長期間におよぶ中学受験。子どものモチベーションを保つコミュニケーションの方法、保護者の間やネットにあふれる膨大な受験情報の見方や選択方法などについて、YouTube「にしむら先生」として中学受験情報を発信する西村創さんと作家で心理カウンセラーの五百田達成さんに伺いました。日経ムック『中学受験を考えたらまず読む本 2026年版』(日本経済新聞出版)から抜粋・再構成。

親は受験情報のアップデートを

中学受験に挑むことになった場合、親の関わり方として注意するべき点はありますか?

西村 例えば親御さん自身が経験した30年前の中学受験、ましてや大学受験の経験から子どもにアドバイスしようとして失敗するパターンは多いですね。

五百田 夫婦間コミュニケーションについて解説した記事(「 中学受験を乗り切る夫婦のコミュニケーション術 10のポイント 」)でもお話ししましたが、自分が成功した経験は子どもに伝えたくなるし、そのやり方が正しいと思い込みがちですよね。

西村 やはり今も昔も中学受験は大変なイベントですから、大変だった部分が強く印象に残ってしまうんですよね。苦労した分、その記憶が美化されて成功体験として語りたくなるということだと思います。

五百田 確かに、自分はすんなり合格した、という人はあまり子どもにもとやかく言わない人が多いかもしれませんね。自分が苦労して、いろんなものを我慢して成功した人こそ、その価値観を子どもに押しつけようとしてしまう。その点には注意が必要です。

西村 同様に、最近は子どもの中学受験が成功した親御さんが、その体験だけで「こういうときはこうするべし!」といった情報をSNS(交流サイト)などで発信するケースも多く見られます。ですが、それらもたった1人の事例に基づく経験談にすぎないので、あまりうのみにしないほうがよいですね。

西村 創(にしむら・はじめ)さん
受験指導専門家
早稲田アカデミー、駿台予備学校、河合塾Wingsなどで指導歴25年以上。現在はセミナー講演や書籍執筆、YouTubeチャンネル「にしむら先生 受験指導専門家」の配信などを中心に活動。『 改訂第2版 中学歴史が面白いほどわかる本 』(KADOKAWA)など著書も多数。(写真:竹田宗司)

五百田 中学受験に臨む状況は地域や学校、家庭によってまちまちなわけですから、すべての子どもに当てはまるような絶対的な正解はないということですよね。

子どもとの効果的なコミュニケーション

中学受験の長い道のりの中で、子どもの勉強へのモチベーションを保つために効果的な声かけなどはありますか?

五百田 例えば私がよく言うのは、ビジネスの世界では年上の人間が年下の人間に話すときはどうしても一方通行になりがちで、つい教えたり説教したりしてしまう。そうではなくて、ダサいと思われようとも「最近どんなことがはやってるの?」「TikTokってどんなもの?」などと、相手に教えを請うくらいがちょうどいいと思うのですが、これは親子にも当てはまりますよね?

五百田達成(いおた・たつなり)さん
作家・心理カウンセラー
米国CCE,Inc. 認定GCDFキャリアカウンセラー。東京大学教養学部卒業後、KADOKAWA、博報堂などを経て独立。「コミュニケーション心理」「社会変化と男女関係」などを専門とし、個人カウンセリングやセミナー、講演、執筆など幅広い分野で活躍中。『 不機嫌な妻 無関心な夫 うまくいっている夫婦の話し方 』『 話し方で損する人 得する人 』(いずれもディスカヴァー・トゥエンティワン)など著作も多数。(写真:竹田宗司)

西村 そうですね、まず親が勉強を教えすぎるのは避けたいですね。塾と違うやり方で教えられても子どもは混乱しますし、気持ちがどんどん冷めてしまいます。それよりも、子どもが何かできたときに「こんなこともできるの?」と感心したり、「この問題ってどう解くの?」と教えてもらったりするのがよいと思います。これには、子どもの自己肯定感を高めるだけでなく、教えることでより学習内容の定着が図れるという効果もあります。

五百田 いわゆる「ラーニングピラミッド」の理論でも、「他人に教える」ことが最も学習定着率が高いとされていますね。塾で授業を受け、1人でドリルに取り組むより、親にその日学んだことを話したり教えたりすることでより記憶に残り、学習効果が高まるわけですね。

子どもと決める志望校

志望校選択などの場面では、親はどの程度関与するのがいいのでしょうか?

