せっかく見つけた大量のチーズが、ある日突然消えてしまう。突然の「変化」にどう対応するのか――。世界的なベストセラー『 チーズはどこへ消えた? 』(スペンサー・ジョンソン著/門田美鈴訳/扶桑社)から学べることを、ボストン コンサルティング グループ(BCG)の森健太郎さんが解説。今回は、その他の関連するビジネス寓話(ぐうわ)も紹介します。『 ビジネスの名著を読む〔リーダーシップ編〕 』(日本経済新聞出版)から抜粋。

突然消えた大量のチーズ

 『チーズはどこへ消えた?』(原題 Who Moved My Cheese?)は、世界で2800万部販売されたベストセラーです。書店で変わったタイトルに目を引かれた読者も多いことでしょう。「ビジネス寓話(ぐうわ)」の代表作ですが、その独特な形式もあって好き嫌いが分かれるところです。

 著者のスペンサー・ジョンソンは心理学者で、『1分間マネジャー』(ダイヤモンド社)の共著者としても知られています。

 昔、あるところに2匹のネズミと2人の小人が住んでいました。彼らは毎日、巨大な迷路でチーズを探し回っていました。チーズは企業や人生における成功や幸せ、迷路は企業や人生を取り巻く環境の象徴です。

 彼らは毎朝早起きして、ランニングシューズを履いて、勤勉にチーズを探します。ネズミはシンプルながら、抜群のフットワークを生かしたトライ・アンド・エラーのアプローチで、対する小人は持ち前の頭脳を生かした知性と分析力で挑みます。

 ある日、ネズミと小人はそれぞれ独自のやり方で、C区画に大量のチーズを見つけます。これまでに見たことのない大量のチーズでした。

 それから毎日、ネズミと小人はC区画に通ってはチーズを満喫します。大量のチーズに囲まれ、夢のような生活でした。それは永遠に続くようにさえ思われました。

 ところが、その大量のチーズがある日突然消えてしまうのです。突然の「変化」にネズミと小人はどう対応するのでしょうか。ネズミが「チーズはなくなってしまったのだから、早く次の場所を探そう!」と走り出すのに対して、知性が高いはずの小人の方は事実を直視できず、C区画にしがみついてしまうのです。

ある日突然、大量のチーズが消えてしまう(写真/shutterstock)
ある日突然、大量のチーズが消えてしまう(写真/shutterstock)
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 小人が(私たち個々人や企業が)、なぜ変化を素直に受け入れないのか、最終的にどのように変化に対応していくのか。ネズミと小人の物語を追いながら、考察したいと思います。

たった1分間でできる3つのこと

 『チーズはどこへ消えた?』の中身については次回からじっくり読み進めていくとして、その前に同書に関連するビジネス寓話を2冊ほどご紹介したいと思います。

 まずは、ジョンソンの著作からもう1冊。『1分間マネジャー』(原題 One Minute Manager)は、世界中で1300万部の販売を誇るベストセラーです。世の中のマネジャーは得てして「結果は出すが、部下がついてこない」タイプか、「部下には優しいが、結果が出ない」タイプかのどちらかに分かれます。そんな中で「結果も出し、部下もついてくる」究極のマネジャーを探し求める若き青年の前に突如現れたのが、その名も「1分間マネジャー(One Minute Manager)」でした。

 その秘訣は、意外にも「たった1分間」でできる、次の3つのことを実践するという、極めてシンプルなものでした。

(1)1分間目標設定(One Minute Goals)
(2)1分間称賛法(One Minute Praisings)
(3)1分間叱責法(One Minute Reprimands)

 シンプルさゆえにいろいろと批判も多いようですが、あえてたった3つに絞り込んだ潔さが、本書の魅力と言えましょう。あれもこれも実践するのは難しいですから。恥ずかしながら、これらすら実践できていない私にとっては、いずれも耳が痛い身にしみる内容です。

部下は目標をわかっていない

 1分間目標設定は、自分の部下が達成すべき目標(ゴール)を、250語(1分間で読めるくらいの分量)以内に簡潔に記して、部下と共有するというものです。部下というものは意外と、最終的に何を達成すればよいのかよくわからないまま、言われた作業をとりあえずやっていることが多いもの。「20対80のルール」に従って、8割の成果を生み出す2割の重要な目標に絞って設定することが重要です。

 1分間称賛法は、まず、部下をほめること。部下を持っていらっしゃる方、「今日、部下をほめましたか」。私も日々反省です。部下の正しい行動に対して、時間をおかずに、具体的にほめるのがポイント。特に部下が新たなプロジェクトに取り組み始めた時や、新しく異動してきた時などは、新しいチャレンジを前に不安な気持ちでいっぱいです。そんな時こそ、普段よりも注意深く部下を観察し、よい点をほめてあげましょう。

 1分間叱責法も直ちに、具体的に伝えることがポイントです。その際、あくまでも、今後改めるべき部下の具体的な行動に言及するのであって、部下の人格や性格を否定しないこと。最後は、部下に期待しているということを伝えて、「これで、おしまい!」とする。

 シンプルだけど難しい、いや、シンプルで本質を突いているからこそ難しいのでしょうね。

困難を乗り切る8つのステップ

 2冊目は『 カモメになったペンギン 』(原題 Our Iceberg is Melting/ジョン・P・コッター、ホルガー・ラスゲバー著/藤原和博訳/ダイヤモンド社)です。ペンギンたちのイラストがかわいくて、思わず手にしてしまいました。リクルート出身で、東京都杉並区立和田中学校の校長も務められた藤原和博さんが、翻訳を手掛けられています。

 『チーズはどこへ消えた?』がどちらかというと「個々人」の変革に焦点を当てた物語なのに対して、『カモメになったペンギン』では「組織」の変革がテーマです。ハーバードビジネススクールのジョン・コッター教授の著書『 企業変革力 』(原題 Leading Change/梅津祐良訳/日経BP)がベースとなっています。

 さて、物語は原題「Our Iceberg is Melting」(氷山が溶けちゃうよ)からご想像いただける通り、長年住んでいた氷山が溶けてしまうという未曽有の危機に、ペンギンたちがどう立ち向かい、乗り越えたかというお話です。

 好奇心と優れた観察力で誰よりも早く予兆に気づく若者フレッド、保守的なリーダーペンギンの中でいち早く理解者となるアリス、持ち前の大局観と調整力で変革の環境を整える党首ペンギンのルイス、誠実さと誰からも好かれる人柄でペンギンたちの不安を和らげるバディ……。

 そして、幼稚園に通う幼いひな鳥までが、コロニーの役に立ちたい! と親鳥を巻き込んでいく……。

 人間味(ペンギン味?)あふれるストーリーは、感動すら覚えます。物語のあらすじはここでは控えますが、物語はコッターの定義する「8段階の変革プロセス」に沿って進みます。

(1)危機意識を高める
(2)推進チームをつくる
(3)ビジョンと戦略を立てる
(4)ビジョンを周知する
(5)メンバーが行動しやすい環境を整える
(6)短期的な成果を生む
(7)さらなる変革を進める
(8)新しいやり方を文化として根づかせる

 コッターによると、組織を変革しようとする時に、(5)~(7)のみを実践しようとしがちだが、実は(1)~(4)の初期段階が極めて重要ということです。企業変革、組織変革に興味がある方には、お薦めの1冊です。

『チーズはどこへ消えた?』の名言
『チーズはどこへ消えた?』の名言
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