言語学バーリ・トゥード 』がロングセラーになっている気鋭の言語学者で、作家の川添愛さんがお薦めするコミュニケーションや言葉についての本。3冊目は『日本語パラグラフ・ライティング入門』(松浦年男、田村早苗著/研究社)です。アカデミアの世界で蓄積されてきた、論文や文章を書くノウハウを広く一般向けに公開。言葉をなりわいとする言語学者だけあって、取り上げている例も極めて分かりやすく、「文章をどう書けばいいのか分からない」という人には最適の1冊。

言語学者による文章指南

 文章の書き方を説いた本はたくさんありますが、言葉をなりわいとする言語学者による指南書は珍しいのではないでしょうか。『 日本語パラグラフ・ライティング入門 読み手を迷わせないための書く技術 』(松浦年男、田村早苗著/研究社)の著者のお二方はいずれも気鋭の言語学者で、松浦年男さんは音声学の専門家、田村早苗さんは意味や文法の専門家です。ちなみに松浦さんは私の九州大学時代の後輩、田村さんは京都大学に在籍していた頃の後輩でもあります。同じような教育を受けてきたせいか、すごく共感しながら読むことができました。

『日本語パラグラフ・ライティング入門』(松浦年男、田村早苗著/研究社)
『日本語パラグラフ・ライティング入門』(松浦年男、田村早苗著/研究社)
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 だいたい大学院に行くと、論文などの書き方についてみっちり仕込まれます。この本で紹介されていることは、新たに編み出された方法でこそありませんが、そういうアカデミアの現場で蓄積されてきたノウハウを、広く一般向けにかみ砕いてまとめてくれています。

 それに言語学者は言葉やコミュニケーションの専門家なので、書いてある内容に信頼感があります。言葉についてよく知っている分、うまい文章を書く方が多いのですが、その手の内を一挙公開する1冊です。

ポイントは2種類のメモと「ハンバーガー」

 本書のメソッドはかなり理論的です。まず、書き方の前に考え方を教えてくれるところから始まります。私もよく、とりあえずバーっと書き始めて、途中で訳の分からない文章になって困ることがありますが、それでは駄目だと。情報を整理して、書く内容を固めることから始めましょうと教えてくれるわけです。

 また、その教え方が実に懇切丁寧なことも、この本の特徴でしょう。例えば情報整理にはメモが不可欠で、そのメモにも2段階あると。最初はとにかくアイデアを出す「雑メモ」を作り、次にそれを整理しながら構造化する「パラグラフ・メモ」を作る。それを骨組みにして文章を書けば、まとまった内容になるというわけです。終始こんな調子で親切に教えてくれるので、学生さんでも社会人の方でも「これなら書けそう」と思えるのではないでしょうか。

 そもそもコミュニケーションの基本は、他者の前に自分と対話することだと思います。自分は何を考えていて、何をどう伝えたいのか。発言にせよ文章にせよ、それを整理するプロセスがまず必要ということを、改めて教えてくれます。

 それを踏まえてパラグラフ(段落)の書き方に進みますが、そこも具体的です。最初と最後に最も伝えたいことを書き、間にその理由となる説明や情報を挟んでワンセット。この本では、それを「ハンバーガー型」と称してイラスト付きで紹介しています。感覚的に分かりやすいように工夫しているわけです。

パラグラフは「ハンバーガー型」にする
パラグラフは「ハンバーガー型」にする
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 これを基本として、“肉”の部分に何を書けば説得力が増すか、文と文をどう接続すればいいか、文書全体を読みやすくするための工夫等々、具体的なテクニックがいろいろ紹介されています。私もすごく勉強になりました。今まで何を書いてきたのかと反省させられたほどです。

豊富な練習問題で実力のチェックを

 そしてもう1つ、本書の大きな特徴は練習問題が充実していること。それぞれの章に「基礎練習」が3段階くらいあり、さらにその後に「総合問題」が付いています。つまり一つ一つのテーマについて、本当に理解できたかを自分で確認できる。それも初歩的な問題から少しずつ難しくなる構造になっているので、習熟度まで分かるわけです。

 また、問題文も含めて多くの例文が登場しますが、いずれもすごく自然です。いかにもありそうで、何がポイントなのかが分かりやすい。この辺りも、普段から例文を作ることが多い言語学者の面目躍如といったところでしょう。

「言語学者は、文章の上手な人が多いですね」と話す川添さん
「言語学者は、文章の上手な人が多いですね」と話す川添さん
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 さらに最後には、それぞれのパラグラフをどうつなぐかというまとめの話と、学生のためのリポートの書き方や社会人のための報告書の書き方、プレゼンに向けた準備など、より個別の具体的なアドバイスもあります。

 いずれも基礎的な内容なので、「文章をどう書けばいいか分からない」という方の入門書として最適でしょう。あるいは分かっているつもりの方でも、この本で復習したり補強したりできると思います。問題をかいつまんで試してみるだけでも、自分の実力をチェックできます。

 それから、本書で紹介している「書く技術」は、恐らく「話す技術」としても応用可能でしょう。ハンバーガーを思い浮かべながら話の内容をサッと頭の中で組み立てれば、簡潔・明瞭に意図を伝えることができると思います。

取材・文/島田栄昭 取材・構成/桜井保幸(日経BOOKプラス編集部) 写真/木村輝