2000年代に入り、超低金利が続いた日本。2024年3月マイナス金利が解除となり、17年ぶりの高水準になる。長年の環境下で醸成された企業と金融の関係性はどう変わるのか。企業は、これからどのような対応が求められるのか。新刊『BCGが読む経営の論点2026』(日本経済新聞出版)から抜粋する。第1回の筆者は、ボストン コンサルティング グループ(BCG)で金融領域を担当している久保直人氏と、渡辺哲也氏。

金利の上昇で企業に何が起こるか?

 金利が上昇局面に入ると、企業の資金調達環境はどのように変化するのだろうか。

 まず考えられるのは、銀行がリスクとリターンの見極めをより厳格に行うようになることだ。余剰資金で国債を購入すれば、預金金利と国債の利回りの差で一定の収益が確保できるので、銀行にとって貸出先を探す切迫性が薄れる。
 一方、これまで金利負担が軽いからと借り入れ依存度を高めていた企業においては、急な利払いコストの増大により、財務状況が一気に悪化もしくは信用力が低下するリスクが生じる。
 これは銀行から見ると、与信リスクが増大し、自行の貸借対照表(バランスシート、B/S)の悪化にもつながりかねない。そこで貸出先を厳しく選別し始める。つまり、事業会社にとっては銀行借り入れの金利コストだけでなく、借り入れ難度も上昇してしまうのだ。

金利上昇下で表れる3つの経営課題

 こうした局面では、企業は事業と財務を一体で管理し、自社の信用力をコントロールすることで、調達力や調達コストを維持・改善していかなくてはならない。具体的には、①財務観点での事業ポートフォリオ管理、②自社の信用力の管理、③資金調達の多様化、が重要課題となる。

 第1の事業ポートフォリオ管理においては、損益計算書(P/L)面、つまり売上成長率や利益率だけでなく、各事業のビジネスモデルを見極め、全社における位置づけを定義していくことが大切だ。
 たとえば、成長率は高くても、同時に多くの資金が必要となる事業なのか。それほど成長は見込めないが、安定的にキャッシュが入ってくる事業なのか。また、不動産などのハードアセット(売却価値のある資産)に投資するタイプの事業であれば、それを担保に資金調達することで、企業自体の調達余力を残したり、事業リスクを切り離しやすくしたりできるかもしれない。一方、ITソフトウェア事業のようにハードアセットがない事業では、ひとたび事業が行き詰まると、企業全体の資金調達や信用力にダイレクトに悪影響を及ぼすリスクがある。このように、これまであまり注目してこなかったB/S面も考慮に入れて、事業ポートフォリオを整理する必要がある。

 第2の信用力の管理は、間接・直接金融市場からの安定した資金調達に欠かせない。これまでは銀行間の熾烈な競争により、信用力が低い企業でも、信用力の高い企業並みの好条件で借り入れできるケースも多かったため、自社の信用力や格付けを気にする動機が弱かった。
 しかし今後は、そうした歪みは解消に向かうだろう。銀行借り入れに依存することが難しくなり、直接金融である社債や市場型間接金融で、投資家から資金調達する機会が増えれば、自社の格付けに敏感にならざるをえない。S&P(スタンダード・アンド・プアーズ)やムーディーズといった格付け会社が評価対象とする項目を把握し、それらをKPI(重要業績評価指標)に設定して管理しなくてはならない。

 第3の資金調達の多様化という点では、機動性を確保しつつ資金調達コストを抑えるために、事業や資産を担保にした調達手法を活用したり、直接金融市場からの調達ルートを確保したりするなど、資金調達の選択肢を増やしていくことも重要になってくる。
 事業から得られるキャッシュフローを返済原資とする「プロジェクトファイナンス」や、返済不能になっても担保とした資産以外には返済責任が及ばない「ノンリコースローン」の活用は、大規模な資金調達を必要とする一部の大手企業に限られてきた。ほとんどの企業は、そうした複雑な仕組みや手数料のかかる調達手法を使わなくても、安価な銀行借り入れで間に合っていたからだ。
 しかし今後は、会社の信用力や銀行からの借入可能額を超える資金需要が生じれば、これらのファイナンス手法やハードアセットの供与、銀行以外の貸し手からのローンの活用なども検討せざるをえなくなるだろう。

企業が考えるべきはそのほかにもある

 ところで、金利が上昇しても、手元資金や内部留保が潤沢にあるので、現状の事業ポートフォリオのままでも支障はないと思っている企業もあるかもしれない。残念ながら、少なくとも上場企業はそれでは通用しなくなっている。というのも、近年では“モノ言う株主”であるアクティビストが台頭し、株主還元や資本効率の向上を求めて日本企業の経営層にプレッシャーをかけるようになっているからだ。過度な内部留保や低採算事業はアクティビストの格好の標的となる。それを避けるためには、撤退も含めて事業ポートフォリオを組み替えて、より効率的な投資を考えざるをえない。

 さらに、日本政府は、コーポレートガバナンス(企業統治)改革に向けた取り組みを強化しており、スチュワードシップ・コード(責任ある機関投資家の行動指針)やコーポレートガバナンス・コードの策定・改訂を進めることで、投資家による企業への牽制機能と投資家の権利保護や透明性のある情報開示の強化を図っている。こうした背景から、資本ガバナンスも強化しなくてはならない。

(写真:moonrise/stock.adobe.com)
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世界有数の戦略コンサルティングファームであるボストン コンサルティング グループのコンサルタントは、2026年以降の経営・ビジネスシーンをどう展望しているのか? 選りすぐりの重要論点を多様な業界、企業との取り組みを通じ獲得した実践知をもとに、解説する。

ボストン コンサルティング グループ編/日本経済新聞出版/2200円(税込み)