「無印良品」を展開する良品計画の業績が好調だ。3期連続の過去最高益を見込み、株価は3年前と比べて5倍ほどに伸びている(株式分割考慮ベース)。好調の理由を、新刊『 MUJI解剖 ヒットを生み続ける「問いの立て方」 』から抜粋して紹介する。前回「なぜ無印良品が好調か? ファストリ出身・前社長の知られざる戦略」に紹介した、前社長の立てた戦略が当たった結果が今の好業績。目指したのは「食品スーパーと無印良品さえあれば生活の基本を整えられる、日常使いの店」。分かりやすく言い換えるなら「食品スーパーと無印良品さえあれば生きていける」という世界観だ。象徴的なヒット商品と共に読み解く。(文中敬称略)
(前社長の)堂前(宣夫)はよって立つ理念を明確にした上で、ラディカルな改革を本格化していく。キーワードは「日常生活の基本商品」と「全国津々浦々への出店」。具体的な施策を見ていこう。
あえてレッドオーシャンに飛び込む
まずは「日常生活の基本商品」だ。先述した通り、良品計画は郊外店舗を念頭に日用消耗品を次々と開発した。
日用消耗品は、日用品メーカーにとっての主戦場でもある。無印良品ではドラッグストアや百円均一ショップとのすみ分けを意識し、取り扱いを抑えてきた。しかし、21年から、あえてそのレッドオーシャンに挑む準備を進めた。
東京・東池袋にあった当時の本社ビルの会議室。毎週火曜日の午後2時に開く商品戦略会議では、生活雑貨担当の嶋崎(朝子=上席執行役員)や堂前、当時会長だった金井(政明)に加えて、商品開発担当者らが集まり、商品政策を練った。
毎回、机の上には、洗剤や洗濯用品、キッチン用品などの、自社商品と大手メーカー品が並んだ。無印良品の品ぞろえに何が欠けているか、改良点は何かを明らかにするためだ。
そして22年以降、独自の切り口で日用品の品ぞろえを拡充し、ヒット商品が次々と生まれた。
例えば「再生紙トイレットペーパー5倍巻」。業務用で使われていた大容量の5倍巻きを家庭用に採用した。1個ずつばら売りし、手軽に持ち帰ることができ、保管スペースも少なくてすむようにした。
「消臭機能付き くりかえし使える除湿剤」は、日陰干しすれば、繰り返し使える点が好評となったヒット商品だ。買い替えの手間が省け、ゴミも減らせる。
「野菜や果物の鮮度を保つポリエチレン袋」は、野菜や果物を包んで保存すると鮮度を保てる。袋の成分にホタテの貝殻を混ぜ、アルカリ性にして野菜を劣化させる菌の繁殖を抑える。
「浅型水切りネット」や「再生ポリエチレン入り ごみ袋」は、税込み99円と手ごろな価格にした。

こうしたヒットが重なり、生活雑貨部門の国内売上高は、21年8月期からの4年間で約6割増え、2305億円(海外を含むと3681億円)に拡大した。
25年8月期は、日用品の国内売り上げが同年2月までの9カ月間で前年同期より4割増えた。
来店動機につながる新たな看板商品が生まれたことで、リピート客を増やす効果があった。引っ越しシーズンや季節の変わり目だけでなく、通年で顧客が来店するようになり業績が下支えされた。
販促にも経営方針の変化が表れている。テレビや動画配信サービスなどで見られるスキンケア用品のCMが典型例だ。以前は無印良品が一つの商品にフォーカスして宣伝することはなかった。
そもそもメディアを使った広告自体に消極的で「『お店自体が広告なんだ』という時代が長かった」と取締役上席執行役員の高橋広隆は振り返る。良い商品さえつくればお店を通じて消費者に伝わり、買ってもらえる──。そんな固定観念を捨て、殻を破ったのがこのCMだった。
「マーケティング」の部署がなかった無印良品
ブランド認知度の高い無印良品が、個別商品をアピールするのは当然でもある。それを避けていたのは、「個別商品というよりもライフスタイル全体を提案するブランドである」という自意識が強かったためとみられる。
そして伝統的に販促への忌避感が根強かったこともある。その証左として良品計画には25年にマーケティング部が設けられるまで、「マーケティング」を冠する部署がなかった。
「以前は頑固な会社だったが、いい意味で『普通の会社』になった」と社外のある関係者は語る。
日用消耗品の拡充とともに取り組んだのが、「全国津々浦々への出店」。つまり、郊外への積極出店だ。郊外出店が軌道に乗ったことが、最高益の原動力となった。
地域スーパーに無印良品を併設する魅力
2025年6月、札幌市に隣接する北海道江別市で無印良品が開業した。広大な駐車場には平日もクルマが続々と入ってくる。
同店舗は地場スーパー「コープさっぽろ」の店舗と隣り合い、連絡通路でつながっている。近年の出店戦略を象徴する店舗だ。