西村 第1志望の学校に関しては、子どもの希望で決めさせるのがいいと思います。それが勉強へのモチベーションにもなりますから。ですが、第1志望の学校に入れる子は受験生の3~4割程度。ですから多くの子が実際に進学するのは第2志望、第3志望、第4志望ということになります。首都圏では、この第2~第4志望あたりの学校については、校風や通学時間、偏差値などから5~10校ぐらいをピックアップして、その中から親子で話し合って決めていくといいでしょう。

五百田 なるほど、それだとある程度、親の希望も入れつつ、双方が納得できる志望校選びができそうですね。

西村 親がある程度、情報収集した中から候補の学校を選んで、子どもが興味をもった学校があったら一緒に説明会や文化祭などに行ってみる。その中からどの学校がいいかを選んでいけば、「子どもはこっちだけど親はこっち」みたいな衝突は起こりにくいと思います。

五百田 そのためにも、親は自分の中の情報をアップデートして、最新の学校情報を集めていく必要がありますね。

西村 はい、首都圏には300以上の私立中学がありますし、この30年で偏差値が30以上、上がった学校もあります。昔の常識はほぼ通用しないと思ったほうがいいです。

夫婦の意識は一致しなくてよい

母親と父親で中学受験への意識や熱意が違う場合、子どもにはどんな影響がありますか?

西村 私はむしろ夫婦の意識はぴったり一致しないほうがいいと思っているんです。一番リスクが高いのは、母親と父親ともに受験熱が高くて「もっと頑張らせよう」と一致団結してしまうこと。これでは子どもの逃げ場がなくなってしまいます。

五百田 例えば母親が無理に子どもを頑張らせようとしていたら、父親はちょっとテンション低めなくらいがちょうどいいということですね。もちろん、そのつど情報の共有はするにせよ、すべてにおいて価値観をすり合わせようとするのは無理がある。それならば、どうすれば子どもが気持ちよく勉強できるかという観点から、どちらかがいったん譲歩することも必要になりますね。

西村 もし、どうしてもお互いに譲れないという状況になったら、第三者を入れて話し合うこともおすすめします。公平な立場の人間がいることで感情的にならず、冷静に話し合うことができますから。塾の先生に協力してもらうというのも1つの手ですね。

五百田 ちなみに、中学受験に臨む2~3年間、家族の間にある程度の意見の対立や価値観の違いが生まれても、終わってしまえば何とか丸く収まるということが多いのでしょうか?

西村 そう思いますね。中学受験は感情が増幅されるので、悔しいときはとても悔しいし、うれしいときはいつもの何倍もうれしい。第1志望に合格すればもちろんベストですが、第2、第3、第4志望の学校になったとしても、いざ通えばその学校なりのよさに出合えますし、「この学校でよかった」となる家庭は多いですね。

中学受験がゴールではない

最後に中学受験を考える保護者の方にメッセージをお願いします。

西村 親が決めつけず、押しつけず、子どもと一緒に試行錯誤しながら中学受験を乗り越えてほしいと思います。そして、子どもにとっては決して中学受験がゴールではないということを忘れないでいただきたい。ゴールは12歳でもなく15歳でもなく18歳でもない。子どもが自分と同じくらいの年齢になる頃にどんな人生を送っていてほしいかを考えて、わが子に向き合ってください。

五百田 コミュニケーションの観点からいうと、夫婦はもともと他人同士ですし、親子であっても別個の人格。ですから自分の価値観を押しつけすぎず、それぞれ1人の人間として尊重しながら関わっていくことが大事なのだろうと思います。そして、長い人生、子どもと一緒にいられるのも20年程度と考えれば、親子で取り組む中学受験というイベントを、いずれ老夫婦になったときに笑って振り返られるような貴重な時間にしてほしいですね。

長期間の中学受験には円滑なコミュニケーションが大切(写真:folyphoto/stock.adobe.com)
長期間の中学受験には円滑なコミュニケーションが大切(写真:folyphoto/stock.adobe.com)

取材・文/葛原武史

中学受験の今を知り、未来を決める1冊

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日本経済新聞出版編/日本経済新聞/1760円(税込)