2026年の投資相場を読み解き、あなたのNISAやiDeCoのポートフォリオを考える参考書『資産運用の論点2026』(日本経済新聞出版)から、一部を抜粋してお届けします。今回は2026年の米国経済を展望します。

1回目 「債券自警団」がリスクに? 2026年世界経済の景気を展望 から読む

2026年の米国経済の二面性(yu_photo /stock.adobe.com)
2026年の米国経済の二面性(yu_photo /stock.adobe.com)

米国経済の堅調から鈍化への移行

 米国経済は全体として堅調さを保ちながらも、徐々に減速の兆しを見せています。労働市場では新規雇用者数の伸びが鈍化しており、これは景気の減速を示す一因となっています。ただし、その背景には移民制限政策による人手不足や、政府関連部門でのリストラによる雇用抑制といった供給サイドの制約も影響しています。したがって、雇用の鈍化は単なる需要不足だけでなく、労働供給の制約が絡む複合的な現象と言えます。

人口成長の長期予想(米労働力のカギとなる移民)
人口成長の長期予想(米労働力のカギとなる移民)
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 一方で、世界経済全体が堅調に推移していることもあり、米国内需や企業業績は底堅さを維持しています。こうした国際環境の追い風が、米国経済の減速を和らげる下支えとなっており、「雇用の鈍化」と「消費・業績の堅調」という二面性が現状を特徴づけています。
 また、FRBには「雇用の最大化」と「物価の安定」という二大責務があります。現在、雇用市場には鈍化の兆しがある一方で、物価は依然として目標の2%を上回っています。今後についても、世界経済の堅調さやドル安基調、移民制限の継続による人手不足からの賃金上昇、さらには関税の価格転嫁など、物価を高止まりさせる要因は数多く残されています。そのため、FRBの政策判断は従来以上に難しさを増しており、利下げシナリオとインフレ再燃リスクの両睨みが不可欠となっています。

AI投資の〝押し上げ〟と電力という制約

 生成AI関連投資が足元のGDP成長の約3割を占めるなど、成長をけん引しています。例えば、データセンター関連投資が急激に成長しています。もっとも、IEAはデータセンターの電力消費が2030年までに現在の倍に達する可能性を指摘しており、電力系統の増強やPPA(Power Purchase Agreement:発電事業者と企業が長期にわたって電力を確保する契約)の確保といった電源調達面が、実装上のボトルネックとなり得ます。また、生成AI活用の広がり方も注目されます。したがって、〝期待〞から〝実装〞への橋渡しが円滑に進むかどうかが、米景気の持続性を占ううえで極めて重要なポイントとなるでしょう。

米国におけるデータセンター投資の増勢
米国におけるデータセンター投資の増勢
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 さらに、中国でも生成AIの開発競争が加速しています。とりわけ2025年に登場した「DeepSeek」は、その計算効率と性能で世界的に注目を集め、米国中心だった生成AI分野に対抗し得る動きとして位置づけられています。中国政府はデータセンターやAI半導体の国産化を後押ししており、クラウド企業や大手IT企業も研究開発投資を拡大中です。こうした動きは、米国が牽引してきた生成AIブームが「一極」から「多極化」へと広がる可能性を示唆します。もっとも、輸出規制や国際的な技術アクセスの制約が残るなか、中国の生成AI開発がどこまで持続的な競争力を築けるかは、今後の世界経済における重要な焦点となるでしょう。

景気動向指数の読み解き

 景気動向を示す代表的な指標には、景気先行指数・景気一致指数・景気遅行指数があります。先行指数は市場や企業のマインドを、一致指数は実際の生産や消費活動を、遅行指数は雇用や在庫といった後追い的な動きを反映します。現状では、先行指数が長らく軟調で推移している一方、一致指数は堅調さを維持し、遅行指数はむしろ伸びを示すという景気局面が見られます。

米国景気先行・一致・遅行指数の動向
米国景気先行・一致・遅行指数の動向
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 過去の経験則からすると、こうした組み合わせは景気後退を連想させやすい局面です。今後の焦点は、一致指数=実体経済の活動が減速に傾くのか、それとも先行指数=マインドが持ち直していくのかという点にあります。前者であれば明確な景気鈍化であり、後者であれば新たな景気サイクルの開始となるでしょう。この「実体とマインドの乖離」がどちらに収斂するのかは極めて重要です。米国では格差拡大も指摘される中、貧困層側のマインド反発に資するインフレの落ち着きや、中間選挙に向けた景気刺激策や規制緩和の動向は、先行指数の改善を後押しする可能性がありますし、不透明感の台頭は企業の設備投資を抑制するなど、一致指数の調整につながります。

金融政策の転換と市場への波及

 FRBはインフレ抑制のために続けてきた高水準の政策金利を維持する姿勢から転じ、利下げを再開しました。これは企業マインドの改善に寄与し、国内景気の過度な冷え込みを防ぐことになります。ただし、市場は現在断続的な利下げを期待しています。過去はそのような局面は景気後退を伴っていました。現在の市場は景気のソフトランディングを前提としていますが、景気が軟着陸し、かつ断続的な利下げも行われる、というのはやや楽観的な期待が先行している感もあり注意を要するでしょう。
 しかしながら、米国の金融緩和は世界の金融市場にとっても安心材料です。特にドル建て債務を多く抱える新興国にとっては、ドル資金繰りの改善につながり、資本流出懸念を和らげる効果を持ちます。もっとも、トランプ政権の政策スタンスがFRBの独立性に影響を及ぼすリスクは依然として存在します。金融政策への政治的介入が強まれば、市場の予想形成や長期金利の動きに不確実性をもたらし、投資家心理の変動要因となるでしょう。

投資の時事テーマを1冊でカバー

2026年の相場を読み解き、あなたのポートフォリオ戦略を考える。「既存の投資方針をプロの視点で見直すための参考書」として、プロの現場で培ってきたポートフォリオ構築の思考プロセスを、誰もが実践できるよう体系化。

塚本 憲弘著/日本経済新聞出版/2,200円(税込み)