郊外では地場スーパーの隣を中心に出店した。顧客にスーパーと無印良品をセットで利用してもらうことで、無印良品の集客力を高められる。
北海道で組んだのが、コープさっぽろ(札幌市)だ。21年に札幌市にある同社店舗の2階に、無印良品が道内初の併設店として開業した。
コープさっぽろ理事長の大見英明は「子育て層など若い顧客がうちの店に来てくれるようになった。両社の相乗効果がはっきり読み取れた」と手応えを語る。

人口減少が進む地方で「三方よし」
無印良品は食品でもスーパーやコンビニとのすみ分けを意識して商品を開発している。
隣接するスーパーともカニバリ(共食い)を起こさず、共生関係を築ける。
両社の協業は隣接出店にとどまらない。22年からはコープさっぽろの宅配サービス「トドック」で、そして24年からはコープさっぽろの一部店舗で、無印良品の商品を扱っている。
コープさっぽろは道内で無印良品の商品物流も一部担っている。コープさっぽろ傘下のさくら食品は「北海道ミルクのソフトアイス 塩ミルク」など無印良品のアイスの一部を製造している。
両社の協業が始まったきっかけは、堂前が専務だった20年に札幌市のコープさっぽろ本部を訪問したことだ。応接室で大見と向き合い、意気投合した。堂前は、コープさっぽろの社外取締役に当たる学識理事に22年から就いている。
良品計画は北海道以外でも各地でローカルスーパーとの併設店を出している。長野県では「ツルヤ」、新潟県では「原信」、山形県では「ト一屋(トイチヤ)」といった具合だ。
地方では人口減少が進み、地元スーパーの経営環境が厳しくなっている。無印良品が集客に一役買えれば、地元のスーパーが存続しやすくなり地域住民の利便性も維持できる。いわば「三方よし」となるわけだ。
「逆張り戦略」の成否はいかに?
とはいえ良品計画にしてみれば、都市部への出店が中心だった無印良品を人口減少が進む地方に出店する「逆張り戦略」になる。
大和証券シニアアナリストの川原潤は郊外出店について「当初はうまくいくのか読めなかったが、思っていた以上に成果を上げた」と語る。
小売業では、売り場1坪(3.3m2)当たりの売り上げを示す「坪効率」が重要指標の一つだ。店舗面積のわりに商圏人口が少ない郊外に出店したことで、良品計画の坪効率は21年8月期から4年間で約2割落ちた。
しかし、1店舗当たりの営業利益は24年8月期で増加に転じ、25年8月期も伸びた。
郊外店は家賃が安いため、売り上げが伸びると利益が出やすい。坪効率の低下はビジネスモデル転換に伴って店舗のコスト構造が変わったことを映し出している。
足元で坪効率は持ち直しており、25年8月期は前期比で8%増えた。経営企画担当執行役員の宝地戸健太は「店舗間のばらつきはあるが、坪効率は全体的には回復傾向にある」と強調する。
新社長によるチューニング
24年、堂前に代わって清水(智)が社長に就任し、経営を舵取りしている。
清水は郊外出店について「最初は失敗もあったが、成功パターンが見えてきた」と言う。
郊外店舗は車で来店するロードサイド型が主力。幹線道路沿いは周辺住民の使い勝手が良く、店舗の外観や看板を見やすいように工夫すれば集客しやすい。
堂前は郊外店の強化について、全国津々浦々への出店という言葉を使っていたが、清水は「お客様の利便性が高いところに(新店を)出す」と言い換えている。収益性を重視しながら出店する姿勢を鮮明にした。
[日経ビジネス電子版 2026年9月11日付の記事を転載・改題]
梅國 典(著)/日経BP/2200円(税込み)
