外食業界は、日々、激しい競争が繰り広げられている。しかし、一歩引いて業界全体を眺めてみると、外食業界には、中食や内食というライバルがあり、足を引っ張り合っていては共倒れになりかねない。吉野家CMO(最高マーケティング責任者)の田中安人氏は、肉関連の外食企業が互いに手を組めないかを妄想し、外食戦隊「ニクレンジャー」を結成し、社会現象を巻き起こした。田中氏の最新刊『 妄想力 答えのない世界を突き進むための最強仕事術 』から「作戦の裏側」をお届けする。

取り合うのは場所じゃなく、手と手

 2018年7月、僕たちは吉野家の公式ツイッター(現在のX)でこうつぶやいた。

 今週のボツ企画ww
 「肉関連企業を5社集めてニクレンジャーを結成する」
 ボツ理由→5社も巻き込むなんて実現不可能。 。 。
 お蔵入りさせるのがもったいないから投稿だけしてみた(˘ω˘)

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 僕は吉野家のCMOとして仕事をしながら、河村泰貴社長とともに外食産業全体をもっと強固な産業に育てていきたいと妄想していた。株式市場の業種分類を見ても、外食産業という項目はなく、サービス業の中に含まれている。外食産業は歴史が浅いわけではないが、個人経営が多いため景気の波の影響を受けやすく、産業としての基盤がやや弱い(2020年からのコロナ禍でもそれが顕著に表れた)。

 外食産業を盛り上げていくには、1企業だけが奮闘してもたかが知れている。これからの時代は、競争ではなく共創こそが企業のあるべき姿なのではないか。僕たちはかなり前からそんな議論をしてきた。

 そしてこんな妄想をした。

「ライバルと手を組んだらいけないと誰が決めた?」

 昨日の敵は今日の友! 普段、激しく競争しているライバルと一緒になって、外食産業を盛り上げるために協力したらいいのではないか。そもそもライバルと手を組んだらいけないと誰が決めたのか。

 こんな発想から、他社ともコミュニケーションを取りやすいツイッター(現在はX)で面白い企画を思いついた。

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田中安人(たなか・やすひと)
グリッドCEO、吉野家CMO(最高マーケティング責任者)。1965年京都市生まれ。89年大学卒業後、八百半デパート(後にヤオハンジャパンに社名変更)に入社。広告制作会社を経て、2002年に広告代理店を起業。10年マーケティング関連のコンサルティングを手がけるグリッドを設立。17年吉野家CMOに就任。HR(人事)、IR、経営戦略、海外戦略、マーケティング、スポーツマーケティング、ベンチャー投資、アドバタイジング・エージェンシーなどでの幅広い経験から、多くの企業のアドバイザーを歴任する(写真:鈴木愛子)

ガチのライバルはどう反応するか?

 ツイッターには「ボツ企画だけどもったいないから投稿した」と書いたが、これはウソではない。手を挙げてくれるライバル会社など現れないだろうというのが、社内の大方の見方だった。

 けれども、僕は可能性がゼロだとは思っていなかった。5社は集まらなくても、1社か2社は賛同してくれるだろう。そうなればゴレンジャーは無理だけど、ほかの展開ができる。

 ところが、実際に投稿してみると、まずガストさんが「面白そうですね。レッド貰(もら)ってもいいですか?」と反応してくれ、さらにケンタッキーフライドチキンさんやモスバーガーさんにも声をかけてくれた。

 残るはあと1社だが、僕たちはあえてガチのライバルである松屋フーズさんに声をかけることにした。「共創したい」という僕たちの本気度を世間に伝えるには、「ガチのライバル」の参加が不可欠だと僕は思った。僕も大人なので事前に吉野家社内に「松屋さんに声をかけるけれどいいですか?」と打診すると、すんなりOKが出た。

 松屋さんからも快諾をいただいた。やはり大義は強い。こうして「外食戦隊 ニクレンジャー」が誕生した。

 ガストレッド(ガストさん)、ケンタホワイト(ケンタッキーフライドチキンさん)、モスグリーン(モスバーガーさん)、マツヤイエロー(松屋さん)、ヨシノヤオレンジ(吉野家)。すごい面々がそろった。

