には、販売側の人から、次のような反論が聞かれる。
「変額保険には死亡保障もあるので、投資信託との比較は不適切である」
「満期時に戻ってくるお金が、保険料総額に等しい場合、それまでの死亡保障にかかる費用はゼロだったことになる」
しかし、筆者が知る限り、「変額保険」は、そもそも死亡保障が不要な単身者などにも販売されている。
また、子育て中の世帯主であっても、加入時から満期時まで数十年間、同額の死亡保障を持つ必要は本来ない。子どもの成長とともに、遺族に残すべき保険金の額は少なくなるのが自然だからだ。例えば、子どもが全員、就職して自活したなら、遺族に多額の保険金は要らないだろう(*2)。
満期金になるはずだったお金が、死亡保険金になる
従って、変額保険は、死亡保障が必要な人には使い勝手が悪く、資産形成には全く向かない、という評価が妥当だと思う。
さらに、満期金が保険料総額に相当する場合、死亡保障にかかるコストはタダ同然という論法は、単なる誤認だ。契約期間中に万が一のことがあった場合、将来、満期金や解約返戻金として支払われるはずだったお金が、死亡保険金の支払いに使われるからだ。
つまり、投資信託による運用の成果が保険金支払いに流用されるわけで、持ち出しが少なくなるのは、加入者ではなく保険会社のほうなのだ。
変額保険が検討に値するのは、相続対策が必要な人が、一生涯の死亡保障を持つ場合くらいだろう。
*2.この問題は、一般的な定期保険(期間限定の死亡保険)でも生じるが、「収入保障保険」と呼ばれるタイプの死亡保険であれば、この問題を解消できる。
亡くなったときに、遺族に残されるのが銀行預金や投資信託だと、相続税がかかる。しかし、保険金であれば、一定額まで非課税である。変額保険による運用がうまくいった場合、死亡保険金が増加することもあるので、保険金が定額の保険より、インフレリスクなどに対応できる可能性がある。
逆に言えば、相続対策目的以外の人は、年齢・職業・家族構成・投資経験の有無などに関係なく、変額保険は無視して構わない。お金を増やしたい人であれば、わざわざ、お金が増えにくい手段を選ぶ必要はないからだ。
損失が出たとしても、解約すべき理由
この理屈に納得できても、変額保険に加入中の人は、解約をためらうかもしれない。特に「今、解約すれば、確実に損失が出る」人の場合、「満期まで待てば、損しない(満期金が保険料総額を上回る)可能性がある」からだ。それでも、「お金が増えにくい仕組みに使った時間とお金が最も少ないのは今日」と考えて、解約したほうがいい。解約して戻ってきたお金を、手数料の低い投資信託で運用すれば、満期まで待つよりコストが下がる分、確実にお金が増えやすくなるからだ。
それにしても、「つみたてNISAと生命保険のいいとこ取り」とは、よくぞ言ったものだ。販売員と顧客の「利益相反」について、改めて考えさせられる話法に違いない。

(次回に続く)
[日経ビジネス電子版 2023年10月27日付の記事を転載]
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後田 亨(著)、日経BP、1760円(税込み)
