中学受験は子どもだけの戦いではなく、夫婦のあり方をも問う場です。長期にわたる受験期に良好なコミュニケーションを維持することが成功のカギになります。『 不機嫌な妻 無関心な夫 うまくいっている夫婦の話し方 』『 話し方で損する人 得する人 』(いずれもディスカヴァー・トゥエンティワン)などの著書があり、メディアで活躍する作家で心理カウンセラーの五百田達成(いおた・たつなり)さんに、中学受験に臨むにあたっての夫婦のコミュニケーションについて伺いました。日経ムック『中学受験を考えたらまず読む本 2026年版』から抜粋・再構成。
仲の良い夫婦でも価値観は違う
夫婦間のコミュニケーションを考えるうえで前提となるのが、夫婦というのは親やきょうだいとは違って、結局は他人であるということ。パートナーは「家族」というよりも「ベンチャー企業の共同経営者」のようなものと捉える必要があります。
そうすると、子どもの中学受験は夫婦というベンチャー企業が乗り越えるべき一大プロジェクトと例えることができます。実際の仕事を考えてみればわかるように、そのようなプロジェクトに取り組むにあたっては、「きっと理解してくれるだろう」「言わなくてもわかっているはず」という前提は通じません。プロジェクトのあらゆる選択において、片方だけに責任を押しつけるのではなく、夫婦双方がコミットしながら話し合っていく必要があります。
作家・心理カウンセラー
ただ、中学受験が難しいのは、価値観が人によって大きく異なるという点です。例えばマンション購入のようなプロジェクトであれば、販売価格や将来的な地価の予測、周辺の環境条件や専門家の意見など、様々なデータを裏付けとして選択肢を検討していくことができます。しかし中学受験をするかどうか、受験するならどの学校がいいかといった選択は、夫婦それぞれが育ってきた環境――都会か地方か、公立校出身か私立校出身か――などによって価値観が大きく変わり、しかも自分が歩んできた道が「正しい」と思い込みがちなゆえに衝突が生じやすいのです。
ですから、まずするべきは「なぜ中学受験をするのか」を明確にすることです。受験を通じて子どもにどんな経験をさせたいのか、どういう結果であれば子どもの“幸せ”につながるのか、そしてその“幸せ”とはどんなものなのか…。ここをまず徹底的に話し合って、お互いが納得する形でスタートできるのがベストです。
意見が一致しないときはどうするか
どうしても意見が一致しないということもあるでしょう。そういうときには「今回だけは私に任せてほしい」と強く主張し、もう一方が譲るという形もあってよいと思います。ただし、その場合も、「任せたんだから後は知らない」という責任転嫁ではなく、一度決めたことには共に協力しながら進んでいくという覚悟が必要です。重要なのは、あくまでも夫婦が納得したうえでの決定であるという点なのです。
また、中学受験は長期にわたるプロジェクトですから、日々の情報共有や進捗の確認、見直しも欠かせません。場合によっては方針転換も必要になるでしょう。そんなときも一方が勝手に決めたりはしないこと。たとえけんかになっても、とにかく対話を続けることが、お互いの考えや価値観を理解し直すことにもつながります。
また、何か判断に迷ったときにぜひ大事にしてほしいのが、「夫婦ファースト」という考え方です。塾の先生や実家の祖父母、近所のママ友、パパ友など、子どもを取り巻く人々から、様々な意見をもらうこともあるでしょう。もちろん有益な情報は参考にすればよいですが、あくまでも判断基準は「夫婦が幸せでいられること」が優先。夫婦が幸せで笑顔でいることが、結果的に子どもの安心や前向きな姿勢につながるのです。
その意味で、子どもの前ではできるだけ一枚岩となって接することがとても大事です。親が衝突したり、互いに責任をなすりつけ合ったりする姿を見ると、子どもは自分のせいで親が不仲になったのだと感じてしまいます。
中学受験は子どもだけの戦いではなく、夫婦のあり方をも問う場です。家庭というベンチャー企業の共同経営がうまくいけば子どもは安心して挑戦できますし、たとえ結果が思い通りでなくても、それを家族の成長の一部として受け止められるでしょう。
中学受験が、夫婦のあり方や家庭のあり方、家庭にとっての幸せのあり方を見直すきっかけになればと思います。
夫婦は親・きょうだいとは違って結局は他人。他人として敬い、気遣うことが大事。
★ホウレンソウをさぼらない
相手はビジネスパートナー。報告・連絡・相談を怠らず、常に情報共有を。
★自分の常識を押しつけない
価値観の違いを認め、「家の常識」を決めるべく2人で話し合う。
★2人で責任をもつ
一応の担当はあっても、原則は「すべて2人で責任をもつ」。
★ルールを常にアップデートする
夫婦のルールは時とともに変わるべき。違和感が生まれたらルールの改善を。
★第三者の手を借りる
キャパオーバーになり行き詰まったときは積極的に外部に助けを求める。
★何度でも繰り返しリマインド・確認する
「伝わってるはず」は誤解のもと。LINEなどのツールも使ってリマインドを。
★自分たちなりの理想を模索する
他の家族との比較ではなく、主語を「We(私たち)」にして目標を言語化する。
★妥協点を探し続ける
互いのこだわりを押しつけるのではなく、一つひとつ価値観のすり合わせを。
★変更前に必ず相談
夫婦の約束は納期・契約と同じ。約束をほごにしたり勝手に変更したりしない。
※五百田達成著『不機嫌な妻 無関心な夫』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)を参考に編集部作成
取材・文/葛原武史
最新の受験情報から基礎知識、塾選び、マネープランまで知っておきたい情報が満載。巻頭特集では、長く続く受験期で大切な夫婦間、子どもとのコミュニケーション手法を五百田達成さん(作家・心理カウンセラー)、にしむら先生(受験指導専門家)が具体例をあげて解説。
日本経済新聞出版編/日本経済新聞/1760円(税込)