右から、モスグリーン(モスバーガーさん)、ケンタホワイト(ケンタッキーフライドチキンさん)、ガストレッド(ガストさん)、ヨシノヤオレンジ(吉野家)、マツヤイエロー(松屋さん)。悪をにくんでおにくを愛す!
右から、モスグリーン(モスバーガーさん)、ケンタホワイト(ケンタッキーフライドチキンさん)、ガストレッド(ガストさん)、ヨシノヤオレンジ(吉野家)、マツヤイエロー(松屋さん)。悪をにくんでおにくを愛す!
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俳優・山田孝之さんも「これを見よ」と絶賛

 この「外食戦隊 ニクレンジャー」はSNS上で大いに盛り上がり、その後もファミリーマートさん(ファミチキレンジャー)やタニタさん(ニクレンジャーの敵役「ドクタータニタ」)、花王さん(敵役を助ける飲料のヘルシア)が加わった。

 このほかにも、作曲家の渡邉沙志さんがテーマソング『ニクレンジャーGo Fight!!』を自主的に制作してくれたり、絵本『外食戦隊ニクレンジャー 悪をにくんでおにくを愛す』(集英社みらい文庫)が出されたり。俳優の山田孝之さんはフェイスブックで、「競合競合言ってる人達よ、これを見よ。相乗効果だといつも言っているでしょう。取り合うのは場所じゃなく、手と手」と、ニクレンジャーの取り組みを称賛していただいた。

 その後も、ロールプレイングゲーム「モンスターストライク」とコラボしたほか、11月29日の「いい肉の日」に「#ニクレンジャーオールスターズ」という企画で、カレーハウス CoCo壱番屋さん(ココイチゴールド)や、ロイヤルフードサービスさん(てんやブルー)も参加していただくなど、僕たちも想定できないくらい多方面で盛り上がった。当然、テレビなどのメディアにも頻繁に取り上げられて社会現象になり、プロジェクトは想定以上の成果を収めた。

 また、「外食戦隊ニクレンジャー」は、クチコミマーケティング協会が毎年クチコミで盛り上がった企画を表彰するWOMJアワードで2018年のグランプリを受賞した。

「大義名分のある妄想」は最強

 このキャンペーンでの成功の秘訣は、「大義名分のある妄想」だ。「やや元気を失っている外食業界をもっと元気にしたい」という大義名分に異を唱える人はいない。だから、「ライバル企業の壁」を乗り越えて共創にもっていくことができた。そして、競合同士が共創したことに多くの人が驚き、応援してくれた。

 しかも、僕がすごいなと思ったのは、ニクレンジャーの4社は、いずれもツイッター担当者の判断で参加を決めてくれたことだ。参加社のある社長は、この企画がテレビなどで取り上げられているのを見て、初めて自社がニクレンジャーの一員であることを知ったという。予算が不要だったため担当者の判断で決められるという面ももちろんあるが、最初の投稿からわずか6日で4社が集結したスピードは、SNSならではと実感した。

 共創について、僕の妄想はこれで終わりではない。経営的な共創に向けて、データベースの共有や材料の共同調達の仕組みづくりまで、妄想はどんどん広がっている。パーパス経営に詳しい一橋ビジネススクール客員教授の名和高司氏によると、イケてる「志(パーパス)」の3要件は「ワクワク」「ならでは」「できる!」だという。

 ニクレンジャーのキャンペーンは、この3要素を見事に満たしていたと思う。僕たちも妄想をワクワクと楽しみつつ、自分たちならではの特長を生かして、「ライバル企業の壁」を越えて共創できることをもっと示していきたいと思っている。

今、企業に求められているのは、「世の中の課題」を解決して利益を上げ、成長していくこと。けれども、そもそも課題とは、専門家たちでも解決できないから、そこに積み残されているものです。解決するには、斬新で強力な発想、つまり「妄想力」が欠かせません。ただ、多くの人は、社会や組織に適応し、常識・慣習やルールが染みついていくにつれて、その力が封じ込まれてしまっています。本書は、その封印された妄想力を解き放つべく、著者のユニークな実例を基に指南します。

田中安人(著)、日経BP、1870円(税込み)

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